一生一緒呪物~一生この愛をてばなさないで、呪(じゅ)ッ♡~

夏伐

最近流行りの婚約破棄

 婚約指輪――それは一生を一緒に添い遂げようという強い誓いの込められたアクセサリーである。


 私の目の前には二種類の指輪がある。

 片や乱雑に箱に詰め込まれた大量の廉価品の指輪。もう片方はとても緻密な細工のされている効果な婚約指輪だ。


 昨今、若い貴族たちの間で流行っている『婚約破棄』。

 熱に浮かされたように『真実の愛』を見つける彼らの物語は比較的、バッドエンドが多い。


 はたして、彼らは一様にしてこの量産された指輪を所有していた。


 そしてもう一つはこの一対しか存在しない美しい指輪。量産された指輪に似たデザインだが、こちらがオリジナルだ。

 大元になった指輪は『呪いの指輪』として有名な逸話を持っている特急呪物。


「本当に厄介なことだ」


 数多の人間を狂わせた指輪が目の前に揃っている。


 私は商人だ。けれどもただの店の受付で、店主に言われてこの指輪を買い取った。

 人生が狂った貴族たちの家に訪れては、こう言うのだ。


『もっとお二人にふさわしい指輪がございます』 


 大抵、よくもそんなにくっついてられるかと思うほどぴったりとくっついた若い二人を見る事になる。

 略奪愛だとか、浮気だとか、オークやゴブリンでもあるまいしどうしてそれが正当化できると思ったのかね。


 だが、周囲もこの指輪のせいでおかしくなっているらしい。

 みんな『愛し合う二人』を応援するのだ。


 そして『愛し合う二人のために』高価な指輪や装飾品に至るまで赤字を背負って販売する。

 無事結ばれたお二人を祝うために、と営業スマイルを浮かべるたびに罪悪感がおそってくる。


 その赤字もオーナーの計算通りだ。


 この貴族たちの尻ぬぐい、いや若者の後始末の指輪回収業が始まったのは、オーナーが一対の本物の指輪を手に入れてからだ。


 そして隣国に売り込んだ。


 最近、魔石鉱山が見つかり金が有り余っている新興国だ。

 いまやこの国は指輪の呪いに蝕まれて無茶苦茶だ。


 指輪を回収して証拠を隠滅してから、今度は別の国で売りさばく。量産された指輪だからこそ、『他の貴族も持っている』という部分が回収する時のポイントになる。


 だが、この指輪がなくなった後、少しずつだが呪いから解放され正気に戻るらしい。

 婚約破棄の次の復縁騒ぎ、復讐騒ぎまで起きている。


 私はこの外から見ていれば茶番に過ぎない国家転覆劇に手を汚している。

 しかし、この指輪の秘密を私は話さない。

 これから起きるであろう、国の基盤が弱くなっていくその様と『真実の愛』で結ばれた二人を引き裂く責任を私が負いたくないのだ。


 これからまた指輪を回収しにいかなければならない。


 その時には一言つけくわえてやろうか。


「真実の愛で結ばれた相手をけっして離さないために、二人を結ぶオーダーメイドの指輪はいかがですか?」

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