エピローグ

 トレードマークである黒いスーツ、黒いコートに袖を通した僕は、死神の仕事をするために生まれ育ったあの街へ向かった。


「ひぃっ、死神様!」


 死神になって間もない僕でも、人は恐れるものなんだな。

 八神のようなスラっとした長身ではないけれど、額には受け継いだような見事な一本角。人が怯えるのも当然か。


 空を飛んでもいいけど、あまり慣れていないのとせっかくの久しぶりの街なので、ゆっくりと地面を踏みしめて歩く。

 一年ぶりだというのに、あまり代わり映えがしない。


 信号を待っていると、隣の乳母車から赤ん坊が僕に笑いかけてきた。


 覗き込んでみると、やや切れ長の目に吸い込まれそうな漆黒の瞳。

 こいつ将来、絶対カッコよくなりそうだな……。


 僕の角に興味を持ったのか、手を伸ばしてやたらと撫で回してくる。


 なんだかくすぐったい。


「お、お願いです。うちの子の寿命を奪わないで……」


 ああ、母親を怯えさせてしまったか。

 立ち上がって道を開けると、一礼して足早に去っていく。


「あうー、かいとー」


 振り向くと、さっきの親子連れはもう人混みに紛れていた……。



 病院に着いた僕は、八神から譲り受けた手帳を開く。

 その先頭には『死神は、死んだ人間の魂を冥界へ送り届ける役目を担う』という、これからやらなければならないことが記されている。


 八神の手帳には、管理していた二人の名前が記されていた。


 一人は末崎まつざき 風雅ふうが

 そしてもう一人は……。


「迎えに来たよ、母さん」

「海斗……海斗なの?」


 あんなに気丈でたくましく見えた母さんは、病院のベッドで痩せ細っていた。

 別れを告げたあの日にはもう、病気を患っていたとは知らなかったよ。


「あの日は帰れなくてごめんよ」

「本当よ。まったくこの子は親不孝なんだから。でも海斗が死神になってて、冥界に連れて行ってもらえるなんて思わなかったよ」

「母さん、寿命を全うしてくれてありがとう」


 僕が母さんを冥界に送り届けることになるなんて。


「海斗、小さい頃にプレゼントしてくれた指輪、嵌めてくれるかい?」


 その指差した先には、思い出の品々がハンドクリームの空き缶に入れられていた。

 僕はその中からおもちゃの指輪を取り出して、母さんの指に嵌めてやる。


「じゃぁ、母さん。そろそろ行こうか」

「道案内お願いね、海斗」


 僕は手帳の母さんの名前の隣に、今日の日付を書き記した……。



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 大井 愁です。


 無事完結の運びとなりました。

 最後までお読みいただいた読者様、ありがとうございます。


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僕が死神と過ごした一週間 大井 愁📌底辺貴族の雑魚悪役 @ooisyu

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