エピローグ
トレードマークである黒いスーツ、黒いコートに袖を通した僕は、死神の仕事をするために生まれ育ったあの街へ向かった。
「ひぃっ、死神様!」
死神になって間もない僕でも、人は恐れるものなんだな。
八神のようなスラっとした長身ではないけれど、額には受け継いだような見事な一本角。人が怯えるのも当然か。
空を飛んでもいいけど、あまり慣れていないのとせっかくの久しぶりの街なので、ゆっくりと地面を踏みしめて歩く。
一年ぶりだというのに、あまり代わり映えがしない。
信号を待っていると、隣の乳母車から赤ん坊が僕に笑いかけてきた。
覗き込んでみると、やや切れ長の目に吸い込まれそうな漆黒の瞳。
こいつ将来、絶対カッコよくなりそうだな……。
僕の角に興味を持ったのか、手を伸ばしてやたらと撫で回してくる。
なんだかくすぐったい。
「お、お願いです。うちの子の寿命を奪わないで……」
ああ、母親を怯えさせてしまったか。
立ち上がって道を開けると、一礼して足早に去っていく。
「あうー、かいとー」
振り向くと、さっきの親子連れはもう人混みに紛れていた……。
◇
病院に着いた僕は、八神から譲り受けた手帳を開く。
その先頭には『死神は、死んだ人間の魂を冥界へ送り届ける役目を担う』という、これからやらなければならないことが記されている。
八神の手帳には、管理していた二人の名前が記されていた。
一人は
そしてもう一人は……。
「迎えに来たよ、母さん」
「海斗……海斗なの?」
あんなに気丈でたくましく見えた母さんは、病院のベッドで痩せ細っていた。
別れを告げたあの日にはもう、病気を患っていたとは知らなかったよ。
「あの日は帰れなくてごめんよ」
「本当よ。まったくこの子は親不孝なんだから。でも海斗が死神になってて、冥界に連れて行ってもらえるなんて思わなかったよ」
「母さん、寿命を全うしてくれてありがとう」
僕が母さんを冥界に送り届けることになるなんて。
「海斗、小さい頃にプレゼントしてくれた指輪、嵌めてくれるかい?」
その指差した先には、思い出の品々がハンドクリームの空き缶に入れられていた。
僕はその中からおもちゃの指輪を取り出して、母さんの指に嵌めてやる。
「じゃぁ、母さん。そろそろ行こうか」
「道案内お願いね、海斗」
僕は手帳の母さんの名前の隣に、今日の日付を書き記した……。
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大井 愁です。
無事完結の運びとなりました。
最後までお読みいただいた読者様、ありがとうございます。
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僕が死神と過ごした一週間 大井 愁📌底辺貴族の雑魚悪役 @ooisyu
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