第24話

「しかし、あれだね。リトには十分すぎる獲物を持っているのに、何かが足りない。そうは思わないかい? アルケーくん」

 

 僕らは糧食を食べながら森の奥へと進んでいく。本来この地域に生息しないであろう魔物が先ほどから僕を襲ってくるのでアリエルの召喚術と言われればやはり彼女は生きているんだろうと確信してしまう。そんな中で暇潰しと言わんばかりにイリアステル様が僕に問いかけてきた質問。

 

「何かが足りないですか?」

「そう、アゼルザワーくんと戦っている時に感じたんだよね。本来のリトはもっと獰猛な戦い方をするんじゃないかなって、腕力の差で言えば真っ向からアゼルザワーくんと戦うのは褒められた物じゃない。だけどリトは何度かその苦手な局面で彼を迎え撃った。本来であればあの状況でもアゼルザワーくんをどうにかできる術を持っているんじゃないかとね」

 

 現在のリトは保護というか捕獲された時よりもはるかに危険な魔道具を2本持っている。闇の魔神剣と精霊の銀剣。食事用ナイフで冒険者を殺してしまうようなリトが上級魔具をなんの制限もなしに持っているのは十分危ない。でもイリアステル様には敵わないとリトも理解して凄い警戒している。

 

「そういえば前にリトがジュウが欲しいって言ってたよね?」

「自由? 解放して欲しいって事?」

「いえ、武器みたいです」

「ふーん、ねぇリト。そのジュウがあれば私を殺す事ができるのかい?」

 

 剣聖イリアステル様を殺す事なんて……サイリトプスを一振りで倒してしまうのに……リトは嫌そうにイリアステル様を見ると、「銃があればイリアステルを殺せるかもしれない」と答えた。それにイリアステル様は瞳孔を広げて笑った。リトはその表情を見て怯えるように見つめる。

 

「そうか、そうかそうか。その武器。どうにかして手に入れたいものだな。おっと、また邪魔者だ」

 

 先ほどオーガにサイリトプス。今回は大型幻獣コカトリスが一匹と肉食鳥獣モンスターレイヴンがざっと数えて十羽。イリアステル様は余裕の表情が変わらない。コカトリスを見てリトは「あれは無理」と呟くので、

 

「よし、じゃあコカトリスは私が狩ろう。レイヴンを任せるよリト?」

「……分かった」

 

 レイヴンだって僕らの半分くらいの大きさがあるのに、サイリトプスよりも大きいコカトリスを相手にするくらいならマシなんだろうか? リトは背中を丸めると、突進した。リトの殺気に反応したレイヴン達は飛び上がる。そんな中で遅れた一匹にリトは闇の魔人剣を投げて殺害。

 

 ギャアアア! ギャア! と仲間を殺されたレイヴン達が怒ってリトを標的に捉えたらしい。だけど、リトは自ら殺せない者には向かっていかない。逆に言えばレイヴン達はリトに誘き出された。その鋭い爪とか、嘴が自慢なのかもしれない。

 だけど、リトはそれらを凶器として手に入れたいと思っている。だって既にさっきオーガから奪った角でレイヴンの大きなお腹を突き刺した。

 

「わぉ! オーガのツノをそんな使い方するなんてやはりリトはいい!」

 

 石化のブレスを吐いているコカトリスを剣聖イリアステル様は剣戟で散らして遊んでいるようにも見える。リトの戦いがみたくで仕方がないと言った子供みたいな表情で、

 

「くろー! レイヴンの嘴と爪は毒があるから気をつけるんだよー!」

 

 だなんてイリアステル様は言うけど、リトは他勢に無勢と戦う時、防御を捨てる。結果として何匹かのレイヴンの致命傷になり得ない一撃を受けていた。滲む血。それでもリトはオーガの角、ガラス片、さらには剣聖イリアステル様からもらった精霊の銀剣を投げつけて近づいてきたレイヴン達を殺害。残り三匹。レイヴン達は高い木の上に飛んでリトを見下ろしている。

 

「アルケー、カセットテープ。傷が痛い」

「あっ、そうか」

 

 レイヴン達はリトが毒で弱るのを待っているつもりだったんだろう。でも、僕らには毒は通用しない。このトラップを貼ったアリエル、彼女の残した回復の魔法のスペルが残った魔道具がある。カチっとボタンを押し、「オール・ヒーリング」リトの傷、そして毒が癒される。

 

「おいおいアルケーくん。それはなんだい?」

「うわっ、イリアステル様」


 いつの間にかコカトリスの首を落として僕の元にやってきたイリアステル様は新しい玩具を見るように僕の持つ魔道具に興味を示した。それがどういう物か説明すると、「へぇ、アリエルのやつ。自分の残した物で自分の策を突破されてやんの! おもしろーい」と嬉しそうに喜んでいる。

 

「イリアステル」

「なんだいリト! 私に何か用かい? チョコレートでも欲しいか?」

「うん、それも欲しいけど、あれ殺して」

 

 高い木の上にとまる三匹のレイヴン。リトの射程外にいると言う事なんだろうけど、イリアステル様はチョコレートをリトに渡すと「それはダメだ。君は私にコカトリスを殺すように言ったろ? だからリトはあれを殺さないとダメだ。なぁに、二つの短剣があれば可能だろ?」

 

 チッとリトは舌打ちした。まさか射程外だからじゃなくてイリアステル様に押し付けようとしていたのか、リトはイリアステル様からもらったチョコレートを食べて「美味しいかいリト?」「フツー」と答えると木に向かって走り出した。木々を蹴って登る。レイヴン達は危険だと判断したんだろう。飛び立とうとする一匹にリトは闇の魔人剣と精霊の銀剣の二本を同時に投げて一匹を仕留めると懐から出したナイフで木を突き刺してその反動でリトは飛んだ。リトに向かって一匹が襲いかかるのでリトはオーガの角を取り出すと襲いかかったレイヴンにそれを突き立てて殺害と共に足場にしてさらに最後の一匹を狙う。その瞬間足場にしたレイヴンの嘴をリトは捩じ切って最後の凶器にした。

 

「なんなんだあの動きは、凄いねリトは」

「えぇ、スキルでもないのに彼女は僕の想像を超えてます」

 

 剣聖イリアステル様をしてこう言わせるんだ。多分、上級冒険者以上の実力を持っているリト、どんな時も不必要に言葉を発さない。それでも十分すぎる勝機を持って最後のレイヴンを殺害して猫みたいにくるくると回りながら地面に着地した。

 

「全部殺した」

 

 使った武器を回収、そしてレイヴンの爪と嘴も当然回収。リトはこの森に入ってオーガの角、コカトリスの嘴と爪、確実にリトは戦力を増強している。僕は考えてもいなかったけど、この先に僕らが一度殺した……恐らくは僕らを恨んでいるであろうアリエルが待っている事への準備を始めていたんだ。リトは誰よりも殺し損ねた相手が危険だという事を知っているんだ。

 

「さて、この奥に多分彼女はいるね。それもとんでもないのを引き連れているよ。今回ばかりは私も本気で抜剣しないといけないね。なら、アリエル殺しはやはりリト、君の仕事だよ?」


 面倒くさそうな顔をすると思っていたけど、リトはキッと睨みつけるとリトは「言われなくてもリトが殺す」分かった。じゃない。

 リトが始めて殺意をむき出しにした。

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危険魔道具取扱者(カンタービレ)と異邦の少年兵は闇クエストで手を繋ぐ アヌビス兄さん @sesyato

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