第23話 少年兵は最強という呪いにかかった剣聖と並んで魔術師を殺しに行く
リトが僕の後ろでそう言うので、剣聖イリアステル様は大爆笑。リトに大量のランチを渡して、半ば強制的に再び森に入る事になった。剣聖イリアステル様は実に楽しそうに、子供みたいに鼻歌なんか歌っている。
リトは剣聖イリアステル様を警戒しながら僕に隠れてパンを食べている。
「イリアステル様」
「なんだいアルケーくん? それとも君は気づいているのかい? ミトラ嬢の事」
「ミトラちゃんの事……」
「なぁーんだ。気づいてないのか」
イリアステル様は何を言っているんだ? 僕がそう思っていると、僕の後ろにいるリトが「アリエル」と一言。それにイリアステル様は凄い、恐ろしい表情で嗤った。アリエス・サーチェスはあの時、リトが殺した。
「何を言っているんだい……リト」
「あのミトラって言う子供。アリエルの雰囲気を感じた。だから殺した方がいいと思ってアルケーに聞いた」
あの時か……でもアリエル・サーチェはリトが確かに殺した。僕らはアリエルの屋敷と共に彼女が燃えるところまで確認した。
「それはあり得ない」
「おやおや、カンタービレの君がそれを言うのかい? パラセルネ・シルバー。願いを叶える魔道具。君たちが回収したんじゃなかったかい?」
「あれは仮初の願いを叶える物ですよ」
「相手は伝説とまで言われた魔術師だよ? 仮初程度の願い。真実にすり替える方法くらい考えているだろうよ。当然、君とリトに殺されるという事も予測していた未来の一つだったんじゃないかい? 例えば、君たちが味方にならなかった時とかさ」
確かにアリエルは僕とリトを勧誘した。イリアステル様はなんでそんな事を……まさかイリアステル様とアリエルは繋がっていたのか。
「待て待てアルケー君、そのお前! アリエルの仲間だったのか! みたいな顔で見るのやめてくれないかい? サリエラからアリエル殺害の依頼を受けただろう? あれはこの私、剣聖イリアステルからの闇クエストさ。これらの流れを予想したのは君の上司、プラチナランクカンタービレ、ジュデッカの総帥サリエラ・カルヴァヤン博士だよ」
「サリエラ先輩が……」
「あぁ、彼性格悪いだろ? これはアリエルも私もだが、だからこそアリエルの手は読めるよ。さぁ、闇クエスト続行といこうじゃないか! 今回はこの私も共闘と行こう。騎士とカンタービレの最高戦力で伝説の魔術師討伐。勇者様の魔王狩りとどっちが楽しいだろうね?」
このエゼルグリン高官学校への臨時教官になる事はそもそもあの闇クエストに織り込み済みだったという事か、でも剣聖イリアステル様がいるんだったら……
「イリアステルが勝手にアリエルを殺せばいい」
リトが僕が思っている事を代弁してくれた。イリアステル様はリトが彼女の名前を呼んだ事が嬉しかったのか怖がるリトに近づくと、
「リト、君はアルケー君と私が用意した金貨でご馳走を食べただろう? それはアリエルを殺した事で本来得られる物さ。が、アリエルは未だ健在だ。君たちはアリエルを殺らなきゃならない。だけど、今回アリエルは君たちの弱点を知っている。その弱点は私がカバーしよう」
リトの弱点……それは一体なんだろう。リトはイリアステル様に警戒しながらももくもくとパンを食べ、水を飲み干すと、
「分かった。でもアリエルを殺すのはこれっきり。なぜなら、前にアリエルは殺した。何回もアリエルが出てくるのは想定外、これは対等な仕事じゃない。あの程度のお金で受ける物じゃない」
そりゃそうだ。魔術の奥義なのか、魔道具の奇跡なのか知らないけど、殺しても殺しても生き返ってくる相手を有限の支払いで殺せというのは筋が通らない。だけど……剣聖イリアステル様とサリエラ先輩は権力者の中でもトップクラス、僕らの筋が通っていても簡単に跳ね除ける事がきでる。
「いいねリト! 剣聖の名の下にその約束受けよう! やはり君はいい。食欲に全振りしているように見えて、深層的な部分ではとても利口だ。以前にも似たような事を経験したみたいにね」
「げりらとの交戦で一回分の料金で何回もリトに殿をさせた。3回目で指揮官をリトが殺した。でも今回は助かった」
「おやどうしてだい?」
「リトじゃイリアステルを殺せないから、約束の締結ができないと、チェックメイトだった」
瞳孔が開くとイリアステル様はぎゅっとリトを抱きしめた。「やめて、離して」と本気で嫌がっているリトにイリアステル様は「君はなんて可愛いんだ。だからこそ、私を殺せるくらい強くなってほしいものだね」「無理」リトは絶対にイリアステル様には勝てないと言う。一体剣聖とはどれだけ強いのか僕には想像もつかないや。
「アトラちゃん、もといアリエルの居場所は分かるんですか?」
「いや知らないよ。ただ、進むのが難しくなった先にいるんじゃない。なんせ今回は私付きだ。伝説の魔術師も恐らく全力でくるだろう。それこそ、魔王にでもなるつもりでね」
「……どうでもいい。早く殺して早く帰りたい」
「あはははは! そうだね。じゃあ闇ピクニックといこうじゃないか」
本来剣聖とは、魔王と戦う為に勇者様と共にする剣士だと聞いていた。なのに剣聖イリアステル様は勇者様と共に旅をしていない。イリアステル様の武勇は僕でも知っている。村一つ滅ぼしたドラゴンゾンビの討伐、
「イリアステル様、お伺いしてもよろしいですか?」
「なんだいなんだい? なんでも聞いてくれたまえ! 私とアルケー君にリトは対等な友達じゃないか」
いつからそうなったんだ。いくらなんでも剣聖イリアステル様とお友達だなんて口が裂けても言えないよ。リトも首を横に振ってるし……イリアステル様の雰囲気に飲まれてた。こんな時に聞いていいのかわからないけど……
「あの、イリアステル様。勇者様ってどんな方なんでしょうか?」
「勇者、勇者ねぇ。うーん。一言で言うなれば、最強?」
「最強って……イリアステル様と……どちらがお強いのですか?」
数々の生ける伝説を残している勇者様。でもその実態は一切知らされていない。なぜなら僕はゴールドランクのカンタービレとして簡単に情報が書き換えられるという事を知っている。だからこそ、本物の勇者様の姿を知ってみたい。世界全ての人が勇気を与えてもらった。
「うーん。そうだね。それはとても難しい質問だな。魔獣ファイナルシティという怪物の物語を知っているかい?」
「えぇ! 100人の冒険者を殺したという古代兵器……勇者様とイリアステル様のお二人で」
「そうそうそれそれ! それをね。私と勇者は倒しきれなかったんだよ」
「二人の力でなんとか倒したのではなかったのですか?」
高速移動し、謎の砲撃攻撃、その戦力は長年生きたドラゴンに匹敵するとさえ言われたそれを勇者様と、イリアステル様は数日に渡る戦闘を持って破壊したと……でも実際は違った。
「うん。私たちの連携であれは撤退したよ。だけど、私たちも追いかける気力はなかったね。まぁ、なんかつまんなかったし、一緒に共闘して分かったんだよ。勇者には魔王を倒してもらおう。そして魔王を倒した勇者を私が倒そうってね」
ん? 全く持って意味が分からない。リトも凄い顔でイリアステル様を見てるし……そんな僕らに気づいたイリアステル様は無邪気に笑った。
「私はね。呪われてるんだよ。最強という呪いにさ。おっと、そろそろお喋りは終わりにしようか」
モンスター! リトがそれらをぼーっと見つめている。ゴブリンなんて雑魚モンスターじゃない。オーガが複数、そしてそのオーガより一回りも二回り大きい一つ目の怪物。
「サイクロプス……」
「アルケー、あれはダメ。今のリトじゃ殺れない。銃がない。あれはイリアステルに任せる」
「リトに任されちった。じゃあリトはオーガをぶっ潰してもらおうかな? あのツノの方ね」
「分かった」
リトの弱点……リトはある一定のモンスターを倒せないという事か! ジュデッカの魔道具人間だなんて言われているけど、あれは戦闘用でもなんでもない。全てはリトを拘束する為の魔道具だ。それでも……リトは中級冒険者パーティーで討伐するようなモンスターをたった一人で飛びかかった。硬い皮膚に刃物が刺さらない事が分かるとオーガの両目を潰した。
「ギャアアアアアア!」
「ちょっと硬い」
刃が刺さらないオーガをどうやって倒すのか……リトはオーガに飛び乗ると、クギを金槌で打つように、ナイフを腕の魔道具ノワールガーベラでオーガの頭に打ちつけて殺害した。そして作業のように二匹目のオーガ、三匹目とリトは倒しに行く。そんなリトの戦い方を手を叩いて喜ぶイリアステル様は目の前で大きな鈍器を振りかぶるサイクロプスをとても面倒くさそうに腰の剣で受け止めた。
「ッ……チッ!邪魔だなぁ君は」
そう言ってサイクロプスの丸太みたいな腕を切り裂き、首を刎ねた。鞘に剣を収めるとリトが最後のオーガを倒して各オーガからツノを引っこ抜いている様子を楽しそうに見て「それ、武器に使うのか?」と聞くイリアステル様に「教えない」と嫌そうに答える姿を見て再び楽しそうにしている。
モンスターを退治するという場面を僕のようなカンタービレがそうそう見る事はないけど、イリアステル様の強さは本当に異次元のそれだ。
サイクロプスなんて名前を聞いたら避難勧告が出る程のモンスター、それをあっさりと息を吸って吐くように倒してしまった。
「リト! チョコレート食べるかい? 疲れた時は甘いものっていうんだ」
ばっ! とチョコレートをイリアステル様の手から奪うとリトは離れてそれをもしゃもしゃと食べてる。
そう、僕らは闇クエスト、続・伝説の魔術師を殺害するが始まった。
はぁ……
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