第22話 少年兵とゴブリン小隊の戦争

 僕たちは騎士科と魔術師科のトップクラスの生徒達、教官達と共に僕とリトはゴブリン退治演習に来ている。本当に何でだ……僕の受け持つ生徒達もソルが一緒に授業をしてくれているのでそこに心配はないけど‥‥…

 

「教官、どうしてカンタービレ科の教官がいるんですかー! 魔道具って魔法より使いにくいし、剣より強くないんですよね?」

 

 相当、カンタービレの立場は弱いらしい。それにリトが渡された非常食を既にガジガジと齧っている事も相まって、凄まじい空気ができている。それでもあの夜会でアゼルザワー教官をリトが倒した事を見ている各科の教官達は自分の教え子達に説明する。

 

「あちらはゴールドランクカンタービレのアルケー教官とその防人。魔道具人間のリトさんだ。アゼルザワー教官と引き分けた強さを誇る」

 

 そういう事になっているんだな。

 貴族としてのプライドが伝達情報を歪めたわけか、でも別にそれは構わない。囃し立てられるより幾分もいい。本日リトは全ての魔道具をつけてもらっている。何故なら、リトが剣聖イリアステル様と一緒にいるなら闇の魔人剣と精霊の銀剣の両方を持っていたいと珍しく言ったから、いつでも拘束できるようにさせて貰っている。

 

「アルケー、お腹空いた」

「僕の非常食をあげるからお昼まで我慢してね」

「ねぇ、カンタービレさん。私の非常食もあげる」

 

 そう言って非常食を差し出してくれたのは魔術師科の女の子。リトはその少女を見て「アルケー、離れて。これ、殺せばいい?」と言うので慌てて僕はリトを僕の後ろに引っ張ると、「ありがとう。でも大丈夫だよ。それは君のだから」と笑顔を返すと「そう、じゃあまたね。私は魔術師科のミトラ。アルケーとリト」「うん」そう言ってミトラは去って行った。

 何だったんだあの子……リトはずっと僕の後ろで両手を後ろに回している。魔道具の短剣2本をずっと触れていたみたい。

 

「リト、あの子は魔術師の卵だから、危険じゃないし殺さなくていいんだよ」

「でもアルケー……」

「分かったリト?」

 

 僕はリトの目線に合わせてそうリトに言い聞かせる。多分、空腹を訴えるであろうリトの為に僕はパンをいくつか持ってきていたそれをリトに握らせてリトはしばらく僕を見つめると、

 

「分かった」

 

 と理解してくれた。ゴブリン退治の授業は教官達のサポートの元、魔法や剣術でゴブリンを追い詰め倒していく、これが彼らにとって初めての魔物との戦いになるというわけか……。

 さっきから、ゴブリンを誘き寄せて、一対一の形を作り魔法、剣術で仕留めている。リトは実に眠たそうにしていると、魔術師の教官が僕らに提案した。

 

「リト殿の実力も拝見してみたいものですな」

 

 まぁ、十中八九そういう展開が来るだろうと思っていた。リトは僕を見るので、僕が頷くと、「分かった。あの顔色の悪い小人を殺せばいいの?」「えぇ、お願いします。魔法、剣術の支援は敢えて行いませんので、生徒達にお手本を見せてやってください」と、魔術師教官は四匹の武器を持ったゴブリン達がいる場所でそう僕らに言った。

 リトは「分かった」と言って、一匹のゴブリンに向かって闇の魔人剣を投げつけ、殺害した。

 

「!!!」

 

 魔術師の教官、騎士の教官も驚く、自分の獲物を手放したリトはそのまま動かない。死んだゴブリンから別のゴブリンが闇の魔人剣を引き抜き、殺害衝動に駆られ仲間のゴブリン達を殺し始める。そして闇の魔人剣を持ったゴブリン一匹になったところでリトは次は精霊の銀剣を投げて殺害。そして殺害したゴブリンから闇の魔人剣と精霊の銀剣を回収した。

 

「これでいいの?」

 

 リトは転生教団の時に闇の魔人剣の有用な使い方を覚えた。まさかモンスターにまで適用できるとは僕も思わなかったけど、これが彼のいつもの戦い方。リトはゴブリン達を殺害した方に振り返ると、ぴょんと後ろに飛んだ。リトがいた場所に矢が放たれる。

 

「ゴブリンアーチャー……これはまずい、生徒達の避難を、く、リト殿?」

 

 リトは弓を放ってきた方に走る。茂みから槍、ゴブリンランサー、僕らは囲まれていた。統率の取れているゴブリン達。

 

「ファイアーボール!」

 

 どこからともなく放たれる魔法。それに魔術師教官が「ゴブリンメイジまでいる! 司令塔、ゴブリンリーダーがどこかにいるはずだ! 他の班に連絡して知らせないと!」

 

 騎士科の教官と魔術師科の教官は僕と生徒達を守ような陣形でゴブリンに備える。これは、ゴブリンが雑魚モンスターであるという驕りだったのかもしれない。流石に生徒を守りながらだと教官達も本気を出せないだろうし……

 リトはゴブリンランサーを殺して槍を手に入れるとその槍を持って走り、槍を地面に刺して飛び上がった。

 

「ジャンプはダメだ! ゴブリンアーチャーの的になる!」

 

 騎士教官の言葉通り矢が放たれる。リトはそれらの矢の致命傷になる物をのぞいて全て腕で受け、矢を放ったゴブリンに向かったナイフやフォーク、あらゆる刃物を投げつける。

 

 しゅたっとリトが地面に降りると、次は魔法が放たれる方に向かって走る。ノワール・ガーベラで魔法を無効化しながらゴブリンメイジを見つめた。

 

「ガガっ!」

「何言ってるか分からない」

 

 首を闇の魔人剣で掻っ切ると、キョロキョロ辺りを見渡す。そして足元に落ちている槍を茂みに向かって投げた。

 

「ギャッ!」

 

 という悲鳴と共に隠れていたゴブリンを殺害。リトは周囲を探りながら腕に刺さった矢を抜いていく。鏃は錆びて、あの怪我は危険そうだ。木に登ってリトは周囲を見渡し僕らの元へと戻ってくる。

 

「あれ、この辺にいるのは全部殺した。アルケー、ケガの治療」

「あっ、うん!」

 

 僕は魔道具を取り出そうとしたけど、魔術師教官が手を挙げて、「リト殿の怪我私達にお任せください。助けて頂いたせめてものお礼です。本当に、恐ろしい強さです」「あぁ、リト殿がいなければ俺たちも危なかったな」

 

「みんな、私がアンチポイズンとキュアを使うのでよく見ておくように! 基本僧侶の魔法ですけど、私たち魔術師しか治療ができない場合もあります。最低初級、できれば中級まで魔法は習得するように、アンチポイズン!」

 

 ぱぁあああと変色していたリトの腕が綺麗な色に戻る。そして「キュア!」と魔術師教官の魔法でリトの傷が綺麗に塞がっていく。リトは魔術師教官に「ありがとう」と無表情で言うものだから、魔術師教官は邪気が抜けたように……

 

「凄まじい戦い方でしたな。リト殿は戦場の経験でもおありか?」

「うん、戦場はよく行った」

 

 そうだったんだ。僕も知らなかった。騎士教官も「皆、リト殿の戦い方は歴戦の戦士故にできる事。同じように立ち回ってはならんぞ? 経験なき諸君らは基本の戦い方をマスターし応用していく良いな!」

 

「「「はい!」」」

 

 とは生徒達も元気よく返事をしていたものの、魔術師科の生徒達ですらリトに羨望の眼差しを向けている。魔術師科の女の子の生徒なんか、リトを見て目をハートにすらしているし……自分達とそんなに年の変わらないハズの綺麗な少年が信じられない戦闘能力を有しているのを見て、彼らは英雄譚なんかと重ねているのかもしれない。

 

「一度、安全な場所に戻り、ランチとしましょう」

「そうですね。他の班にも先ほどの件を報告しなければいけませんし。アルケー教官よろしいか?」

「あっ、はい大丈夫です。リト、少し戻ったらお昼ご飯だからね!」

「うん、分かった」

 

 うん、がついた“分かった“はリトの中で少し機嫌がいい時、お腹いっぱい食事が取れるという事。それにこの班には剣聖イリアステル様もいない。リトのストレスになるような物は何もなく、僕に手を引かれ、他の班が集まっているキャンプ地に戻ると、何やら騒がしい。

 

「ミトラさんが行方不明です! すぐに捜索をお願いします! ミトラさんが、ミトラさんが!」

「落ち着いてください。カーン教官。貴女が落ち着かないと! すぐに騎士科の教官達で森を捜索してますから!」

 

 あの子、ミトラちゃんがあの森の中で行方不明……流石に不味い。ゴブリン退治の練習用の森とはいえ、魔物がいるんだ。

 そんな騒ぎの中、剣聖イリアステル様が僕らを見つけて近寄ってきた。

 

 

「ようやく帰ってきたようだね。聞いての通りだよ。生徒が取り残されてしまった。しかし、妙だ。どこの班も魔物のチームに襲われたんだ。その感じだとアルケー君とリト達もだよね? という事で私と君たち二人とで魔術科の未来のエリート捜索パーティーを組もうじゃないかぁ!」

「やだ。ご飯食べたい」

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