完全無敵!やる気が無さすぎる勇者の自由冒険譚

Leiren Storathijs

プロローグ 異世界転生

 男の名は最上もがみ 稟獰りんどう。高校3年の19歳。

 彼は問題児だった。学校の備品を破壊するのは日常、暴力で教師を強制退場、朝礼で校長の長話を拳で黙らせる、生意気な女生徒を重体にさせた後一生残る傷を残す等々……。

 PTAでは今すぐ彼を退学にさせるべきだ。教職員会議でも無数の議論があった。


 しかし学校が決めた彼の最終処遇は、"退学させて世に放出するより、学校に『収容』させた方がよっぽど良いだろう"という結果になった。

 現に最上は家を既に追い出されており、半分ホームレス状態で、それも踏まえて『危険物を厳重保管』するかのように、仕方がなく学校を特別に住居とさせていた。


 しかしそれと同時に、学校内の被害数は相当に上り、『連日被害者に対する謝罪会見をする学校』という絶対に転校させたく無い学校ワースト1位。どうしようもない不名誉すぎる賞を冠した。


 だが、そんな地獄のような問題児も、喜んで良いのか。学校関係者が総じて万歳したくなる訃報が報せられた。

 薬物服用者による暴走トラックが最上稟獰を轢き、彼は即死だったという。


 これをきっかけに学校の評判は元から良かったおかげか、うなぎのぼりに上がったのは別の話。


◆◇◆◇◆◇


 彼はすぐに目を覚ました。


「あれ……ここどこだ?」


 そこは四方が真っ白な風景で、最上自身の体も浮いていた。

 ただそこには眩しく光を発する光球が浮かんでいた。それは神秘的で神々しく、最上はここは天国で自分は死んだのだと瞬間的に理解した。

 だが、何故か光球からはポップなテンポの速い曲が流れている。


「……? おーい?」


 最上が声を掛けても反応はなく、しばらくすると漸く声が。とても面倒くさそうな声が聞こえる。


「……? あ? あ、あぁ……。お前死んだのか? あーそう。ご愁傷様。それじゃあ、転生する?」


「は? すれば良いんじゃね?」


「はいはいっと……。えーっとじゃあ能力とか色々めんどいから……こっちで適当に決めとくわ。そんじゃいってら〜」


「え? あ、あぁ……」


 それはまるで流れ作業のようで、荘厳な雰囲気とはまるで真反対に。気怠さ全開の作業は最上と光球の一言二言で完結した。

 そして最上の視界は突然に暗転する。意識はぷつりと途絶えたのだった。


◆◇◆◇◆◇


 次に目を覚ました最上は、どこかの王宮のど真ん中にいた。


「おぉ! 召喚が成功したぞ! よくぞ参った我が王国へ! 我が王国は今、魔王の危機に瀕している。大昔に封印されたはずの魔王の力が瘴気となり、徐々に国を、世界を犯し始めている。そこで我らは、ならばいっそうのこと魔王の封印を解き、もう一度封印すれば良いと考えた。

 しかし、我らにはそれを御する力を持つ者はおらぬ。そこで異界から勇者を呼び出す事に決めた。だから勇者よ、我らの世界を救ってくれぬか!」


 王宮には王らしい男が玉座に座っており、最上が目覚めるや否や、大声を上げた。

 魔王の危機から世界を救えという話。しかし最上はそれを断る。


「くれぬかって……任意ですかこれ? じゃあ断ってもいいですかね? 面倒なんで」


「め、面倒? いやしかしそこをなんとか! あぁ、そう! ステータスオープンと唱えるといい。そうすれば貴様の力が見られるだろう。さぁ、見せるのだ!」


「ステータスオープン……」


 だがこれだけは従った。どんな能力が備わっているのかは不明だが、転生直前に超適当に能力を決めてくれると言っていたからだ。最上は単純に気になっていた。


──────────────────

名前:最上稟獰

性別:男

年齢:19

職業:勇者


【ステータス】

HP:無限

MP:無制限

攻撃力:世界を消せる

魔力:ビックバン起こせる

耐久:異次元

敏捷:光よりも速い

運:0


【スキル】

・物理無効

・魔法無効(魔術、呪術、秘術、その他等全てを含む)

・時空、次元能力無効(時間停止、空間湾曲、移動、切り取り、重力、次元崩壊その他等全てを含む)

・概念能力無効(事実歴史改変、未来確定、運命操作、事象、その他等全てを含む)

・創造魔法(考えれば如何なる者でも実現でき、またこれと同等の力に対して無効)

──────────────────


「はぇ……?」


 最上のあまりにも無茶苦茶で、あり得ない力を目の当たりにする王と、その周りの人々は唖然とした表情を見せる。

 目の前に大々的に公開されているステータスには一切の偽装がされておらず、全ては真。こんな能力を持っていながら、何故力を貸してくれないのかというただならぬ疑問も同時に浮かんでくる。


「わぁ、これはすごい……」


「すごいとかいうレベルじゃないわい! なんじゃこれは! い、意味が分からんぞ!? それで、力は貸してくれんじゃろうな!? いや、貸せると言え!」


 しかし最上はそれでも断った。理由は面倒だからである。


「えぇ〜……んー。そんなに貸して欲しいなら条件がある」


「条件!? な、なんだ! なんでもやるし、なんでも与えてやろう!」


「ん? なんでも?」


「あぁ、なんでもじゃ! 流石に存在しないものは用意できんが……」


 なんでもとは、文字通りの言葉として受け止められることが多い。まさにそんな言葉がどうしようもない性格の持ち主である最上に入れば、どうなるかなど王は知るよしもない。


「じゃあ……魔王は倒すよ。この場にいる全部を巻き込んでな! これが一番速いと思いまあああす!」


「え、は、ちょ、なにを────」


『創造魔法:世界の終わりと始まりオリジン・ザ・ワールドッ!!』


 そう最上がこれでもかと大声で唱えると、最上が頭上に伸ばす指先から、小さな光がふわふわと王宮のど真ん中に入れば。


「は? なんじゃこれ……全く脅かすではな─────」


 国王が安堵する暇もなく、光は急激に超強力な重力を発生させ、ハリケーンに巻き込まれた家屋以上の速さで一瞬にしてその場にいる全ての人間と、物体を粉々に破壊し、吸収。


「ひぇっ!? おおおぉい! 今すぐそれをやめんか!」


「なんでもやると言ったよなぁ? じゃあ全員死ねよ。魔王も含めてなぁ!?」


「やめろおおおおおぉ!!」


 第二フェーズ。光球は急速に巨大化し、最上さえも巻き込む、王宮とその王国も覆う大光球となり、周囲に一つの衝撃波を発生させる。そうすれば王国周辺の大地は一撃で吹き飛び、海は蒸発、大陸は無へと帰す。


「すげえええぇ……俺の力……神様ったらなにやってんだか……」


 その光景を最上だけは観測できていた。

 第三フェーズ。大光球は白から真っ黒な球体となり、さらに巨大化。全大陸を覆う大きさとなり、世界を侵食していた瘴気の全てが噴出。大陸から見る宇宙にもう一つの黒い球が召喚される。

 これが魔王封印の解除であることなど、最上にとってはどうでも良かった。


 最終フェーズ。惑星と広範囲の宇宙を覆う大きさとなった黒の大光球は、次の瞬間、最上の手のひらサイズまで縮小すると、ドクンと心臓の音が大音量で響き渡り、最後の衝撃を放つ。

 それは世界を丸ごと消滅させる力で、最上もまた意識を暗転させた。


◆◇◆◇◆◇


なんか見知らぬ世界

死者:140億人

生存者:1人

・最上稟獰(19)


 世界は死に、また生まれる。原初の事象はたった1人の男によって。数える必要もない犠牲を元に行われた。ただ魔王を倒すためだけに。

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