第29話 【秦陽】陥落
陽が朱く染まる頃には、【秦陽】の居城は陥落し、幹部たちが居城の領主の間に集合していた。
【秦陽】の居城の陥落は多少手間がかかった。
秦武君が最後まで抵抗したので、【曹陽】のように簡単に降伏とはいかなかった。
秦伯爵家の長男の秦将君は意気地のない男で、秦家軍の鎧騎士が壊滅したと聞くと、秦家の金銀財宝を持ち出し【秦陽】から兵士に守られ逃げていった。
だが、次男の秦武君は逃げすに、最後まで抵抗する姿勢を示した。
秦家の居城には、城内の1万の兵が籠城した。
元々、2万の兵が【秦陽】の城内にいたのだが、1万の兵は秦伯爵や長男の秦将君と一緒に城外に逃げてしまった。
城内の1万の兵は勇敢で居城に残ったわけではない。ただ、逃げる場所を城外ではなく城内の居城にした者たちだ。
そこに、逃げてきた秦武君がやってきて、城外の味方と合流すると言うので従っていた。
ところが、暫くすると城外の秦家軍も全滅していた事が伝わった
鎧騎士は全滅し、筆頭将軍の郭許将軍も捕縛されている。
その上、主君の秦伯爵も城外に逃げたという情報も入ってきた。
居城に籠る兵の士気はどん底まで落ちていた。
そこに、旧南東軍の朱義忠が門の前で、降伏を促した。
だが、秦武君は降伏勧告に従わなかった。
結局、居城の攻防戦が始まってしまった。
まず、居城の門を静香と麗華の2人が魔弾砲で攻撃した。
お互いに5発撃って、10発が命中すると正門は砲撃の威力に耐えられずに破壊。
同時に裏門からは、半蔵が内部から門を開門。
正門と裏門から鎧騎士が侵入して、再度、降伏勧告を行った。
居城の攻略には、慶之が連れてきた『姜氏の里』の鎧騎士200騎も加わったので、旧南東軍の鎧騎士と合計で300騎近い鎧騎士に囲まれた。
そこでやっと、秦家軍は降伏した。
その状況では、流石の秦武君も降伏に応じるしかなかった。
秦武君が降伏に応じなかったら、秦家軍の歩兵1万人は全員死ぬしかない。そうなるのであれば、秦武君の命令に逆らう幹部も現れたに違いない。
秦武君は郭許将軍と同様に捕虜になり、奴隷収容所だった場所に捕虜として収容された。
捕虜の管理は、旧南東軍の部下たちに任せて、壊れた鎧騎士から魔石の回収などを行うと、夕方になっていたのだ。
幹部たちは、公明に招集されて、『領主の間』に集まっていた。
そこには楊琳玲の姿があった。
慶之は琳玲を見つけると、急いで駆け寄った。
「琳玲、無事だったか。良かった。」
思わず琳玲を抱きしめた。
「はい、慶兄。静香さんや藤有加さん、王常忠が救ってくれたわ。」
琳玲の側には、王常忠もいた。
慶之がすかさず、王常忠の手を握った。
「常忠、すまない。俺は常忠に命を救われた。それなに、俺は常忠の事を探すことも出来ずに・・・。でも、生きていてくれて本当に良かった。」
常忠の手を握りしめたまま、慶之は一緒に【楊都】を逃げた時を思い出していた。
本当に死ぬと思った。いや、普通なら死んでいた。ただ、逃げた山に姜馬の結界があったから救われた。本当に偶然の連続でここまできたのだ。
「いえ、私の方こそ、慶之様を探す事が出来ずに申し訳ござません。慶之様が蔡家軍の兵から逃れた後の事を詳しく静香殿に聞きました。慶之様も苦労されたようで・・・。それに、慶之様に魔力が発現したとか。やはり、私の目に狂いは無かった。しかも、《火の迷宮》を攻略したのは流石です。さすがの私も、慶之様の力がそこまでとは思い至りませんでしたが。でも、本当に良かったです。生きていてくれて・・・。」
常忠は泣き出してしまった。
常忠は地下の脱出路で、琳玲や静香たちと合流したようだ。
脱出路をふさぐ壁を開ける小岩が見つけられなかった琳玲たちの後に、常忠が魏徴などと一緒にやってきたそうだ。常忠は慶之と一緒に逃げる時に、おの避難路の壁を開ける小岩の場所を知っていたので、琳玲たちも無事に出口に出られたらしい。
常忠たちも避難路に向かう途中で、勾践や文主に出会ったようだたったが、上手く切り抜けたようだ。
「それに、静香も藤有加もありがとう。琳玲は俺にとって最後の肉親だ。助かった。」
「別に良いわよ。慶之の為になったら、それで私も嬉しいわ。」
静香の謙遜した言葉に、隣にいた有加が何か言いたそうであったが押し黙った。
慶之は常忠や静香たちに礼を言うと、改めて琳玲に向き合った。
「慶兄、生きていてくれて良かった。」
琳玲も涙を流している。
「すまない、心配させた。少し見ない内に、また大人になったな。」
慶之は琳玲の頭を撫でながら、謝った。
しばらく、抱き合っている姿を仲間たちが微笑ましそうに見ていた。
「慶兄も死んじゃったと思って、ヒック・・、父上も、母上も、義兄や剛兄も、みんな、みんな死んじゃって、ヒック・・、私一人で、でも楊家の仇とか討てなくて・・・。死んだら、慶兄に会えると思ったんだ。でも、良かった。死なないで、死んでいたら、行き違いになる所だったよ。」
必死で自分の気持ちを伝えようとするが、泣いて上手く話せないようだ。ただ、想いは伝わってきた。特に慶之には痛いほど伝わった。
「もう大丈夫だ。復讐は、楊家の仇は俺が取る。」
慶之は力強く、琳玲に宣言した。
「それにしても、心配させてすまなかった。」
「静香さんから、いろいろ聞いたわ。慶兄も大変だったと。仕方がないよ。でも、生きていてくれて良かった。これで、私は1人きりじゃないんだね。」
琳玲は顔を上げて笑った。
「今まで苦労をかけた。これからはその苦労は俺が背負う。だから、もう琳玲は苦しまなくて良いんだ。」
「そのことで、慶兄・・、いえ慶之兄上に話があるの。」
琳玲は、急に真剣な表情になって姿勢を正した。
「ど、どうしたんだ、琳玲。慶之兄上と呼ぶなんて、熱でもあるのか。」
今まで、『慶兄』としか呼ばれた事の無かった慶之は面映ゆがった。
「義忠、あなたにも聞いて欲しいの。」
慶之の後ろにいた義忠にも声をかけた。義忠は琳玲の無事の姿を見て感動の声を上げたかったが、慶之と琳玲の再会を優先して後ろで黙っていた。
「はい、琳玲様。」
琳玲に呼ばれて、慶之の横に姿を出した。
「私、旧南東軍の頭領の座を・・・、けいに・・慶之兄上に譲りたいと思うの。義忠はどう思うかしら。」
「私は・・・、私は、琳玲様のお考えに従います。決して、琳玲様が頭領として相応しくないのではなく、琳玲様は琳玲様の人生を歩まれるのもよろしいかと。」
義忠は暫く考えて、琳玲の考えに賛成した。
何か含みを持った言い方であったが、義忠なりの考えがあるのであろう。
「そうか、俺も構わない。楊家の復讐は、俺が引き受ける。今まで琳玲に重い荷物を背負わせた。すまなかった。」
慶之もそのつもりで考えていた。
これ以上、妹の琳玲を危険に晒したくないと言うのが本音である。
今回は無事に救出できたが、戦場では何があるか分からない。敵の魔弾砲が操縦席に直撃するかもしれない。
琳玲は最後の肉親だ。もう斬れ以上、肉親を失いたくないのであった。
「慶之兄上、なにか勘違いしていますわ。私は別に自分の荷物を兄上に背負わせるつもりなどありませんよ。私の荷物は私が背負います。今まで同じように私も戦います。そして、蔡辺境伯を倒して一族の仇を討つ。この使命は慶之兄上に譲りません。私が譲ると言ったのは、旧南東軍の司令権です。兄上の元にも軍が存在するんでしょ、それなら旧南東軍を解体して、慶之兄上の軍に編成し直した方が効率良く戦略が組めるわよね。私は慶之兄上の下で一人の騎士として戦場に立つわ。」
琳玲は、どうも戦場から身を引くつもりは無かったようだ。
それも、彼女が旧南東軍の統帥権を慶之に渡したのは、勢力の一本化の為であった。
「いや、琳玲。お前が最後の肉親なんだ。できれば、お前を戦場のような危険な場所に出したくないんだ。」
「なにを言っているの、兄上は!兄上が自分だけは、肉親を出したくないと言うつもり!皆、楊家の復興の為に自分の肉親を兵として戦場に送り出しているのよ。」
「・・・・そ、そうだな。悪かった。浅はかだった。」
慶之は悟ったように頷いて、責任感の無い自分の発言を謝った。
今度は、琳玲が慶之の前に跪いた。
「兄上、この楊琳玲。これより、楊慶之兄上の臣下として忠誠を捧げます。」
琳玲は跪いたまま、両手を高く上げて、右手の拳を左手でつかんで、臣下の礼を行った。
朱義忠や副官の楚郭も慌てて、琳玲に従って両手うぃ上げた。
隣で、静香が微笑みながら、跪いている琳玲を見ている。
「静香。これはお前が仕組んだのか。」
急に、琳玲が旧南東軍の統帥権について話してきたのはちょっと唐突すぎた。
いつもなら公明あたりが根回しをしそうであるが、琳玲の方から旧南東軍の統帥権の話が出て来たからだ。
「あら、別に仕組んだわけじゃないわ。ただ、私の大事な義妹(いもうと)を戦場には向かわせたくなかっただけよ。それで、旧南東軍の頭領を慶之に渡したら、慶之の勢力が一本化できると話したのよ。」
「なにが、大事な義妹(いもうと)なんだ。お前と琳玲は血など繋がっていないだろうが。」
「あら、慶之もつれないわね。あなたの妹は、血がつながっていなくても私の義妹よ。ねぇ、琳玲、あなたも、優しいお姉さんが欲しいでしょ。」
静香のいつもの病気が始まった。
彼女は知能の能力が高く、元女王としての経験もあった頼りになる時もあるのだが、時々おかしくなる時があった。
今の静香はおかしいモードの静香だ。
「静香さん。琳玲ちゃんは、あなたの義妹(いもうと)じゃ、無いわよ。」
ちょうど、そこに敵の鎧騎士の魔石を回収し終わって、戦場から戻ってきた麗華や桜花、美麗とレイラと陽花の5人が『領主の間』に入ってきた。
「あら、なに、麗華。戻ってきたの。まぁ、将来の話よ、未来(さき)の話。」
「未来(さき)も、無いわよ。慶之は・・・・。」
「あっ、麗華義姉(ねえ)さま。」
麗華を見つけた琳玲が、麗華の言葉を遮るように叫んだ。
跪いていた琳玲は立ち上がると、麗華の胸に抱きついていった。
「琳玲ちゃんも無事で良かったわ。本当に、子雲と一緒に心配していたのよ。」
麗華は、優しく麗華の背中を抱きしめた。
戦友と再びまみえたように嬉しそうに抱き合った。
2人の目から涙が流れている。
「お義姉様こそ。確か趙家軍の将軍になられたと風の便りで聞いていました。そのお義姉様が、なぜ、この場に?」
琳玲は、麗華がまだ趙家軍の将軍をしていると思っていたようだ。
「私、子雲についてきたの。子雲がいない場所では私は生きていけないと思い知ったからね。もう離れるのは嫌なのよ。」
「そ、そうなのですか。それに、あの長い髪は・・・。」
その言葉を聞いて、琳玲の目から流れていた涙がさらに増えた気がする。
琳玲は、髪の話を出して、直ぐに言葉を止めた。
途中で、慶兄の死を聞いて、麗華が髪を切って軍に入ったことを思い出したからだ。
麗華の赤い長い髪は本当に綺麗だった。その髪を切って、自分の覚悟を示して軍に入ったと琳玲は人づてに聞いていた。
許嫁が死ねば、新たな婚約の話が出るのは当たり前だし、貴族としては新たな婚約をするのが当たり前だった。それを麗華は慶之に操を立てて、髪を切って軍に入ってしまったのだ。
「どうしたの。琳玲ちゃん。私の髪をじっと見て。何かついているかしら。」
麗華は、からかうように聞いた。
「いいえ。麗華義姉(ねえ)さまの髪が綺麗だなと思って。昔の長い髪も綺麗でしたけど。今はもっと綺麗です。本当に、綺麗です。」
「あら、嬉しいわね。私も、この髪は気に入っているのよ。」
麗華は嬉しそうにほほ笑んだ。
「・・・・・。お義姉様。本当に慶兄を、いや、兄をお願いします。」
「あら、どうしたの。琳玲ちゃん。『いつも、私の慶兄。』と子雲を奪い合ったじゃない。大人になっちゃったのかしら。寂しいわね」
涙声の琳玲に、麗華はからかった口調で返す。
「そうですね、あの頃は子供でした。私も成長しました。」
「そうよね。琳玲ちゃんの活躍は噂で聞いていたわ。今まで一人で楊家の家臣団を支えてきたのよね。凄いわ、でも、これからは一緒よ。私も子雲の為に戦うわよ。」
「いえ。私は、ただのお神輿です。凄かったのは支えてくれた朱義忠や臣下たち。」
琳玲は、今までを振り返るように語った。
【楊都】が陥落してから、自分たちの為に戦ってくれた朱義忠や他の家臣たちの事を。
そして、愚かにも秦家軍に捕まった自分を助ける為に命を賭けた臣下たちの忠義を。
楽しそうに話している琳玲と麗華の2人に、静香が割り込んできた。
「ずいぶん楽しそうに盛り上がっているわね。琳玲と麗華は仲が良いのかしら。」
2人の会話を聞いていた静香の表情が引き攣っている。
「そうよ、静香さん。私と琳玲ちゃんは付き合いが長いの。」
麗華の余裕の表情に、静香の顔がだんだん悔しそうな表情に変わった。
「なに、麗華、その勝ち誇った顔は。納得いかないんですけど!!琳玲を牢屋から救い出したのは、私と有加なのよ。それに、麗華と慶之との婚約を解消したんだから、元お義姉さんよね。『お義姉さん』と呼ばれるのはおかしく無いかしら?」
静香がムキになって怒りはじめた。
「静香、ちょっと大人気ないかな。まだ、静香は琳玲殿と会ったばかりだから、そんなに焦らなくても良いんじゃないか。麗華さんは楊琳玲殿と一緒にいた時間が長いようだからね。それと、琳玲殿。僕は姜桜花だ。君の兄上の子雲とは親しくさせてもらっている。よろしく頼むよ。僕のことは『桜花お義姉さん』と呼んでくれると嬉しいかな。」
桜花は最後の方は少し顔を赤らめて、自己紹介をしていた。
「桜花、あんた、なに、ちゃっかり自分の事を『桜花お義姉さん』とか言っちゃてんのよ!私の事を大人気ないとか言いながら!」
「別に良いじゃないか。僕がどんな自己紹介しようと僕の勝手だろ。」
桜花は開き直って、静香をチラッと見てニタッと笑った。
「あ、あの、それでは『桜花さん』と呼ばせて頂きます。よろしくお願いします。」
「ああ、『桜花さん』なんだ、まぁ、良いか。こちらこそ、よろしく。」
桜花は自分が『さん』付けで呼ばれて、少しがっくりしたようだが直ぐに立ち直った。
「あら、桜花も私と同じ呼ばれ方じゃない。」
静香が『ほら見たことね』と言った表情で、桜花をからかって喜んでいる。
「琳玲ちゃん。ありがとう。嬉しいわ。」
麗華が、悔しがる2人を見て、軽い気持ちで琳玲にお礼をいった。
「当たり前です。麗華お義姉さんは特別なんです。お義姉さんは・・・。楊家が滅んで、慶兄が死んだと言われても、慶兄の事は忘れろと言われても。麗華お義姉さんだけは・・・、慶兄が生きていると信じて、慶兄のことを見捨てなかった。髪を切って、軍に入ってまで想いを貫いた。そんなことができるのは麗華お義姉さんだけです。だから、私の『お義姉さん』は麗華さんだけしかいません。」
琳玲が、麗華の手を取って頭を下げた。
「琳玲ちゃん。大袈裟よ。そんな風に言われると、さすがに照れるわね。私はただ自分の信念を・・いや、我儘を貫いただけよ。」
「いえ。お義姉様は慶兄への愛を行動で現しました。だから、私もお義姉さんへの尊敬の念を言葉で現わします。」
麗華が照れていると、琳玲がきっぱりと言った。
さすがの静香も、ここまで言われると黙っているしかなかった。
「琳玲、盛り上がっている処に悪いんだが、義忠や皆に仲間を紹介したいんだが。」
琳玲の熱弁に、慶之が遠慮しながら話を切りだした。
「あっ、すみません。慶之兄上。」
それから慶之は、美麗やレイラ、陽花、それに羅漢中や李剣星などの今回の作戦に参加した騎士を紹介した。
その後に『移転の扉』を【曹陽】の居城と繋いで呼び寄せた、小熊のヌイグルミの姜馬や『姜氏の里』の仲間、燕荊軻や羅元景たちを紹介した。
紹介された琳玲や朱義忠、王常忠たちは紹介された慶之の仲間の顔ぶれに驚いていた。
神級魔力の持ち主が姜桜花に源聖香、レイラと董陽花、羅漢中の5人に新たに、趙麗華と虞美麗の2人も今回の戦いで神級魔力に昇華したと聞いて合計7人になる。
王級魔力は、燕荊軻、李剣星の2人。
それに虹色魔力の慶之が加われば、王級魔力の騎士が10人になる。
更に、旧南東軍の神級魔力の朱義忠と王級魔力の楊琳玲の2人が加われば12人。
その戦力は蔡家軍に匹敵する戦力であった。
蔡家軍は表では、蔡家7将軍の王級魔力以上の騎士が7人。
闇の5人組は公にはなっていないが、半蔵の情報では王級魔力の騎士が何人かいるのでほぼ同じ戦力であった。
それに紹介された仲間は騎士だけではない。
藍公明を筆頭に姜法政や羅元景、姜栄一など、武官には見劣りするが、文官も相応に揃っていた。
文官の取りまとめ役として、小熊のヌイグルミの姜馬を紹介された時は朱義忠や琳玲も吹き出しそうになっていたが、慶之の師匠で、慶之の魔力を発現させ40年前は『虹の魔導士』と教団で呼ばれた人物だと話すと、琳玲や朱義忠たちも驚いていた。
「燕荊軻殿や羅元景殿と、また一緒に戦えるのは心強い。特に鬼餓狼を倒した荊軻殿の『英雄将軍』の2つ名は旧南東軍にも知れ渡っているからな。」
朱義忠は本当に心強いのだろう、嬉しそうに荊軻と元景の2人に挨拶をした。
「こちらの方こそ、神級魔力の騎士、朱義忠将軍と一緒に戦うのは10年前の『死海の森の戦い』以来ですな。お互いに、今のような時が来るとは思っていなかったですが。」
対する荊軻も、朱義忠の事はよく知っていた。感慨深げに義忠に挨拶をした。
朱義忠と燕荊軻、羅元景の3人は、楊公爵家とその寄子の貴族軍と言うことでお互いに良く知っていた。
また、荊軻たちと話しをして、曹家領もこの秦家領同様、慶之たちの勢力下に入っていることを朱義忠は改めて認識した。
荊軻の掛け声で、3人がお互いに手を握り合っていた。
「それで、今後の事なのですが・・・。」
新たな仲間同士で盛り上がっている処で、この場に皆を集めた公明が口を開いた。
皆、公明の声で話を止めると、彼の言葉に耳を傾けた。
「まず、2週間以内に秦家領を占領するという目標は達成できそうです。秦家軍の主力の鎧騎士は全滅させ、秦家軍の鎧騎士の9割の魔石を回収しました。後は、秦伯爵が秦家領でゲリラ戦を挑むようであれば、それらを撃退すれば終わりです。秦家軍の勢力をこの秦家領から追い出すのは、そんなに難しくないと思います。」
公明は自信を持って言った。
「本当に、2週間で秦家領を落としてしまうとは・・・。これで、蔡家軍の本軍がこちらに攻めてきても、対抗出来るわけですね。」
『蔡家軍が最短で2週間で攻めて来る』公明が言ったその言葉を荊軻は気にしていた。
2週間は蔡家軍の準備期間である。
慶之たちが占領した旧曹家領を取り戻す為に、包囲して短期決戦で力押しの作戦を蔡家軍が取ると公明は読んでいた。
その為、慶之達は2週間以内に秦家領を攻略しなければならなかった。
東の秦家領を慶之が獲れば、蔡家軍の包囲攻撃が出来なくなる。そうすれば、蔡家軍の力押しの作戦も取れない。さらに言えば、たった1週間で曹家領と秦家領の2つの伯爵家を容易に攻略した慶之に対して警戒すると読んでいた。
蔡辺境伯が警戒すれば、するほど慶之たちは時間が稼げることになる。
その為にも、秦家領を攻略すると無理に、秦家領の攻略を敢行したのだ。
荊軻の質問は包囲される心配が無くなった事と、蔡家軍が攻めて来るのにどれくらいの時間が稼げるかを聞いていた。
「まだ、蔡家軍と戦う態勢は十分とは言えません。まずは、南東軍。国境に駐留している南東軍を叩く事。2つ目は秦伯領に残る秦伯爵の残党勢力。秦家の財を伯爵の息子が持ち出しました。奴らの手に財が渡ると面倒です。そして3つ目は、大商国。大商国にも手を打っておく必要がありますね。ただ、2週間という短期間でこちらを攻めることは無いでしょうが、この3つを叩かないと蔡家軍とはまだ戦えません。」
「公明殿、ちょっと良いですか。」
遠慮がちに手を挙げたのは、朱義忠である。
「どうぞ、朱義忠将軍。」
「南東軍を攻略するのは分かる。だが、大商国まで手を伸ばすのは如何なモノか。今、大商国と敵対するのは敵を増やすだけです。我らにそんな余力はない。それより、使者を出して、交流を結ぶ方が無駄な戦力を割かなくて良い。」
朱義忠は旧南東軍を率いて、秦家軍と戦う際に上手く大商国を利用してきた。その所為か大商国に対して悪感情を持っていなかった。
「義忠将軍の考えは良く分かります。確かに、いたずらに大商国を刺激して敵を増やすのは愚策。ですが、大商国の領土と接した場所に慶之様の勢力が生まれた以上、大商国はこちらに手を出してこない保証はありません。もし、突然、強国が分裂して、自国に領土が接した場所に弱小国が生まれたら将軍ならどうしますか。」
「確かに、領土拡大のチャンスと思いますか・・・。今まで、隣国の強国に恐れを抱いていれば、尚更、このチャンスは逃したく無いでしょう。」
「今は乱世。我々が強国ならいざ知らず、こちらは出来たばかりの弱小勢力。隣国の大商国が、こちらに手を伸ばしてくると考えるのが普通です。手を打っておかないと、蔡辺境伯と戦っている間に背中を刺される。なんて事も想定するのが軍師ですから。」
「さすがは、慶之様の軍師殿。そこまで考えが至りませんでした。確かにその通りです。ですが、我らは今、南東軍を最優先にすべきです。大商国まで手を出す余力があるのでしょうか。」
「それを考えるのが軍師である私の務めです。何とかしますよ。それより、大きな方針は、今伝えた通りですがよろしいですか、慶之様。」
「ああ、その方針で問題ない。」
「それでは、秦伯爵は、琳玲様と朱義忠将軍にお任せします。奴らの戦力は歩兵のみ。我らの間者『姜氏の忍』が今、伯爵ならびに伯爵家の財を持ち出した伯爵の嫡男を追わせております。籠った場所が分かり次第、殲滅をお願いします。」
「分かったわ。」「分かりました。」
琳玲と義忠が、両腕を高く上げて受令の礼を行った。
「次に、姜法政殿と、王常之殿。2人は秦家領の統治をお願いします。王常之殿には兵も集めて欲しい。出来れば、兵士を3万人集めてください。」
「かしこまりました。ですが、その募兵は徴兵ですか。それとも志願ですか。」
王常之が公明に尋ねた。
王常之は侍従長として楊家の内政に関与していたので、この手の事は熟知していた。強制的に兵を募る徴兵ならどの程度の人数、志願兵を募るならどの程度の数が集まるか分かるようだ。
「志願兵でどの程度集まりそうですか。」
「そうですね、普通なら5千程度。ですが、今は秦家が捕まえた奴隷を解放すれば、1万いや、2万は集まるかも知れません。」
「でしたら、志願兵で集められるだけ集めてください。費用は秦家の嫡男が持ち去った秦家の財を回収して充てますので、少し傭兵の賃金を多くしてもらって構いません。その代わり、慶之様の軍は一切略奪や暴行は禁止です。禁を犯した者は死罪。それはしっかりと伝えてください。その条件で、秦家領で3万の兵を集めてください。」
この世界の戦争で、都市を陥落させたときは略奪や暴行は当たり前であった。
基本的にこの世界の兵は徴兵で強制的に集められた兵である。
食料だけ支給されて、賃金などはほとんど支給されない。武勲を上げれば恩賞に奴隷が貰えるが、それは運の良い奴だけだ。ほとんどの兵は略奪で稼いだ金を家族に持ち帰る。だから、略奪を許さないと士気は下がるし、中には反乱になる場合もあった。
慶之の軍のように略奪や暴行を一切禁止し、賃金を払う方が珍しい。
「分かりました。それなら、兵への賃金の方は私の方で用意致しましょう。親方様から預かった楊家の財産があります。元々、この資金は楊家の復興の為にと預けられたモノです。ここで使わなかったら、あの世で親方様に叱られます。」
王常之は、慶之の父の楊公爵から託された楊家の隠し財産を供出すると申し出た。
「助かります。それでは、姜法政殿は治安の回復や統治の安定化。王常之殿は志願兵の募兵をお願いします。そして、残りは南東軍の攻略です。よろしいですか。」
「ちょっと待ってよ。公明。まさか、今回も明日の早朝に出発とか言わないわよね。今回も昨日の夜からずっと働き詰めなのよ。今回はちゃんと休みを取らせてくれるんでしょうね。過労はお肌に悪いのよ。」
大声を上げたのは聖香だった。
確かに、静香の言う通り、曹家領の攻略から連戦が続いている。
これじゃ、前世の病院よりもブラックな労働環境はいがめない。
「聖女王様。これが、今回の作戦の一つの節目です。この戦いが終われば、まとまった日数の休憩を差し上げます。ですが、今は『兵は早きを尊ぶ。』です。今の状況は、東の南東軍、北の王国軍、西から貴族連合の3方向から包囲されている状況は変わっていません。今が正念場なのです。ただ、どうしても嫌ならここで待機でも構いませんが。聖香様抜きで作戦は行いますので。」
公明が、冷ややかな視線で静香を見た。
「わ、分かったわよ。行くわよ。行けば良いんでしょ。本当に、公明は人使いが荒いんだから。まぁ、その代わり、絶対勝てるんでしょうね。」
静香は自分だけが留守番なのは嫌だったようだ。
麗華と美麗は、前回の秦家軍の戦いで神級魔力に昇華していた。
それに、先ほどの琳玲の『麗華お義姉様』の発言もあった。ここで、自分だけが留守番なのは、さすがに避けたい心境であったのだろう。
「はい。勝ちます。」
公明は自信を持った表情でニヤリと笑うのであった。
* * *
【秦家領の郊外】 秦将君
秦家領の領都【秦陽】から王都へ向かう道中。
秦伯爵の嫡男の秦将君は、運べるだけの財宝や金を積んで荷馬車を走らせていた。
すでに、太陽はだいぶん西に傾いている。
秦将君が【秦陽】から慌てて逃げ出した時は昼頃であった。
秦家軍の鎧騎士が全滅したと聞いて、慌てて逃げ出す算段をした。その際に、運べるだけの秦家の財産を荷馬車に搭載した。もし、父の伯爵が今回の戦いで戦士していたら、後は自分が秦家を建て直さなければならない。その時、モノを言うのが金だ。
領地を失い、金も無ければ誰も秦家など相手にしてくれない。
秦家を建て直さなければならない自分にとって、この財産が最後の手札であった。
陽は西の山々の後ろに姿を隠そうとして、空は茜色に染まっていた。
秦家の財を運ぶ荷馬車の周りには、百名近い兵士が騎馬に乗って警備している。
その後ろには、『奴隷の首輪』をつけた民が荷物を抱えて走らされていた。
秦将君が逃げる道中で、村を襲って捕まえた領民たちであった。
「もう、ダメだ。疲れて、走れねぇ。」
「黙って走れ。」
――ビッシィ。
走り通しで疲れた民を、騎馬の上から兵が容赦なく鞭で叩いていた。
そんな中、秦文君は爪を噛みながら、馬車の中でブツブツとつぶやいていた。
「ああ、全く俺は不幸だ。馬鹿な弟に、無能な親父の所為で俺が尻拭いをしなきゃなんないんだ。たかが、楊家の残党にやられるなんて、馬鹿か、無能のどちらかだ。どうやって戦えば、たかが7騎の鎧騎士に500騎の鎧騎士が全滅するんだ。負け方を教えて欲しいくらいだよ、全く。」
秦将君は、逃げてきた秦家軍の兵から話は聞いていた。
たった2騎の鎧騎士に城内の秦家軍の鎧騎士が全滅したと聞いて、慌てて城外に逃げ出した。城外で後から合流した兵の話によると、城外も5騎の鎧騎士を相手に秦家軍の300騎の鎧騎士が全滅したと聞いてあきれていた。
「馬鹿の秦武君は置いてきたが・・・、全く鎧騎士無しで歩兵のみで戦うとか、意味が分からない。」
秦将君は、一緒に籠城を唱えた弟の秦武君を残して逃げて来たが、状況を読めない弟のことを馬鹿にしていた。
「とにかく、今は王都にいき、国王に。いや、曹宰相か・・・、だが、曹宰相も弱い。だったら、蔡辺境伯に頼るしかないが・・・辺境伯は油断ができなきし・・・。」
秦将君はとにかく王都で王国軍を動かして、秦家領を賊から奪い返さなければならない。
7歳の国王を頼っても無意味だ。
実権者である曹宰相を頼るのが筋なのでが、あの男はとにかく腰が重たかった。
秦家の財や金を元手に、蔡辺境伯にすがりつくしかない。父は、3大貴族の2貴族を倒してから、蔡辺境伯は変わってしまったと警戒していた。
秦将君が、今後について考えていると、伝令兵が馬車に近づいて来た。
「将君様、秦家に向かう王都からの使者に会って、状況を説明した所、使者が将君様に面会を求めております。どう致しますか?」
「王都からの使者だと・・・、会おう。一旦、皆に休息の合図を出せ。いや、もう日が暮れようとしている。この辺りで野営の良い場所を探して、そこに使者をお通ししろ。」
「はっ。」
伝令兵は命令通り兵士たちに野営の命令を出すと、使者を迎えに行った。
(それにしても、王都から秦家への使者だと・・・、秦家が賊に敗北したことが知れるにしては早過ぎる。いったい、何の使者だ?)
秦将君は再び考えたが、分からないと割り切ると使者との面談に向かった。
使者は部下に聞くと、法衣貴族の男爵家の者だった。
本来、正式な使者として迎える際には王の代理の使者が上座に立つが、お互いの情報収集の為、非公式として使者の男爵に面談をすることにした。
野営場所に向かうと、既に使者の男爵から近づいてきた。
「貴殿が申子爵の嫡男の秦将君殿か。私は秦家領に向かう途中の王国の使者ですが、秦家が賊に敗れたと聞いたが、本当なのですか。」
非公式の場なので、嫡男とはいえ伯爵家の秦将君に遠慮しながら、曽男爵は状況の説明を求めた。
部下から聞いた範囲でしか状況を知らないが、知り得た情報の範囲で秦将君が説明を行った。
「う~ん。たった7騎が秦家軍500騎の鎧騎士を全滅させ、秦伯爵や次男も捕まったのか分からないのですか・・・いくらなんでもそんな事は信じられないと言いたい所ですが。たぶん、それは事実でしょう。実は曹家でも同じようなことが起きております。私はその事実を秦伯爵に伝え、曹家領の賊を倒す為に秦家軍を出すようにと王命を伝えに伺う所でした。」
「ほ、本当ですか・・・、それでは曹家領も。」
「はい。3騎の鎧騎士によって、300騎の曹家軍の鎧騎士が全滅しました。曹伯爵も捕縛されたのが、4日前です。たった、4日間で秦家領も落とすとは・・・。」
「そ、そうなのですか。それでは、秦家軍を全滅させた敵は旧南東軍ではなく、曹家領を倒した何者かの仕業だったのですか。それなら、武君や父が無能であったわけでは無いのか・・・。」
秦将君は使者に聞こえないような小声でつぶやいた。
「敵は楊公爵家の三男、楊慶之。楊家領の攻略に動くとは思って、直ぐに使者をだしたのですが、それを上回る動きで動くとは・・・。そうと知ったら、このまま秦家領に向かっても仕方ない。この情報を一刻も早く王都に持ち帰らなければ。直ぐに王都へ戻るとしましょう。」
使者の曽男爵は、賊が自分たちの予想を上回る速さで動いている事に憂慮した。
「ま、待ってください。曽男爵。既に陽は暮れました。今から急いでも、夜に馬を走らせることになります。夜は魔物や野盗で危険です。今夜は一緒に野営でもして、明日にでも旅立たれては。」
「・・・いや、私は直ぐにでも、この情報を王都に知らせねば。次は南東軍が危ない。」
曽男爵は使者の役目が果たせなかった今、少しでも早く情報を持ち帰らねばと焦っていた。それだけ、秦家領が既に族の手に落ちていたことが衝撃だったのだ。
「そうか。貴殿には、貴殿の役目があるのであろう。無理には止めないが、夜道は危険だから十分に気をつけてくれ。それと、私も遅れて王都に戻るので、その際には、賊を倒す軍の編成を叫ぶつもりだ。その際は協力して欲しい。」
秦将君は、曽男爵の手を握ると王都に戻る一隊を見送った。
「それにしても、楊慶之とは何者なんだ。」
使者の情報だと、曹伯爵領を攻め落として、四日で秦家領も攻め落としたことになる。
そんな戦力を持つ者は、この大陳国には存在しない。
楊家の三男と名乗っているそうだが、実態は国外勢力の支援を受けているに違いないと言っていた。
たしかに、相当の魔力と鎧の技術を持った者であれば、不可能ではないが・・・そのような力は秦将君の頭では想像も出来なかった。
「これ以上考えても無駄だな。食事はまだか。」
「もう少しです。秦将君様。」
秦武君は考えるのを止めて、兵に食事を催促した。
急いで居城を出てきたので、秦家の財を荷馬車に積むのに集中して、食料はあまり持ち運んでいなかった。
仕方が無いので、途中で村を襲って食糧を略奪していたのだ。
襲った村の領民には『奴隷の首輪』を嵌めて、食糧を運ばせている。
そして、野営に入ると、『奴隷の首輪』を嵌めた領民たちに料理もさせていた。
捕まえた領民たちは王都まで荷物持ちや雑用をさせて、王都についたら奴隷として売れば良いと考えていたのであった。
秦家の財宝や金を持ち運んではいるが、これから王都では金が掛かる。秦家領を取り戻す軍を派遣するよう、大物貴族や閣僚に働きかけねばならない。奴隷を売った金などはした金だが、無いより有った方が良いくらいの感覚だ。
暫すると、将君の前に料理が出てきた。小麦粉を焼いたナンのような『紙焼』だ。
野営の食事としては、上出来なのだが。
文君は、紙焼を口に含む。
「なんだ、これは。こんな不味い食べ物を俺に喰えというのか。ペッ。」
将君は口に含んだ紙焼を吐き出した。
「すんません。私らが作れる料理はこんなモノしかありませんので。」
料理を作った領民の女が傍(そば)で震えながら答えた。
「こんな不味い料理を作ったのは、お前か!」
秦将君は威圧するように女を睨みつけ、彼女に目がけて料理の乗った皿を投げつけた。
女は怯えたように震えている。
「すんません。すんません。」
彼女は、頭を下げて必死に謝るしかなかった。
しかし、秦将君の怒りはエキサイトしていった。秦家領が賊に奪われて、秦家領を失うかも知れない状況に恐れや不安定があったのかもしれない。
気持ちが高ぶって、秦将君は腰にぶら下げた剣に手をつけていた。
「おまえは、私を馬鹿にするのか。いや、落ちぶれた秦家を馬鹿にするつもりだろう。こんなみすぼらしい食べ物を喰わせて。違うか!」
秦将君の不安で優れない気持ちを追い払うかのような大声で領民の女を怒鳴りつけた。
彼女は泣きながら謝るが、秦将君の耳には入らない。気持ちが高ぶっている所為か、幻覚を見るかのように妄想の世界に入って行く。
「お前たち、賊を繋がっているな。そうか、楊家の三男を招き入れたのはお前たちに違いない。秦家がそんなに気に入らないのか。」
「ち、違います。私らは、こんな料理しか作れんのです。許してつかあさい。」
泣きながら、謝り続ける。
「許せだと。平民の癖に貴族に命令をするつもりか。益々、許せんな。」
腰の剣を鞘から抜いた。
「私にこんな料理を食べさせた罪。そして貴族に命令をした罪。楊家の賊と繋がって賊を招き入れた罪。これだけの罪を犯したのだ。処刑だ、お前は!」
秦将君の高ぶった気持ちは止まらない。
勝手に、女を敵と思い込むように自分に言い含めていく。
「死ねや。俺を馬鹿にした罰だ。」
地面に跪いて頭を下げる領民の女を前にして、秦将君は剣を高く掲げた。
――カキン。
金属がぶつかり合う音がした。
高く掲げられた剣は、女の頭の上に振り降ろされる事は無かった。
突然現れた黒装束の人が現れて、秦将君の刀を弾いたからだ。
それが合図だった。
夜の暗闇から、複数人の黒装束を着た人たちが一斉に姿を現した。
彼らは小刀を抜くと、秦将君の連れていた兵に襲い掛かる。
野営でくつろいでいた兵たちは、黒装束の人たちに奇襲を受けて、碌な抵抗もせずに倒されていった。
奇襲で一撃を与えると、黒装束の人たちは次に野営の火を消した。暗闇の中に溶け込むように姿を消すと、次々に秦将君の兵たちを倒していった。
気づくと、ほんの一瞬で、周りにいた兵士が首を失って倒れこむ。
「うわぁぁ、曲者だ、曲者が現れた。だ、誰かいるか・・・敵だ。」
秦将君は、突然現れた敵を見て驚いた。
慌てて、味方の部下を呼ぼうと大声を上げて叫ぶ。
「・・・・・・・。」
だが、部下からの返事どころか、姿を現す気配すら無かった。
目の前の黒装束の男が歩いて近づいてくる。秦将君はとにかく逃げようと、転げるように天幕の外に出た。
そこで目に入ったのは、地面に転がっている味方の兵の姿であった。
「うわぁぁぁぁぁぁぁ、な、なんだ、こりゃ。」
自分の周りの兵士が倒れるのを見て、恐怖で顔を引きつらせている。そして、天幕から出た勢いで、そのまま地面に座り込んでしまった。
周りをよく見ると、暗闇に溶け込んでいて良く見えないが、黒装束の人の気配を感じる。それもけっこうな数の人の気配だ。
秦将君に向かって、天幕に現れた黒装束の人が歩いて近づいてくる。
「お、お前か、私の部下をこんな目に会わせたのは。」
「そうだ。」
「お前たちは何者だ。楊慶之の仲間か。」
地面に尻をつけたまま、這うように後ろに下がりながら、黒装束の男に問いかけた。
「名を聞きたいか。聞いたら、後悔するぞ。」
「私を脅すつもりか・・・。たかが、間者が。」
秦将君は強気で言い返すが、顔は恐怖で引き攣らせている。
地面を後ろに這いずっていく。
「私は姜半蔵。もう、これで良いか・・・。」
半蔵が間合いを詰めるように歩いてくる。
「・・・わ、分かった。私が悪かった。財宝はくれてや・・・・。」
必死に命乞いをしながら、とにかくこの場から逃げようと下がっていく。
――ボトン。
今まで話していた秦将君の首が、地面に落ちた。
小刀を鞘にしまう。
「半蔵様が名乗るとは、珍しいですね。」
仲間の間者が姿を現した。
「佐助か。ちょっと腹が立った。大人気なかったな。」
「いえ、このクズに私も腹が立っていましたから、清々しましたよ。」
佐助は地面に倒れた秦将君の体から『奴隷の首輪』の鍵を探し出すと、部下の黒装束の間者に鍵を渡した。
部下達が、捕らえられた奴隷達の首輪を外して、解放していく。
「これで、秦家の財産の回収は終わりだな。」
「はい。半蔵様。これで秦伯爵は軍資金を失いました。兵糧を得る資金が無ければ、持久戦を出来ません。後は、朱義忠将軍が片付けてくれるでしょう。」
「それでは、秦家の財産や金を《魔法の鞄》に入れて慶之様の元に運んでおいてくれ。これで、少しは軍の資金の足しになるだろう。」
「はい。」
佐助は返事をすると、部下の元に向かった。
慶之たちは勢力を維持する資金を、秦家や曹家などの倒した貴族から没収した財宝や金を充てていた。
普通の占領軍なら、占領地の民から税を臨時徴収するか、収穫期を過ぎていると徴収する税がない場合は、民を奴隷として売って軍を維持する金を集める。
だが、慶之たちは通常の年貢だけで、それ以外の税の徴収は行うつもりは無かった。
貴族や魔物を倒し、民を救う為に戦うのが、慶之たちの大義になっていたからだ。
数万の軍を運営するには、正直、秦家と曹家の財産だけでは余裕が無いが、楊家の隠し財産の資金援助も加わって何とかなりそうな状況であった。
だが、本当に財政に困ったら、『亀山社中』の資金援助もあるので最終的には心配はなかった。
「これからが、正念場か。姜馬様の夢の・・・。」
半蔵は佐助が姿を消すと、気持ちを新たにして次の戦場に向かうのであった。
* * *
「蔡辺境伯様。勾践から『鳩』が来ました。」
5人組を取り仕切る候景が言った『鳩』とは鳩を飛ばして送る連絡のことだ。
「確か、勾践と文主には、秦家軍に送り込んだ鎧騎士200騎を回収して、国境を守る南東軍と合流させる命令を与えていたが。上手くいったか。」
「いえ。合流させる前に、秦家領が楊慶之に攻略されたとの連絡です。」
「曹家領が落とされて、数日しか経っていないというのに。秦家領が落とされたか。」
「はい。移動だけでも2,3日は掛かります。どうやって秦家領を攻略したか詳細は不明ですが。ただ、秦家領は楊慶之の手に落ちて、鎧騎士500騎は全滅したのは事実のようです。なんでも、報告には大聖国の神級魔力の使い手に遭遇したとありました。」
「大聖国だと・・・。やはり、教団か。」
大聖国の王都に教団の本拠地はあった。
それに、獣魔王の黒姫が楊慶之を『虹の王』と呼んでいた。
黒姫の呼ぶ『虹の王』と、教団が探している使徒は、虹色魔力を持つ点で一致している。同一人物と考えれば、教団が使徒である楊慶之を援助する事は十分に考えられた。
「楊慶之が望むのは、楊家の復興と楊家領の奪還か・・・。」
蔡辺境伯がつぶやいた。
教団が黒幕となって楊慶之の為に曹家領と秦家領の攻略を援助していると蔡辺境は考えていた。教団なら、短期間でそれだけの策を考える人材もいると。
教団には、優秀な人材が多かった。子供の頃から、魔力や才能のある人材を教団は強引に引き込んで育てていた。
「候景、直ぐに鄭任将軍と軍師の呉起を呼んでくれ。」
「はっ。」
候景は直ぐに、部屋を出て2人を呼びに行った。
(それなら、辻褄が合うが・・・。だが、相手が教団となると、こちらも全力で戦う必要があるな。それにしても、使徒とは厄介な奴がこの大陳国に現れたモノだ。しかも、よりによってその相手が楊家の三男とは・・・。)
蔡辺境伯は心の中で愚痴を言っていた。
暫くすると、鄭任将軍と軍師の呉起の2人がやってきた。
この2人は獣魔王の黒姫から借りている人材で頭が切れる。黒姫は《認識》魔法が使えるようで能力の高い子供を見つけては、手駒として育てる趣味があった。
教団のように無理やり手に入れるのではなく、子供の奴隷から見つけて買うのである。
その手駒の一人が蔡家7将軍の筆頭将軍で鄭任将軍。
そしてもう一人が蔡家軍の軍師を行っている呉起であった。
「蔡辺境伯様、お呼びですか。」
「急いで来てもらってすまない。実は秦家に潜入していた勾践から『鳩』が来た。」
鄭任と呉起の2人に蔡辺境伯は勾践からの手紙の内容を説明した。
「もう、秦家領も落とされたのですか。相当の策士が敵にはいるようですね。」
鄭任は勾践からの報告を目にすると、蔡辺境伯と同じように敵の軍師の存在に気づいたようであった。
「確かに、意表を突いた策だ。相手にこれだけの軍師がいるとなると、勾践が何も出来ないで逃げたのも頷けるが・・・、さて、これからどう動くかだが。」
呉起も、手を顎にやって考え込んでいた。
「まず、敵を知らねば策は考えられません。楊慶之には、相当の勢力が味方に付いているようです。その勢力によって楊慶之の力が推し量れますが。」
「たぶん、教団だ。楊慶之の裏で動いているのは。これだけの戦力と人材を、たかが貴族領の賊に惜しげもなく投入するような酔狂に手を貸すのは教団くらいだ。」
「ですが、蔡辺境伯。敵は、優秀な軍師、神級魔力の騎士、それに専用機まで投入しています。もし、教団が敵ならなぜ、これだけの戦力を投入してまで楊慶之に肩入れするのでしょうか。」
「それは楊慶之が教団の使徒だからだろう。黒姫は《火の迷宮》で奴に会っているその黒姫が言うには、楊慶之は虹色魔力を持っているそうだ。そして教団では、始祖の予言がどうの、虹色魔力を持つ使徒が現れると騒いでいる。もし、虹色魔力を持つ楊慶之が使徒なら、教団が楊慶之に力を貸す理由はある。」
鄭任も教団が始祖の予言とか言って騒いでいるのは知っていた。虹色魔力がどうのと言っていたが、教団の信者からは神級魔力を上回る魔力だと聞いていた。
「教団ですか・・・確かに厄介ですね。裏に教団がいると仮定すると、楊慶之の戦力は侮れません。たぶん、次の奴らの狙いは南東軍。楊慶之の軍師は東の敵を一掃して、私たちに包囲網を崩す策を採るつもりです。東の国境に駐留している南東軍は目の上のたんこぶ。絶対、排除に動くでしょう。」
鄭任は、辺境伯が机の上に置いた地図を見ながら意見を述べた。
「私もそう思う。そこで、南東軍についての2人の意見を聞きたい。」
「・・・南東軍の戦力を北に動かして、北東軍と合流させましょう。」
鄭任は暫くの間、地図と見つめて考えていたが、やっと考えが纏まったようだった。
大陳国の東の国境は桂長江を挟んで北東に大成国、南東に大商国と接している。
大商国との国境は10年前の『死海の森の戦い』で桂長江の東岸に変わっていた。
鄭任は、南東軍が桂長江を北の川上に登って撤退させると言っていた。
「おい、鄭任。それでは、包囲網が作れないでは無いか。敵の思う壺だぞ。」
鄭任の策に反対したのは呉起であった。
「それでは、呉起。お前は南東軍をそのままにして置くつもりか。」
「そうだ、鄭任。お前は楊慶之の勢力を3方向から包囲する策を捨てるつもりか。」
「なら聞くが、呉起。お前なら楊慶之から南東軍を守るのにどれだけの戦力が必要と考える?鎧騎士千騎か、2千騎か。それに、蔡家7将軍を何人配置するつもりだ。」
「・・・・・・。」
呉起は考えこんで黙ってしまっている。
「まさか、今の戦力の鎧騎士500騎で迎え撃つと言うんじゃ無いよな。それじゃ、秦家軍の二の舞だぞ。一番の悪手はこちらの戦力が各個撃破されること。やつらの戦力は多くない。だから、貴族軍を単独で一つひとつ落としているんだ。南東軍も同じ轍を踏むことになるぞ。」
秦家軍は南東軍の戦力と同じ鎧騎士500騎で太刀打ちできなかった。
それに、軍事拠点の防衛面は堅固にしてあるが、東の大商国からの攻撃を想定している。西からの攻撃には桂長江が流れるだけで、特に防衛網を敷いていない。
「・・・・確かに、そうだが。それなら、鄭任は包囲網をあきらめるのか。」
呉起もそんな事は分かっていると言った口調だが、曹家領を包囲する作戦が諦めきれないようであった。今では、曹家領に秦家領も加わった勢力になっているのだが・・・。
「いや、あきらめるつもりは無い。」
「南東軍を撤退させたら、楊慶之の東側には、戦力らしい戦力がいなくなるぞ。」
呉起の言う通り、曹家領と秦家領は大陳国の南東に位置する。東には大商国、南は海となり、楊慶之の勢力を圧迫する戦力は無くなる。
「大商国を使う。」
鄭任はニヤリと笑った。
「確かに、大商国とは祭辺境伯様が『裏の不戦協定』を結んでいるが、包囲網に参戦する義理は無いぞ。もし、大商国に参戦をこちらから依頼すれば、対価が必要になる。無料(ただ)で動くほど大商国はお人好しでは無い。きっと、桂長江の東岸を要求されるのは間違いないな。」
呉起が言う通り、大陳国は大商国の実力者である閻伯爵を通じて、『裏の不戦協定』を結んでいた。この協定は強引に蔡辺境伯が締結まで持っていった。
蔡辺境伯は自分の領土が北にある為、北東の大成国の攻略に目が行っていた。
その為、南東で国境を接している大商国の攻略は後回しと考え、『裏の不戦協定』を結んだのである。大商国としても、強国の東の大陳国より、弱小国の北の大成国の攻略を優先したかったので、大陳国と連携して大成国を攻略するつもりであった。
公に不戦協定を結べないのは、10年前の『死海の森の戦い』のしこりがお互いの国にあるからだ。いつもの蔡辺境伯なら『死海の森の戦い』で血を流した領主の反対など押し切る処だが、今回は国軍も反対していたので、一定の配慮が必要と『裏』の協定を結ぶことにしたのである。
また、『裏』の方が共通の攻略国の大成国に不戦協定を気づかせない目的もあった。
だが、あくまでこの協定は不戦の協定で、大陳国が戦うのに援軍を出す必要は無かった。
「別に、大商国が軍を出さなくても良い。」
「大商国が軍を動かさなければ、包囲網にならないでは無いか。」
呉起の言う通り、大商国が動かなければ、楊慶之の勢力の東に軍事的圧力は生まれない。
「楊慶之に東からの心理的圧力を与えれば良いんだ。」
「心理的攻撃?」
鄭任の言葉に呉起は首を傾げた。
「そうだ。大商国が東に軍を動かすという噂でも良い。実際に攻め入らないで、軍を動かして攻めるという姿勢だけ見せても良い。10年前に大商国から奪った桂長江の東岸を返すと言えば、喜んで軍を動かすだろう。」
「桂長江の東岸は譲歩し過ぎだ。あそこを返還すると言ったら、国軍が黙っていない。」
呉起は鄭任の考えに釘を刺した。
「まぁ、桂長江の東岸の話は置いておいて。私が言いたいのは、大商国を動かせば、慶之の包囲網は出来るという事だ。」
「確かにそうだが。・・・東に1000騎の鎧騎士と、豪武や数人の蔡家7将軍を置いてもダメか。」
「呉起、未練がましいぞ。楊慶之の軍は神出鬼没の上、戦力も未知数だ。もし、奴らが全戦力で豪武が率いる部隊に挑んだらどうする。実質、その戦いが楊慶之と蔡辺境伯様との決戦になるぞ。そんな中途半端な戦力で決戦を挑んだら、敵の思う壺じゃ無いか。」
「そうだな。私も鄭任の考えに賛成しよう。」
呉起はあっさりと自分の考えを変えて、鄭任の考えに賛同した。
「これは、いつものお芝居か」
蔡辺境伯は考え込む表情で、ニヤリと口角を上げた。
お芝居とは、鄭任と呉起が蔡辺境伯に2人の考えを伝える手段だ。
2人の意見が同じでも、わざと反対意見を言い合って議論をする。初めから2人が同じ意見だと言っても、策や意見の真意までは相手に伝わらない。そこで一方がワザと反対の意見を言って、策や意見の良さを分からせるのだ。
「分かった。私も鄭任将軍の意見に賛成しよう。南東軍には撤退させる。直ぐに『鳩』の便を出そう。」
蔡辺境伯も2人の話を聞いて、意見の真意を理解したようであった。
南東軍が個別撃破されるのを回避して、大商国を利用するという別の方法包囲作戦を継続する鄭任の策に納得したようだ。
「ありがとうございます。それと、鳩の『便』を北東の大成国との国境にいる豪武将軍にも送ってください。豪武将軍と、『あの鎧』にも一働きしてもらいます。」
「北東軍の豪武将軍?南東軍を撤退させるだけの策に豪武将軍を動かすのか、しかもあの鎧も・・・分かった。鄭任将軍に全て任せよう。」
蔡辺境伯は大成国の攻略を考えていたので、その国境に駐留する北東軍に蔡家軍の主力を配置していた。
その主戦力が、蔡家7将軍たちである。
その中でも一番の戦闘力を持った豪武将軍を動かすのは、今まで大成国の攻略準備を進めていた蔡辺境伯には、戦略の見直しを突き付けられたようなモノだ。
だが、蔡辺境伯は『任せる』と言った以上、全てを鄭任将軍に任せたのであった。
「豪武将軍とあの専用機なら、楊慶之の専用機とも渡り合えるでしょう。」
「鄭任将軍が必要と思うのであれば、好きに使うが良い。」
「ありがとうございます、蔡辺境伯様。」
鄭任が頭を下げると、呉起は呆れるように口を開いた。
「豪武将軍まで出すとは大袈裟だな。あの将軍とまともに戦える戦士は千年前の始祖様ぐらいだぞ。しかも、あの鎧まで引っ張り出すとは、鄭任は相変わらず慎重過ぎる。だが、そこが『不敗将軍』の2つ名を持つ鄭任らしいのだがな。」
呉起はからかうように言った。
大袈裟と言っても、呉起が反対しないのは、彼も同じように考えているからだ。
「とにかく、南東軍の鎧騎士500騎は北東軍に合流させる。そして、大商国に使者を出す。大商国の閻伯爵にも密書を送っておこう。大商国の方は取り敢えず、『こちらが動くタイミングで国境に兵を動かす』この辺りで交渉をしよう。もし、条件を出してくるようであれば、その時考えれば良い。そんな所か、鄭任将軍、呉起軍師。」
蔡辺境伯も2人の話を聞いて、南東軍への対応方針はまとまったようであった。
「はい。後は、時間との闘いです。『鳩』の伝令が楊慶之の軍より先に南東軍が動いてくれれば良いですが。」
「奴らの動きは神出鬼没だ。全く読めん。既に、南東軍が全滅しているかもしれんし、『鳩』が間に合うかも知れん。こればかりは分からん。とにかく、最悪の状況も考えて動くだけだ。」
蔡辺境伯はそう言って、大陳国の地図の中の秦家領を見つめるのであった。
異世界戦記 虹の王 あらいぐま @yokosuka1210
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