第4話 俺の今があるのは、妻の内助の功のおかげで

――あれから数年。

息子も、もう直ぐ5歳になる。


出産していたあの日、実はある事があったらしい。

なんと、分娩室に一人で置き去りにされて一人で陣痛に耐えていたのだという。

看護師さんは着いてはおらず、呼び鈴が遠くに置かれていただけだったという事実が判明した。

流石にこれは俺に対しても根に持たれるだろうなと思っていたのだが、朱里は笑って「育児休暇半年もぎ取ってくれたから許してあげる」と苦笑いされてしまった。

不甲斐なし。

だが、それも含めて心が広い妻だと改めて思い、愛しさが込み上げて来て何度も抱きしめてついばむ様にキスをした。

朱里の腕に眠る我が子はスヤスヤと眠っていたのを思い出す。


その息子も、もうじき5歳。

ヤンチャ盛りで元気いっぱい!

食育はしっかりしていた為、余り好き嫌いはなく食べてくれる子に育った。

性格は極めて明るく保育園でも大人気だ。

それでいて、とても心根が優しい子に育ってくれた。

何よりの宝だと思う。



「ねぇママ? 僕、ママのお腹から生まれて来たんだよね?」

「そうよ?」

「ポーン! って生まれて来たんだよね?」

「そうね、大変だったけど生まれて来たわね」

「でも、僕覚えてるよ? ママのお腹の中で、美味しいジュース飲んでたの。外は雨だったのかなぁ? サーサーって音がしてて気持ち良かったよ?」



その言葉にお腹の中にいた事を話しているのだと知り、朱里は涙をためて息子を抱きしめ「そうなのね、そうだったのね?」と口にし、俺はそんな二人を纏めて抱きしめた。

嗚呼――なんて尊くて愛おしい。



「ママのお腹の中は雨が降ってたの?」

「そう!」

「ふふっ! 貴方が生まれた日はとっても晴れてたのにね?」

「そうなの!?」



そう語り合う妻と息子を見つめ、息子の頭を撫でながら話を聞いた。

嬉しそうに報告する息子の言葉はとても神秘的で、朱里のお腹の中でとても愛されているのが分かる内容で――。



「だから僕、早く外に出たかったの!」

「そうだったの! でも丁度良く出て来てくれて良かったわ」

「うん!」



強く頷き外に出てママとパパに会いたかったのだと語る息子も愛おしい。

息子を抱き上げギュッと抱きしめると、嬉しそうな声が我が家に響く。

息子が生まれて2年目、俺達は一軒家を購入して生活している。

本当に子供中心の生活になったが、それはそれで、とてもかけがえのない日々だと思っているし、それが普通なのだと理解もしている。


が――息子が土曜保育園に行っている日だけは、夫婦の時間は作らせて貰っているが。

やはり俺だって妻を独占したい日だってある。

息子には悪いが、妻とデートする時間だって大事なのだ。



「さて、そろそろ温泉に出かけるか!」

「わーい!!」

「準備出来てるわよ~」



もう直ぐ息子の誕生日。

日帰り温泉だが、息子を連れて家族風呂に入る約束をしていた。

車に乗り込んで山間にある温泉施設に向かい、家族3人で入る大きな家族風呂は贅沢でもあり、息子も初めての家族風呂に興奮して楽しんでいる。



「朱里」

「ん?」

「今度は秋口か、雪が降る頃にまた来ようか」

「そうね、きっと山間も見頃になるだろうし、とっても素敵だと思うわ」

「なんのお話?」

「また3人で温泉にいこうって話だ」

「やった――!!」



幸せな時間。幸せな空間。

これは朱里と俺が守ってきた空間でもあった。

夫婦喧嘩は偶にしても、どちらかが「もういい!」と話を聞かないという事はなく、その日の内に喧嘩は仲直りして、後に引っ張らないようにもしている。

それに――【家族は丸く】が一番だ。


家に居場所がないという父親も多いが、我が家ではそれは無い。

頼りがいのある父親として、夫として、俺も頑張っている。

それが出来るのも妻の内助の功だと分っているから、妻には頭が上がらない。

本当に君は出来た妻だと思うよ。

君を選んだ自分を褒めてやりたい。



「どうしたの?」



ジッと見つめていたからだろうか?

朱里が首を傾げつつ問い掛けてきた。



「俺は、最高の妻を得たなと思ってな」

「あらあら、私も最高の夫を得たと思ってるわ」

「お互いか!」

「お互いね!」

「僕は? 僕は?」

「お前は最高の俺達の息子だぞ!」



色々大変な事もあった。

子供が病気をすると眠れない日だってあった。

睡眠不足で仕事をミスした日なんて事もあったが、それはそれでいい思い出だ。

息子はスクスク素直に育って、正に朱里のような明るい性格の子に育っている。

俺は殆ど仕事で家に居なかったが、妻の子育てが上手なのかも知れないと密かに思っているのだ。


だからこそ、日曜の家族サービスの日は大事にする。

それは絶対だ。


「帰りに美味しうどん屋さんがあるから食べて行かない?」

「それもいいな!」

「えー? 僕お肉が良い」

「お肉は夜にね?」

「はーい!」



こうして俺達家族はこれからもトゲトゲの家族ではなく、丸い家庭で行くのだろう。

何時か息子に彼女が出来て、何時か息子が結婚して、次の世代に繋がったら……それはそれで嬉しく思う。

それまで、俺も朱里も元気でいないとな!


温泉から上がり、着替えを済ませて少し休憩してからうどん屋でお昼を食べて帰宅し、3人でお昼寝の時間だ。

温泉に入って気持ちがいい気分のまま3人で寝るお昼寝時間は最高の至福の時間で――。

スウスウと聞こえてくる寝息に、同じ寝顔の息子と妻を見て微笑み、俺も暫しの眠りについた、当たり前の日常で、とても尊い日々を離さないでいたいと思った日の事――。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

その尊い幸せを、はなさないで 【KAC20245】 udonlevel2 @taninakamituki

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ