第3話 出産までの苦悩と苦難と、初めまして
――赤ちゃん用品はこんなにあるのか!!
と言う位、本当に沢山の物が必要だと色々知った。
着替えやオムツは無論のこと、哺乳瓶にレンジで消毒するものや、多岐にわたる。
その為、先ずは細々としたものを買いに行くことになり、空気で膨らむベビーバスやお風呂セットを購入。お風呂セットだけでもそれなりの量になる。
続いてバウンサー。
これはあった方が良いだろうという事で考えていたのだけれど、此処から朱里の母親が参戦し、一番評判のいいバウンサーを購入する事になった。
ベビーベッドに関しては海外製の物を購入して貰い、只管頭を下げてお礼を言った。
それに授乳クッションも購入したし、朱里の服も楽な服装をそれなりに購入する事が出来たし、お腹が大きくなった朱里の為に下着まで多岐にわたり購入してくれたのだ。
「何せ初めての男の子ですからね!!」
そう言って最早俺達夫婦よりも燃えていた。
初めての男の子の孫と言う事で気合の入りようが全く違う。
朱里には姉がいるが、姉の所は3人女の子だ。
その為、男の子となると――やはり違うらしい。
その後もお腹が大きくなり続ける朱里は動くのも大変そうで心配はしたが、妊娠9カ月になると今度は赤ちゃん用品を沢山朱里の母が買い出した。
ベビー服である。
最早山のように購入していく様を止める術はなく、俺達は男の子用のベビー服をキャッキャと嬉しそうに選ぶお義母さんを止めることなく受け入れることになる。
そして新生児用のオムツも、一番評判の良い物を購入し、後はベビーカーと車に乗せるチャイルドシートとなり、これは俺達が出す事で必死に断った。
海外製の物だが良いのを見つけていたのだ。
こうして一度は洗濯したベビー服たちは可愛らしく、生まれてくるまでもう少しだとドキドキしながら過ごした。
しかし、これまでの間に色々な事があったのは言う迄も無く、朱里が体力をつける為にウォーキング中、スマホを見ながら自転車を運転してきた相手にぶつけられたり、雨の日に信号を渡っていたら信号無視した車に傘が引っ掛かり傘が壊れるなどの事あった。
その度にお腹が張って、急ぎ大学病院まで走って検査をして病院で過ごした日もあった。
妊婦は咄嗟には動けない。
信号無視は無論許せる事ではないが、スマホを見ながら運転する自転車等は殺人鬼と同じだと憤った。
何度も軽い出血をして朱里も我が子も危険な目にあったが、それらを乗り越えて行ったある日――思わぬ事が起きていたのである。
妊娠9カ月中盤に入った朱里が最近只管お腹を押さえて苦しそうで、大学病院での出産の為出産日を決めての入院となるのが決まっていたのだが、常にお腹が張って辛いという朱里を連れて急ぎ検査して貰った所――既に子宮口が3cmも開いていて、前駆陣痛が始まっていたのだ。
今生まれてしまっては早すぎると判断した先生は、痛みを抑える薬等色々出してくれた。
その薬を飲んで、出産日までの間絶対安静となったのだ。
「何かあれば連絡してくれ」
「ええ、玄関までお見送り出来なくてごめんなさい……」
「君とお腹の子が無事ならそれでいい……」
手と手を握りあい、会社に行く時に手を放すのが辛かった。
それももう直ぐで終わりだ。
俺は初めての出産と言う事もあり、7月に入った瞬間から育児休暇を半年もぎ取っていた。
男性で育児休暇を取る人は初めてだと言われたが、出産育児を妻だけにさせる気は毛頭なかった。
――男なら働いてなんぼ。
と言う昭和臭い考えも大嫌いだ。
命がけで出産してそのまま直ぐ育児に入る妻を思えば、彼女だけの負担なんてとてもさせられない。
子育ては夫婦でするものだ。
馬鹿にしたいなら馬鹿にすればいい。
その考えで半年もぎ取った育児休暇だった。
それからは朱里が出産する7月3日までは何とか乗り切る事が出来て、入院日となる7月2日まで何とか持ちこたえてくれた。
いよいよ明日出産と言う事で今日から病院で陣痛促進剤を打って点滴し、無痛分娩を頼んでいたので朱里に付き添いながらの出産に挑む事になった。
いよいよ明日には我が子に会える。
それは実感があるようで、それでいて無い様な……何とも不思議な感覚だった。
だが、泣いても笑っても明日には我が子が生まれているのだ。
その間、朱里は骨髄点滴で麻酔を身体に入れるべく移動もあって、「2回も骨髄注射失敗された……3回目でやっとベテランの人にして貰って何とかなった」と涙ながらに語っていて、余程痛かったのだと理解した。
陣痛に苦しむ朱里を必死に支え、ついに分娩台への移動が始まった。
歩きながら隣の分娩室へと入って行った朱里。
俺は看護婦さんに言われて待合室で待機となったが、大丈夫だろうか……。
「パパも生まれたら本当に大変なんですから、今の内に寝ておいてください。朱里さんは一人にはしませんから」
「そう……ですか」
そう言われて看護師さんが言うのなら安心だろうと眠りについたのが馬鹿だった。
後日聞けば、一人で陣痛を耐えていたのだという。
知っていれば常に付き添ったのに……。
ウトウトと寝ていると、ふと、誰かに呼ばれた気がした。
その覚醒は余りにもハッキリしていて、自分でも不思議だった。
バタバタと看護師さんが走ってきて「もう生まれますから着替えてください!」と着替えを手渡され、急ぎ着替えて分娩室に入った。
途端の破水で慌ただしくなる分娩室。
妻の手を握りしめ、そこからは時間との闘いで、SEである俺はお腹につけられた機械と陣痛の波が分かる機械を見ながら出産のサポートに回った。
陣痛が始まって17時間――沢山の看護師と助産師、先生に見守られ朱里は無事小さくて元気な男の子の赤ちゃんを産んだ。
ギリギリ保育器に入らなくて済む位の小さな赤ちゃんだったし、直ぐに産後の処置が入り、分娩室に控えめの産声が響いた時、俺の目に涙が溢れ出た。
最後に3人で写真を撮り、出産後で顔は真っ赤の朱里の額の汗を拭いんながら泣き合った。
そして今まで殆ど麻酔を使っていなかった朱里は麻酔科の先生に麻酔を入れて貰い、意識を手放してしまった。
その間に処置は進み、後産も終え、俺は我が子と共に分娩室を後にしてベビー室で小さなベビー服を着て泣く息子を見てから、互いの両親に電話を掛けて生まれた事を伝えた。
2780gの、小さな体に大きな命の詰まった――大事な二人の息子の誕生だった。
それからの日々は怒涛のような忙しさではあったが、息子は夜泣きをしない子だった。
夜泣きがあるのは月に一度だけ。
それを俺達は【息子のバージョンアップの日】と呼んだ。
貰った育児ノートのお陰でミルク時間やオムツ交換時期が分かり、余り泣くことも無くお気に入りの場所はバウンサーだった。
「しかし、泣かないな」
「殆ど泣いたところ見た事ないわ」
「親思いと言うか、育てやすい子と言うか……」
「でも、抱っこは大好きよ?」
「そうだな。抱っこは大好きでよく笑う子だ」
ミルクを飲んで眠る息子を妻が抱っこしている姿はとても尊い。
半年の育児休暇なんてあっという間で――育児休暇が終わる頃、本当に仕事に行きたくなくて泣く泣く仕事場へと向かったのだって、身が切られるような辛さだった。
帰る時は駆け足で電車に乗り込み家に帰宅したし、可愛い我が子を抱っこして妻にキスをすると、嗚呼――家に帰ってきたなと心底安心する日々。
息子を保育園に預ける為に色々苦戦はしたものの、認可保育園に入る事も出来た。
そうなると、朱里の花屋復帰も果たし、大変だが忙しい日々を過ごして行った数年後――。
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