二つの棒と、その隙間

篠騎シオン

それは世界のどこかにある

少女の目の前には、二つの棒があった。

それは子供がよく遊ぶ積み木のような形状で、5つか6つか、それくらいに見える彼女が遊ぶのには最適と思われる。


けれど少女はキョロキョロと周囲を見回して、なかなかそれに触りはしない。

先刻、彼女の姉に棒を触ったことで叱られたのが効いているのだろう。


『あなたはもっと責任を持たなきゃダメよ』と。

それはもうすごい怒りようで、少女はしなびた春菊のようにうなだれて、その叱責を聞いていたのだ。


ソワソワ、ソワソワ。


棒を見つめる彼女には落ち着きがない。

それに触るなと言われると、より触りたくなるのは人間の心理ではないか。

しかも、彼女はまだ年端もいかない少女だ。

分別をつけろというのも、酷なのかもしれない。


「えいっ、ふふふ……」


そうして少女はついに、棒に触れて遊び出す。

少女も自分の役目については認識していたし、それに対して懸命に努力もしていた。

けれど、目の前の遊びがどれだけの人に影響を及ぼしているかを理解するにはまだ経験も知識も足りなかったし、目の前の楽しいの魔力に打ち勝つ忍耐強さも彼女にはまだない。


近づけたり、遠ざけたり、倒してみたり、棒たちに話しかけてみたり。


その遊びは楽しくて、彼女はひたすらそれを繰り返す。

けれど、二つの棒をぴったりくっつけるのだけははばかられた。

あったかい片方の棒に対して、優しい温度のもう一つの棒を近づけすぎると途端に発熱し、なんだか落ち着かない気分になるからだ。

反対に、遠ざけすぎるのもまた、冷たくなってしまう棒が悲しくて出来ない。



「あ、ちょっとまたそれで遊んで……ダメじゃない!」


ひっそりと一人遊びを続けていた少女の姿を見つけて、歳の離れた姉が駆け寄ってくる。

25歳ほど年上の少女の姉は、妹の額をぺしゃりと叩いた。


「……しょうがないわね、そんなに遊びたいならお姉ちゃんと遊びましょ」


「ほんと? わーい!」


少女は姉の元へ駆け出す。

姉は少女にまとわりつかれながら、棒を元あった位置に戻すのだった。



そんなことがこの世のどこかでありつつ、今日も世界は回っていく。

寒暖差の激しい日々ですが、皆さんいかがお過ごしでしょうか。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

二つの棒と、その隙間 篠騎シオン @sion

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ