KAC20245 世界は理不尽に出来ている

久遠 れんり

二人が出会うとき。

「ああもう。三〇だ。誕生日おめでとう、俺」

 その日、淋しく村山孝行は誕生日を祝う。

 ショートケーキに、大きいろうそくを三本立てる。


 少し前に、友人や親からは通信アプリで祝いを貰った。


 自分が作った、奮発をしたステーキ。

 たまたま特売で、ヘレ肉が一〇〇グラム七五〇円だったので買ってきた。

 動画サイトで焼き方を確認して、気合いを入れて焼いた。


 普段と違う、一本一五〇〇円もするワインを抜く。

 いつもは、一リットル七〇〇円前後の紙パックワイン。


 そこで気力を使い果たし、レタスとキャベツの千切りにオリーブオイルとレモン果汁を加え塩胡椒とわずかに醤油を落とす。それにミニトマトを二つ乗せる。

 それをドレッシングにして、配信サイトのアニメキャラと向き合い。食事を始める。



 その同時刻。

 隣の部屋では、後藤瑞葵ごとう みずき、二十七歳が誕生日を迎え、スーパーで買ってきたピザと、惣菜。それに酎ハイと、コンピニスイーツで祝杯を挙げていた。

「おめでとう、わたし」

 同じく少し前に、友人や親からは通信アプリで祝いを貰った。


 大学を出て、一度就職をしたが、上司のセクハラがひどく三年で退職。

 再就職をと思ったが、以外と厳しく派遣に登録をした。


 最初は頑張ったが、色々が面倒になりずるずると今の状態。


 誕生日に惣菜で一人乾杯をして、画面のお気に入りの俳優さんに向かい「はなさないでよ」とぼやく。


 お互いに、実は知り合いだが昔と違い。職場での飲み会も無く、住所も開示されることはない。

 そのため、となり同士であることを知らない。


 それは出社時間が、わずかに違うという偶然が、起こした不幸。


 この不幸は、二五六日後、瑞葵がマンションを出て、もう少し安いアパートに引っ越しをしようと考え。経費節約で荷物を運び出しているときに解消される。


「よいしょ」

 段ボールを抱え、レンタルしている軽トラックに荷物を運ぶ。


 すると、隣のドアが開き村山孝行が顔を出す。

「あっ、騒がしくしてすみません」

「いえいえ、だいじょぶです。って? あれ後藤さん。引っ越し? 偶然だね。俺ここに住んでいるんだ。よろしくね」

「あーいえ。引っ越そうかと…… 思って」

 考える。瑞葵。


 孝行は派遣先の社員。

 仕事の仕方は、彼に習った。

 良いなとは思いながら、そこから踏み出せずそのまま。


 孝行は孝行で、昨今厳しい、ハラスメントのリスクにより一歩が踏み出せず。

 あと、一〇九日もすれば、お互いにまた誕生日がやって来る。


「あの、村山さんて、ここに住んで長いんですか?」

「就職をしてすぐだから、九年目かな?」

 なんて言うこと。親に引っ越しの挨拶を任せたのがまずかった。

 昨今嫌う人が居るからと、尻込みをしたのがこんな所で……


「出会っていたら、六年間ラブラブできたのに」

 そう悔しがる。


「あの、後藤さん?」

「あっはい。何でしょう?」

 にこやかに返しながら、心の中では、契約何とかならないかしらと算段をする。


「さっきの心の声は、俺にたいしてかな?」

「はい? 心の声?」

 プチパニックの瑞葵は、気が付いていない。


「その、六年間ラブラブできたって」

 そう言われて、びしっと固まる。


「えっ」

「本当なら、今彼女はいないし、嬉しいんだけど」

 もう、この時点で舞い上がる。


「ぜひ。お願いします。あっ、引っ越しどうしよう」

 そこから、初の共同作業が、始まる。


 もうマンションの契約が出来ず。

 いったん引っ越しをして、今度は二人で住める部屋を探して回る。


 そして、三ヶ月。

 二人は、淋しくない誕生日を迎える事ができた。


 だが。

「しあわせ」

「――そうだな」

 瑞葵にとっては、この出会いは良かった。

 だが、人は付き合って見ないと、分からない事もある……

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