【KAC20245】乙女ゲーの悪役令嬢、ペットのドラゴンを生贄にして追放エンドを免れます!?

MERO

KAC20245 乙女ゲーの悪役令嬢、ペットのドラゴンを生贄にして追放エンドを免れます!?

 あの……神様、私で遊んでいませんか?


 先読みというか、過去の事象を元にあらゆる物事のリスクを予測して何かが起こる前にそこから立ち去るのが得意な私としてほんと珍しいことやってしまった。ふとした気の迷い、そう言われれば確かにそうなんだけども、車道を歩いていた子猫を助けたせいでまさか事故にあって死ぬなんて……。


 ◇ ◇ ◇


 最後が善行だったからか、それとも不憫に思われたからなのか、私は自分がストレス発散にやりこんでいた乙女ゲームの世界に転生した。


 ヒロインはともかく、脇役キャラだと思っていたのに……。

 人に嫌われまくりの、シナリオ最後はヒロインに毒盛った罪の裁判で有罪の国外追放の悪役令嬢。

 これはむしろ、人生のやり直しではなく、前世を反省をしろというメッセージ?


 シナリオは全部熟知している。美人で聡明なヒロインが現れる男性に次々に好かれるご都合主義の単純ストーリー。ストーリーはほとんど1本道で好きなキャラに好意を見せれば相手が落ちる仕組みでリアル恋愛下手の女性が手軽に二次元美男子と恋愛会話を楽しむための大人気のゲーム。


 このソシャゲは次々と新しいシナリオを出して課金させるので、とにかく意中の相手と簡単に恋愛できるというのを売りにしている。各シナリオはそこまで練られたものではない。だから起きたことはしょっちゅう矛盾し、裏側はひどいものだった。全相手キャラを攻略して、何をどう進んでも悪役令嬢が裁判にかけられて国外追放パターン(その先で死ぬ)だった気がする。

 どんな矛盾があってもその事象が発生するとわかってるシナリオの悪役令嬢になるのって……どうなの?


「ご飯ちょうだい、イザベラ」


 私がこんなに考えているのに、ご飯を要求するのは私のペットのドラゴン、コクリが言った。コクリという名前は色が黒くて強そうになってほしくて黒龍から3文字取ったらしい(子供の頃の記憶だけある)。

 

 ほんとは毎日、ゴブリンぐらいの生物2体が適当らしい。

 ペット飼育用にゴブリン飼うのは嫌だから鶏100匹と交換してもらった。

 

「コクリ、納屋に自分で行けばいいじゃん」


「一人じゃ寂しいよ。飛んでいくから、ダメ?」 


 可愛くお願いされてしまった。私はコクリのこういう依頼に弱い。


「ん……しょうがないなぁ」


 コクリと私は同じぐらいに生まれて、一緒にここまで大きくなった。

 私がこれからを悲観して泣いてる時にコクリは世界の最果てを見せに行ってくれた。

 世界は果てしなく大きくて、私はちっぽけな存在。

 その壮大な景色に私は自分の存在価値をまざまざとみせつけられて、いつか終わる未来より、決まっている運命に向けて生きようと決意した。

 もう少しで私の命は終わるけれども、その日まで一生懸命生きるしかない。

 そう、思ってる。でも時々、今日みたいに考えこんでしまう。


 神様は何で転生させたのかしら。


 窓を開けて、広々としたバルコニーにいるコクリの背中に乗った。

 近くの農場の納屋に向かう。

 

「風が気持ちいー」


「今日は過ごしやすい日だね」


「コクリ、見て! 真っ赤な夕暮れ」

 

 私はコクリの背中にしがみつきながら、片手を大きく広げて夕暮れを取るような真似をした。

 コクリは雲を超えて登っていく。夕暮れのまん丸の太陽が顔を出し、光はもっと強烈なものになる。


「綺麗だね、イザベラにぴったりだよ」


 自然の素晴らしさを肌一杯に浴びて、私は今日も生きていることに感謝する。


「連れてきてくれてありがとう。綺麗なまま、死ぬのもいいかな」


 もうすぐ起きる出来事を考えていたこともあってちょっとセンチメンタルになった私はぽつりと呟いた。


「イザベラ、どういうこと?」


 ハッと気が付いた。

 今まで言わないように気を付けていた言葉にコクリが反応した。


「……こういう綺麗な景色みながら死にたいなって」

 

「ドラゴンの能力を甘くみてる? 『綺麗なまま、死ぬのもいいかな』と言ったよね?」


 戦闘能力だけじゃなくて、知能も高いよね、ドラゴン。

 ゲーム内では暴れたドラゴンを倒したヒーローがその能力を買われて、一躍、人気者になるっていうストーリあったぐらいだしね。


「……」


「何に悩んでるの?」


「コクリはさ、私が私じゃないってわかったらどうする?」


 ほんとのイザベラじゃなくて、乙女ゲーに転生した現在の一般人の私。

 私はイザベラじゃない。


「イザベラはイザベラだよ」


 私はコクリに抱きついた。コクリには言ってもいいかもしれない。

 でも、私は躊躇した。一番仲が良いコクリに言うのは酷な私の運命。

 私が亡くなってからもコクリがちゃんとペットとして飼ってもらえるように妹に頼んでいる。

 きっと大丈夫だ。


 ◇ ◇ ◇


「え――――――! イザベラは明後日のパーティで毒薬入れた犯人とされて、裁判にかけられて追放エンドその先で野垂れ死に!?」


「大声で言わないで!」


 私はコクリに言った。でもコクリはそんなことを気にせず聞いた。


「あのさ、何で今まで話してくれなかったの?」


「それは……コクリとの別れが辛いから」


 羽を羽ばたかせてコクリはずっと空高く昇っていく。

 宇宙に行こうとしてる?


「ねぇ、息が吸えなくなっちゃうよ」


「ここにおいで」


 コクリは口を大きく開いた。どうも口の中に入れといっているようだ。

 私は移動した。その途端、口を閉じたコクリはすごいスピードで大空を舞った。

 そして口を開いた。

 そこには黒い宇宙にぽっかりと浮かぶ異世界の球体が青く光っている。

 この世界にたくさんの人が生きている。今、この瞬間に亡くなる人もいるんだろう。


 その時間は約5分。異世界に戻って「やっぱりイザベラはドラゴンの能力を甘く見てる」と呟いた。


「もっと早く言ってよ」


 コクリの目から大粒の涙が流れた。


「イザベラを救うから」


 それは私に言ったというより、自分に向けて決意を表すような言葉だった。

 地上に戻ったコクリはいきなり、自分の尻尾を切って私に渡した。

 

「これを当日は離さずに持っていて。絶対だよ」

 

 何が何だかわからなかったけれども、私は頷いた。


 ◇ ◇ ◇


 私が追放されるパーティはやってきた。私はドレスに密かに尻尾を隠し持った。

 

「おい、イザベラ、王子様の寵愛をもらえないと未来の王妃様に毒を盛ったな」

 

 憲兵に私は抑えられた。私は必死の抵抗をする。


「そんなことありません!!」


「いや、私は見ました、そこで毒を仕込んでいるのを。その手元にあるバックの中に小瓶があるはずです!」


 憲兵は私のバックを漁って小瓶を探し出した。そして私にその小瓶を持たせる。 

 バックの中にある小瓶はお気に入りの香水だよ。

 でも……そんなこと言っても誰も助けてくれない。


 そこにコクリが羽を羽ばたかせて、舞踏会場に現れた。

 コクリは大きな口を開けて、私をパクリとそのまま飲み込んだ。

 そのままコクリは羽ばたいて飛び回っているようだった。

 数分経って、外側から音がして私の頭上に舞踏会場の天井が見えた。一体何が起きたのかわからなかった私はその場にいた。すぐに憲兵たちがやってきて外に出された。ふと手元を見ると小瓶は割れている。コクリの口の中に入った衝撃で割れたようだ。

 

「イザベラ様、大丈夫ですか!?」

 

 何が起きたの?

 コクリは?

 どうなったの??


 憲兵は私の手元にある割れた小瓶を見て言う。

 

「この小瓶は毒薬じゃない。毒薬だったら彼女もドラゴンも死に至っていたはずだ」

 

 周囲はざわついた。


「これは冤罪だ。誰か黒幕がいる!」


 そう叫ぶ幼馴染の王子。

 彼はゲームの中でも私に寄っている人の1人だ。

 

 え?

 どういうこと?

 私……まさか、助かったの?

 

 私はへなへなとその場に座り込んだ。

 私の足元に流れ出た血があることに気が付いた。


 真っ二つになったコクリの身体から流れる血だ。

 

 コクリ!?

 自分を盾にして私を守ってくれたというの?

 私は茫然とコクリの姿をみた。

 だから、最後になるから尻尾を私に渡したと言うの!?

 私はコクリに寄っていき、叫んだ。


「コクリ――――――――!!!!」


 ◇ ◇ ◇


 私がコクリに飲み込まれてからの出来事は助けてくれた王子様から聞いた話。


 『舞踏会場に世間を騒がせていた人食いドラゴンが現れて、逃げ惑う人々に対して(幼馴染の)王子様ヒーローが果敢に立ち向かい、剣でドラゴンを倒し、食べられたと思われた悪役令嬢を救い、この世界には平和が訪れました、ちゃんちゃん!』


 なんだかな、エピローグの音が聞こえてくるのは気のせい?


 ……このゲームでは最後は誰かのせいにして丸く抑えればよかったらしく、つまり、全ては人食いドラゴンが悪いということにして、(さすが矛盾ありのご都合主義の)ラストになったらしい。


 はい、ここで話は終わるのかと思った人、手を挙げて。


 ―――― このお話には後日談があるの。


 私はその日の夕方、コクリにえさをあげる時間にバルコニーに出た。

 泣きすぎて腫れあがった顔で私は空を見ていた。


 ぴくぴくっ


 ドレスの内側が急に動いた。

 スカートが大きく揺れて、中から何かがあられた。


 ちっちゃなドラゴンだ。


「あ――――疲れた」


 私はよく見る。


「コ……クリ?」


「イザベラ、上手くいったね! よかった」


「えっ、どういうこと?」

 

「も――――ほんとに早く言ってよ。私、恩人を失うところだったじゃん」


「え?」

 

「私も転生してるんだよ、助けてくれた猫、覚えてる?」


 そう、コクリは現代で私が死ぬ原因となった、私が救った猫だったのだ。


「ドラゴンに転生してよかった。ねっ、イザベラ」


 茫然としている私に言った。

「これからも離れないからね!」

 

 神様は私を見放していなかったようだ。

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