裏設定など 『マスカレード・ファミリア』編

 突然私事で申し訳ないのですが、本日(8/31)は私の母親の誕生日になります。そして私は母の誕生日を祝ったことがありません。

 私の家庭では誕生日を祝うという習慣がありませんでした。そのため、大学生となって様々な人と出会うようになり、誕生日を祝う人の多さに眩暈がしています。

 一年前、誕生日プレゼントというものを用意してみようと思い、母にちょっとした土産を買って帰りました。

 しかし彼女はそれを受け取らなかったのです。「あんたが使いなさい」ということで、ケチな母らしい愛情の徴ではあったのですが、私はそれ以降家族というものが余計分からなくなりました。

 ということで本日は『マスカレード・ファミリア』のギルドマスターファーラとその子供たちブッファとセリアについて語ります。彼らこそ、我が母親と兄たちをモデルとしたキャラクターたちなのです。


 コウ&ヨウ編で述べた姉と兄とブッファ&セリアのモデルとなった兄たちは血が繋がっていません。私の家庭は少々混み入っていて、父の連れ子である四人と母の連れ子である二人が六人の兄妹となり、末女である私が後から加わりました。

 つまり私からすると、コウ&ヨウのモデルとなった二人とは異母兄妹であり、ブッファ&セリアのモデルとなった二人とは異父兄妹ということになります。

 彼らの父親、つまり私の母親の元旦那はDVがひどい男だったと聞いています。私の母は少女趣味でグイグイくる男性が好みだったようなのですが、それ故悪い男に引っかかりやすく、なかなか苦労をしたそうです。

 二人の息子を抱え耐え忍んできた母は、ついにその男の出張のタイミングで家出に成功しました。そして新生活を始め、私の父親と落ち着いたそうです。

 私が生まれた時点では、もうこの二人の兄は成人していました。しかし面食いの母が惚れた男の血が入った二人はスタイルと顔立ちが良く、私は彼らの武勇伝をちょくちょく耳にするばかりか、彼らが学校まで迎えに来る度、窓に集まる生徒の集団を目にすることになりました。


 ブッファとセリアはブッファが兄、セリアが弟の双子でしたが、実際にモデルになったのは逆で、セリアが兄(今では四男)でブッファが弟(五男)です。たしか三歳差だったと思いますが、正確には記憶していません。

 四男は音楽の道を歩んだのですが、やると決めたことをひたむきに努力できる立派な人でした。それなりの規模の事務所に入り、社長に気に入られて今では事務も手伝っているそうです。社長の息子のお守のためにヨーロッパを周らされて苦労しているらしいと母から聞きました。

 五男は持ち前の活発さと体力を生かし営業職から次々と栄転していきました。恐らく我が家で一番稼いでいると思います。彼はDVを受けた経験のせいか家族というものを人一倍大切にする人で、私も再会の度に抱き上げられるなど、ひどく可愛がってもらいました(あまり嬉しくはないのですが)。

 そんな素晴らしい兄たちを持っていながらこんな内向的に育ってしまって申し訳ないという気持ちでいっぱいです。


 しかしそんな兄たちをモデルにしようと思ったのは『マスカレード・ファミリア』のキャラクター構想を練った後でした。

 元々「【仇花の日常】には論理で語る人が多すぎるのではないか」という懸念があり、論理が通用しないキャラクターを作ろうと思ってブッファを誕生させたのが『マスカレード・ファミリア』の始まりでした。痛みを尊ぶ独特の美学を共有する仲間として双子の弟であるセリアを設定し、そこにファーラを加えて“家族”としました。

 そして彼らが歪んだ思想を持つに至った過程を考えたときに、DV被害というアイデアを思いつきました。そうして初めて、これが母と兄たちの辿った道と同じだということに気づいたのです。

 私は彼らの苦労を知りません。知らないくせにこうして物語へ流用することに対し、罪の意識すらあります。家族として彼らに報いていない現状を考えればなおさらです。

 しかしキャラクターとして再構成することで、私はようやく家族と向かい合えた気がします。


 私は母が苦手です。愛情も返礼も全て金銭で数え、費用対効果で語る母が嫌いです。押しつけがましくオペラやバレエを語り、高級ホテルを連れ回して何かしてあげた気持ちになる母のことを、どうも好きになれません。

 しかし一人の人間として母を俯瞰すると、彼女なりに一生懸命生きてきたのだと理解しました。DV夫のクレジットカードを盗み出し、子供二人を抱えて必死にあちこちを彷徨った彼女のことを思うと、金額を気にしないと気が済まない性分になるのも頷けます。

 母はまだ、悪い男に引っかかりやすい性格をしていると思います。何かに寄りかからないと不安になるようです。私がこうして小説ばかり書いているのも、母からすると気を失うほどのショックであるそうです。

 しかし私が本を愛するようになったのも母の影響でした。母はオペラやバレエと同じくらい本が好きで、昔は児童小説作家を目指していたほどです。しかし彼女は(男関係以外では)堅実に現実を見る人だったので、企業への就職を選び作家の道は断念したそうです。

 だからこそ、夢見がちな私のことが余計に心配なのでしょうね。私の「あまえるな」という名前も、母から言われた言葉が元になっています。


 私は母の勧めでデータサイエンス学部へ進学しました。しかしそこでデータと向き合う日々を過ごすうち、一人一人の人間が数値として表されることに我慢できなくなってしまいました。

 データサイエンティストやデータサイエンス学部生なら誰しもが知っていると思いますが、よくデータコンペで取り扱われる資料として「タイタニックデータセット」というものがあります。その名の通り、1912年に北大西洋で沈没したタイタニック号の乗客者の生存状況のデータです。

 これを使って乗客者の属性と生存率の関係を洗い出すのですが、「生きた」か「死んだ」かという一人の人生においてこれ以上ないほどの重要な分岐が、たった数桁の数字で表されてしまうことにどうしても嫌悪感を拭いきれませんでした。

 我ながら繊細だと思いますが、0.001%の確率を引いて脳炎を発症し、闘病の末に亡くなった姉のことを忘れられないのです。


 私は今年九月から「ゲンロン 大森望 SF創作講座」を受講させていただくことになりました。小説を読む人自体が減ってしまったこの時世に小説で食っていけるとは全く思いませんが、自分の抱える傷を昇華させる手段として小説という選択を取り続けたいと感じ、学業を放り出して技術を学ぶ決断をしました。

 この選んだ道が良いものだったと言えるように精進しようと思います。

 ここまでお付き合いいただき、誠にありがとうございました。またどこかで私の名前を見かけましたら、頑張ってるんだなと思ってやってください。


天恵月

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仇花の日常 ~PKギルドのお抱え刀匠は人斬りと日常を過ごしたい~ 天恵月 @amaelune

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