第3話 お姫様はパティシエ

 くずれたクッキーの屋根やねを見ながら、「これは、やりなおしでございますな。」と、ウエハース王子が言いました。


 クッキーをやきなおし、屋根をなおすのは、そんなに、むずかしくありません。

 ですが、白いケーキのお城に、茶色ちゃいろい屋根がとても残念ざんねんです。


「生クリームをのせると、また、くずれてしまいますよね。」


 あめ玉姫が、あんこ姫の荷馬車にばしゃを見て言いました。


「あの白いおもちで、くるんでしまったらどうでしょう?」


 あんこ姫の顔が、ぱあああああっと明るくなりました。


「私、おくるみいたします!」



 あんこ姫は、屋根のはしっこに、ペタペタお餅をくっつけます。


 はじを持って、ぴよーんとむこう側へとびますと、ふんわり半円形はんえんけいの、真っ白なお餅の屋根ができました。



「丸くてかわいいお屋根だね。」と、イチゴの王子様が言いました。


 あんこ姫は真っ赤になりました。



「屋根にもイチゴを飾りたいわ。」と、りおちゃんが言いました。


「たしかに、お城のてっぺんに、飾りがないとさみしいみ。」と、みーくんも言いました。


 すると、あんこ姫が、ピンクのお餅に、白いあんこを入れて、イチゴの下半分したはんぶんをくるみました。それを、ケーキの屋根にくっつけて歩きます。


 それは、ピンクのおもちに、真っ赤なイチゴが、すけながらのぞいている、ステキなステキな飾りでした。


 ケーキのお城は、みるみるみるみる、かわいくなります。



 あんこ姫は、ケーキのサイドの生クリームにも、ピンク色の大福もちを、うめていきました。


 なんと、お城は、ピンクの水玉模様のイチゴのケーキなりました。



「こんなかわいいケーキ、見たことがないわ!」と、りおちゃんが言いました。


「水玉のイチゴのケーキなんて、キュートだみ。」とみーくんも言いました。


 みんなも、すごいねステキだねと大絶賛だいぜっさんです。



 イチゴの王子は、あんこ姫の前にかけよって言いました。


「ありがとう!あんこ姫、こんなステキなお城を作ってくれるなんて、あなたは、本当にステキな人だ!」


 あんこ姫は真っ赤です。


「どうかこのまま、この城にとどまり、私のきさきになってください。」




 わあ!と歓声かんせいがあがりました。




 りおちゃんは、さみしい気持きもちになりました。


 やさしくてかっこいいイチゴの王子様、りおちゃんだってお城をなおしたのに、りおちゃんだって、がんばりました、と悲しくなってしまったのです。


 みーくんが、りおちゃんをきしめます。


 りおちゃんは、突然泣とつぜんなき出してしまいました。




 えーんえーんえーん。えーんえーんえーん。




 あんこ姫が、かけよります。


「ごめんなさい、リオナ姫。イチゴのお城をなおしたのは、あなたなのに。きれいにかざりつけるだけをして、リオナ姫をかなしい気持ちにさせてしまいました。」


 イチゴの王子様がかけよります。


「ごめんなさい、リオナ姫。生クリームをはこび、イチゴのお城をなおしたのは、あなたなのに。ほかの人をほめるだけして、リオナ姫を悲しい気持ちにさせてしまいました。」


 あんこ姫がつづけます。


「私は大福だいふくの国へかえります。」


 イチゴの王子様も続けます。


「リオナ姫は大切たいせつなお客様きゃくさま、どうかいつまでもイチゴの国で、おすごし下さい。」



 りおちゃんは、二人が結婚けっこんをあきらめてしまうと思い、両手りょうてなみだをふきながら言いました。


「泣いてしまってごめんなさい。泣いたらふたりが悪いと思って、結婚できなくなってしまうのに。ふたりのせいにしてしまいました。」


 あんこ姫が、りおちゃんの頭をなでて言いました。


「リオナ姫は、とてもいい子です。私が飾ったケーキを、心からよろんでくれました。リオナ姫は、いつも、ほかの人を、思いやる気持ちを持っています。イチゴの国のように、あなたの心は美しい。」



 りおちゃんは、笑顔になって言いました。


「イチゴの王子様、あんこ姫様、しあわせに、なってください。」


「しあわせに。」と、みーくんが言いました。


「しあわせに。しあわせに。」


 みんなが、口々くちぐちにくり返します。




 そして、あめ玉姫が言いました。

「みなさん、お茶会ではなく、結婚式をひらきましょう。」




 庭に祭壇さいだんをつくり、イスを並べてリボンで飾りました。


 椅子いすには、みーくん、りおちゃん、ウエハース王子、あめ玉姫がすわっています。


 綿帽子わたぼうし白無垢しろむくを着たあんこ姫と、白いモーニングに、イチゴがらの白いネクタイをした、イチゴの王子様がやってきました。


 そして、手をとりあって、結婚のちかいをするのでした。




            ◆    ◆    ◆




「りおちゃん、おきたの?」


 あ母さんの声がきこえます。


「うーん。」と、りおちゃんは、ねむそうに返事へんじをしていました。


 りおちゃんは、いつのにかベッドにもどっていたのです。




 りおちゃんは、おきだして、お母さんの所に行きました。


 テーブルの上には箱菓子はこがしがのっています。


「これなあに?」


 お母さんがこたえました。


「イチゴ大福よ。けてごらんなさい。」


 ピンクのお餅に、白いあんこが入っていて、イチゴの下側したがわをつつんでいます。


 そう、あのお城の、イチゴの飾りではありませんか。

 りおちゃんは、両手りょうてでほっぺをつつみ、目をかがやかせて言いました。


「イチゴの王子様、あんこ姫様、りおちゃんに会いに来てくれたのね。」


 それは、ほっぺも落ちそうなぐらいおいしいのです。

 甘酸あまずっぱいイチゴとあまーいあんこ、もちもちのお餅がマッチして、こんなにおいしいお菓子は、食べたこともありません。


「たくさんのしあわせをありがとう。」



 --ありがとう、ありがとう、ありがとう、出会えて本当にうれしかったよ。ーー


                               完

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イチゴの国の王子様 桃福 もも @momochoba

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