シュレディンガーのトイレ
バンブー
トイレを開けない限り、真実かどうかなんてわからないのだ
「うーん……」
私はイライラしている。
3つのトイレ個室全てが閉まっており待つこと40分。シーンと静まったトイレ達から気配を感じるもトイレットペーパーを動かす音1つしない。
耳を澄ますとカタカタ音が微妙に聞こえてくる。
私の後ろにも人が並び始めてきた。
他のトイレに行くとしても、次が私の番である。
「……よし」
安否確認もあるので、手前の個室からノックしていく。
「すみません、大丈夫ですか?」
「……はいっ!?」
驚いた反応をしているが、時間がだいぶ経っている事に気づかなかったのか?
「あの……40分程入ってますけど、大丈夫ですか?」
「は、はい……大丈夫です!」
そう言うと、再びトイレに沈黙が流れた。
いや、出ろよ!
再びノックする。
「すみません、大丈夫なら結構人が並んでいるのでそろそろ出てきてほしいですけど……」
「……ごめんなさい、大丈夫じゃないです」
「はい?」
急に答えを変えてきた。
「お腹……壊してて、すみません。すぐには出られないので他を当たって下さい」
いやいやいや、出してる音も踏ん張る様な声を今までしてなかったじゃん。
ただまあ、本当に壊してている場合もある。言い訳だとしても理由はまだ考えられ事なので、次に真ん中の個室をノックする。
「すみません、貴方は大丈夫ですか?」
「……はぁ?」
ガラの悪そうな返事が返ってくる。
「うっせぇな、今忙しいんだよ」
「忙しいってなんですか? もう40分ぐらいトイレに……」
「……ッチ! 今オレは追われてるんだよ!」
「はい?」
意味不明な事を言われた。
続きを待っているとまた無言になるの聞き返した?
「追われてるってどういう事ですか? 警察に通報します?」
「うっせぇな! 警察に相談しても意味ねぇんだよ!」
「どういう事ですか?」
「……せぇな……バッファローだよ」
「……はい!?」
更に意味不明な事を言い出した。
「オレ、今バッファローに追いかけられて隠れてるんだわ。だから出たら殺されるから出ないよ」
「嘘吐くな! ここ日本の公衆トイレですよ! って言うかタバコの臭いしますよね? 中でタバコ吸ってるんですか? ここ禁煙ですよ!」
「ああああああうっせぇ! 使いたきゃ隣に言えよ! オレより長くいるんだからさ!」
っと責任転嫁と話を反らしてくる輩に苛立ちが増しながら1番奥の個室をノックする。
「あの! もう40分以上経ってますけど、大丈夫ですか!」
「フガッ!?」
明らかに寝てましたと言うような鼻息を上げる奥の個室の奴。しばらくすると話し出した。
「ククク……
「お前は出ろ! 他の人の迷惑でしょ!」
「フッ……それは出来ぬ相談だな」
「寝てたくせに何言ってんの!」
「寝てなどない。我はこの個室に
「わけわからない事を言ってないで早く出なさい! お前ら嘘を吐くな! 早く出ろ!」
それでもこやつらは出てこない。
1番奥の個室から再び不敵な笑い声が響く。
「シュレディンガーの猫を知っているか?」
突然説明しだす。
「50%の確率で毒ガスを放出する装置と一緒に箱に入れられた猫は、箱を開け観測するまで生きているか死んでいるかわからない」
「は?」
「我らトイレ三人衆も本当は大変で、こうして立て籠もっているのに開けろなんて無粋なこと言うのはお門違いだ。我らは世界の為、人の為にトイレに立て籠もっているに過ぎない」
「……はぁ?」
「ここを開けない限り、我らの言っている事が本当か嘘かなど証明する事が出来ない。あと少しで出るのだから、そこで大人しくして……精々お漏らししないように頑張るが良い!」
そう言われて、引っ込むんでいた便意を思い出してしまい、怒りもあってかお腹が痛くなる。
そんな中、トイレの中の奴等は勝ち誇ったように全員高笑いをする。
私はキレた。
凶悪犯を目の前にした時より血がたぎった。
「……私は弁護士だ」
「「「ッ!?」」」
空気が一気に変わる。
「これから店員の方を呼んできて、貴方達へ退去指示をお願いします。それに応じなければ不退去罪に該当する事となる。3年以下の懲役又は10万円以下の罰金の可能性がある」
「う、うう嘘だ! こんな所に弁護士がいるなんて!」
「弁護士バッジもここにある。貴方達がドアを開ければ見せられますよ」
私はニッコリと笑みを浮かべ、こやつらに伝える。
トリあえず
スマホを閉じて
外へ出ろ☆
シュレディンガーのトイレ バンブー @bamboo
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