はなさない、はなさない

むらた(獅堂平)

はなさない、はなさない

「いま、集中しているから、話さないで!」

 真琴まことはスマートフォンを操作しながら言った。画面にはゲームアプリが起動しており、それを懸命にタップしている。

 突き放され、息子の和樹かずきはしょんぼりとした。

「おい、真琴。子供の相手してやれよ」

 真琴の夫・浩一こういちがたしなめた。

「そんなこと言っても、いまはゲームが佳境で手が離せないんだから、しょうがないでしょ。あなたが相手してよ」

 ゲームアプリに夢中で真琴は彼らを見ようとしない。

「そういうところだよ」

「別にいいじゃない」

 真琴の返事に、浩一は呆れる。

「お前がそういうふうにさ、子供が求めているのに、無視するから」

「ふうん」

 真琴は素っ気ない。何も反省はしていなさそうだ。馬の耳に念仏。

「喧嘩しないで……。僕が悪いから……」

 和樹が泣き始めた。真琴はそれも無視し、ゲームアプリを操作する。

「いや、あのさぁ。お前、この状況をわかってんのか?」

「なにが?」


 ***


 **


 *


 半年前。真琴は和樹と公園にきていた。

 梅雨時期で鬱陶しい雨が続いたが、久しぶりの快晴だ。和樹ははしゃぎ、ブランコ、滑り台、砂場をローテーションしていた。

「こんにちはー」

 ママ友の美由紀みゆきが現れた。彼女の息子・雄介は和樹と同い年の六歳になる。

「こんにちは。久しぶりに晴れたね」

 真琴が言うと、「そうね」と美由紀は返した。

 子供たちは楽しそうに遊んでいる。砂場で何かを見つけたらしく、二人で熱心に観察していた。

「そういえば、例のゲーム、インストールした?」

 真琴が聞いた。彼女は獣人の姿をしたイケメンを育成する某ゲームアプリに嵌まっており、それを美由紀に勧めている。

「うん。いれてみたよ」

 美由紀はスマートフォンをポケットから出す。真琴が勧めたゲームアプリが起動していた。

 子供たちの方をちらりと見ると、砂場で山を作って遊んでいる。

「やってみた?」

「うん。でも、わからないところがあって」

「どこ?」

 美由紀はゲームアプリのキャラクターをタップする。

「このキャラクターのスキルの上げ方が――」

 二人はしばらくゲームアプリを見ながら話し込んだ。


「ママ。お腹空いた。おやつ」

 雄介が美由紀のシャツの裾を引っ張る。

「はいはい。おやつにしようね」

 美由紀はスマートフォンを仕舞い、バッグをまさぐった。

「あれ?」

 真琴はすっとんきょうな声をあげた。

「和樹は?」

 さきほどまで遊んでいた砂場にはいなかった。ブランコにも滑り台にも姿が見えない。

「なにか見つけて、あっちに歩いて行ったよ」

 雄介が指差し、教えてくれた。向こうは道路だ。

「まさか!」

 真琴は血の気が引いた。危ない目にあっていなければいいがと願う。


 *


 **


 ***


「お前がそうやって、ゲームに夢中になり、ちゃんと見ないから和樹は事故にあった」

 夫の浩一は肩を竦めた。その目は蔑みの感情を映している。

「はいはい。悪う、ございました」

 真琴は嘆息した。何度も聞かされた説教なので、辟易している。

「ちゃんと、反省しろ!」

 浩一は怒鳴った。ほとんど育児に参加しなかったくせに偉そうにしやがってと、真琴は内心毒づく。

「喧嘩しないで……。

 が仲裁した。

「和樹は悪くない。悪いのは、私と、

 真琴はを指差した。

「俺は、お前が反省するまで許さない! 和樹と一緒に居座る!」

 浩一の肩はブルブルと震えている。

「反省するまで、ずっと、ぞ!」

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はなさない、はなさない むらた(獅堂平) @murata55

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