客観的には恵まれている、しかし肯定的感情は作中一切登場しない

改めて、
感じ方というのはどこまでも「主観」なのだと思い知らされます。

闇の、とはいえ組織の上位に位置する主人公
金も名誉も、周囲からの信頼と憧憬も
およそ、現代なら勝ち組と呼べるほどの全てのものを持っておりながら
それらに対する肯定的な感情も喜びも
作中では一切語られません

そこに大きく横たわるのは──

いつまでも届かない
嫉妬と憧れ、
苛立ちと諦め
そして、上にも下へもいけない
ある種の枷となった自尊心


踏み込む権利は、自らの手にありながら
彼は、最後までそのカードを切ることはなかった

ほんの1メートルほどの距離が
絶望感すら感じさせる、心の距離……

心の深淵を覗く覚悟があるのなら
この物語を、お勧めしたい