この物語が幕を下ろすまで、貴方は何度価値観を反転させられるだろう
- ★★★ Excellent!!!
この作者様の作品は、どれを読んでも魂と概念を揺さぶられます。
ですが、この作品はその中でも軍を抜いて恐ろしい……その切り込み方の鋭さが。
父が選ばれた夜、まるで出征前の兵士を送り出すような心のざわめきを与えられる。
やがて来る、母の告白に……人の世の無情さと即物さを感じ
その後に訪れる、父もまた同じ────
それこそが、一般的人間……ということなのだろう。
かつて生きていた生命は、今は標本となりその要素に分解され
数字と情報の羅列によってその存在を表されている。
そこに、『家族の愛情』などという情報は含まれていない。
ふと、私は「探査機はやぶさ」を思い出した
人の手によって作られたただの機械
その構造と性能、仕様のすべてが数字の羅列によって表すことができる
当然、全く同じものを作ることも可能だ。
だが、あの探査機の成し得た功績と感動は決して二度と作ることのできるものではない
語弊を恐れずに言えば、『彼』には魂が宿ったからだ。
『彼』の情報、数値は……それを見ただけで彼の存在を感じられるものばかりだ。
翻って、『一般的成人男性〈父〉』には魂があるだろうか。
かつてはあった、そしてその魂を感じられる者もいた。
この父は、展示によって魂を奪われた存在なのではなかろうかと、途中から感じ始めた。
一般アンケートの結果が、
その魂にまで思慮が至っているのかどうか
甚だ疑問であり、空恐ろしくも感じる。
人間という要素を残酷なまでに分解する、傑作。