夜歩いていると体に空洞を持つ人を見る。空洞に入っているのは脈打つ心臓、そして虹色に輝く「魚」。
私はその人に近付き、空洞に手を入れて「魚」に触れる。
すると人は影すら残さず消滅し、開放された「魚」だけがどこまでも泳いで行く。
泳ぐのは夜空、海のように美しい星空である。
「私」が〈誰かに話しかける文体〉で書かれた(あるいは〈語られた〉)本作にはある仕掛けが存在する。
その仕掛けは最後の行になってようやく分かる。
実に上手い話の閉じ方だ。
どんな小説でも書き出しには力が入っている。
書き出しが上手い小説なんていくらでもあるのだ。
もちろん、稀にではあるが別格に優れた書き出しは存在する。
本作ももちろんその一つである。
けれども「終わらせ方が上手い小説」というのは案外少ない。
ラストに大規模な伏線回収をするタイプの作品ですら、「最後の一文」というレベルで見るとあまり美しくないということがある。
別にそれで作品の価値が決まるものでは無いが、特に小品や短編ではキレのいい、格好良い「終わり」を用意して欲しいものだ。
そうした贅沢な要望に応える作品が「夜に游ぐ」なのである。