第13話 お前天才錬金術師やないかーい! ルネッサーンス!・前編

『視聴者数こそが最強の魔物だ』


 ダンジョン配信者でもトップクラスである【魔皇】の言葉は、ダンジョン配信者の名言として誰もが知っている。


 視聴者数を増やすために、配信者達は工夫を凝らす。そして、その工夫が時として人の道を外れることがある。魔物に憑りつかれ自らも人ではない魔物となった者を外道と呼び、それを促し嗤い唆す視聴者を悪魔であるという言葉を残し【魔皇】がこの世を去った時、視聴者獲得の為の行動・モラルについて声高に叫ばれた。

 一瞬だけ。


 そして、人々はまたその魔物と戦い、憑りつかれ、ダンジョンに潜る。

 この男もまたその一人。


「あーっはっはっは! 視聴者爆増じゃい! 爆笑じゃい!」


 2回目のコラボの日、後藤鐵郎はダンジョン前で大声で笑う。ダンジョン外での撮影は周りを気にするのがマナーであるため、妹であるふわりはカメラを下ろし無表情のまま、拍手を送っている。


「おめでとう、にいさん。おめでとう。まあ、他人のふんどしだけど」

「女の子がふんどし言うんじゃありません!」

「……和風男前絞り布ティーバック」

「結局Tバックゥウウウ!」


 ダンジョン前でTバックと叫ぶ男だが、ダンジョン前はゲート警備員がいる為、人は多くない。だが、警備員は睨みつけるような目で鐵郎を見ている。


「こほん……それより、ふわり。誤解するな。確かに、前回はクソ真面目天然にやられたが今回はそうはいかない。天才お笑いクリエイターテツロ―のじつりきを見せてやろう! 俺には放送作家としての力もあったとな!」


 そう言って鐵郎は、自分とふわりのダンジョン入場許可証を見せ入場していく。


「フラグ……乙」


 ふわりはそう呟いてショートダイジェスト動画用のフラグ画をカメラに納め兄の後を追った。


 そして、鐵郎は見事にフラグを回収する。


『さあ、恵さん! 今日はダンジョン攻略デート第二回! 今回は、漢・鐵郎の漢前度検定です!』

『で、デート、にかいめのでーと……うふ、うふふふ』

『ねえ、聞いてぇえええ!』

《開始5秒ツッコミ定期》

《恵様の嬉しそうな笑顔……》

《ごとうちゃん、お前がナンバーワン漢前や……》


『違う違う! 視聴者チガウよお! まだ始まってないから! 恵さん! 聞いてください!』

『プ、プロポーズか!?』

『なあんでだよおお!』


(なんで!? え? なんでこの人こんなにボケてくるの!? 前回もいきなり俺に惚れてる風出してきてたけど、ここまで来ると天然じゃないよね!? 養殖か!? 養殖ボケめ、芸人への挑戦状か!?)


 鐵郎はうんと頷き、一度深呼吸をするとパンイチフォームへと変身する。


(ふははは! ならば、俺もボケてボケてボケ倒してやらあ!)


『さあ、恵さん。今回の漢前検定のルールはこんな風になっています』


 恵は目を血走らせて見つめる。鐵郎の腹筋を。


『なるほどな……よく分かった』

『それは俺のシックスパック! して欲しいのはルールチェック!』


 恵と腹筋の間にスケッチブックを挟みこむと恵は残念そうな顔で離れる。


『そんなに近づけなくてもルールは読める、まったくもう』

『え!? 俺!? 俺が悪いの!? なにこの暴君! こほん、いいですか? 今回は、俺がダンジョンデートエスコートしますので、俺の振る舞いが男前かどうか判断してもらいます。もし、男前だと判断したらお手元のボタンを押してください。そのボタンを押すと錬金ニキ特製の俺の特殊なスーツによってチュっとキスマークが俺の身体に投影されていきます!』


(くくくく……流石にキスマークをパンイチ男につけていくのはいやだろ)


 チュチュチュチュチュ!


『はやいはやいはやい! ボケの連打やめて!』


 剣姫の驚異的なスピードによって押されたボタンにより鐵郎の身体にキスマークが付けられていく。鐵郎が止めようと手を伸ばすとボタンを持った左手を、鞘を持つように腰付近で構えボタンを連打、逆の手で鐵郎の両手を神速ではじいていく。


『ふん! その程度かごとうちゃん!』

『才能の無駄遣いやないかあああああい!』


 恵が満足してボタンを教えるまでの二分間で鐵郎の身体にはキスマークの胸当てが出来上がっていた。なお、キスマークがどのあたりに投影されていくかは後藤兄妹で決めたはずだがあまりにも恵が楽しそうにつけ続けていたせいか鐵郎はちょっと胸を隠して恥ずかしがった。


《キスマークブラをつけたパンイチ漢www》

《これが敗北者のすがた》

《漢なら胸を張れ!!!》


『ふう、では、行こうかごとうちゃん!』

『満足そうな顔でなによりい! じゃあ、行きましょう! って、あ、あんたところに毒の沼がありますね』


 鐵郎が指をさした先には、紫色で泡がぼこぼこと溢れる酸の効果を持った沼。


『うむ、落ちないように気をつけねばな』

『ですね……!』


 そう言いながら、毒の沼に飛び込む鐵郎。


(ふはははは! これこそ海があったら飛び込む島芸人スタイルじゃい!)


『ごとうちゃん! なるほど、紫色の沼、ナイトプール的なデートだな! 分かった! 私も女だ! 行くぞ!』

『いやいやいやいや! 毒の沼だから恵さん怪我しちゃうから入っちゃダメだって! 自分を大切にして!!』


 恵が意を決して服を脱ごうとするのを見て鐵郎が慌てて毒の沼を飛び出し、恵を止める。


『ごとうちゃん……やさしいな』


 チュチュチュチュチュ!


『なああんでだよ! どういう判定なのよ! 完全に俺のあたおかムーブでしょ!』


 その後も鐵郎がボケれば恵がボケを重ね、鐵郎がツッコみ常識人に収まるムーブが繰り返され、何故かボスまでたどり着き撃破。


『ごとうちゃん、漢前だったぞ』


 ダンジョンを出て夕陽を浴びながら微笑む恵。

 その視線の先には、キスマークで真っ赤に染まった鐵郎が苦笑っていた。


「また行こうな!」

「もう……!」

「にいさん、視聴者が倍になったよ」

「すぐにでもまたコラボしましょう!」

「……うれしい!」

「……俺もですっ!」

《剣姫、必殺のボケ殺し》

《ごとうちゃんかんぜんはいぼく》

《キスマークだらけにされた歯医者がここにいまーす!》

「にいさん、コメント欄」

「じ、次回こそやってやるもん!!!!!」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

テレビ追放芸人、ダンジョン配信バズりちらかす! だぶんぐる @drugon444

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ