第12話 それが上級冒険者のやり方かー!!!!

『錬キングダム! いよいよ、今週の勝ち残り錬金術師の発表です! 勝者は……メルティラブ製作、チャンピオン! キラーズの若き天才、吉良愛(きら・あい)!』

『やったー! うーれしー! はい、ざまーざまー!』

『勝ったお気持ちを』

『ガチれうしー! ま、相手もそこそこいい魔導具だったと思うよ。だけどね、やっぱアタシのメルティラブちゃんに比べたらマジ雑魚。なんせ、アタシのコレは、えーと……なんだっけ?』

『魔物を分解して魔素化させるんでしょうが! 忘れちゃったんですか!?』

『やべー! アタシ、発明品多いからさ、あははは! それより、やったー!』

『あ……! 愛さん! また飛び跳ねると、胸がね……』

『あ、エロい目で見てるな~? へんたーい。あ、視聴者~、よくやられちゃうけど絶対ここに切り抜くなよー』

『と、というわけで、次回も愛さんが勝ち残れるのかご期待ください! 魔導具職人、クリエイター達の熱き技術のコロシアム、錬キングダム! またおあいしましょ……』


 ブツン。


「はあ……実に、頭からっぽの内容だったな」


 男はテレビを切って、作業を続ける。青い死鳥の羽ペンに黒と白の魔液を付け、細かな魔法術式を書き刻んでいく。魔石灯の薄緑の光に照らされ反射するゴーグルの中で血走った目は数ミリのズレもないよう真剣そのもの。一通り書き終えると目を閉じ、大きく息を吐く。


「ふぅー……うむ、いい出来だ。これを魔光にしっかりと当てて乾いたら貼り合わせるか」


 男は、魔法術式を書き込んだ板を手に取ると、立ち上がる。足の踏み場がないほどに散らかった部屋。床に落ちている失敗作のパンツ達を蹴ってどかしながら奥にあるマジックライトの下に先ほどの板を置く。

 ちらと横にある四角い箱を見る。最後の一面が完成し張り付ければソレは完成する。


「く……くくく……さあ、コレを彼はどう使ってくれるのか……」


 男は、口元を隠すように手を当て笑う。あのダンジョン配信芸人が自分の魔導具を使って暴れる姿は実に楽しい。そして、自分の想像を遥かに超える活躍をしてくれる。

 まさか、パンツ一丁に変身しイレギュラーを倒すとは思っていなかった。


 そもそも、あのパンイチスタイルは、死というものを明確に意識し覚悟しなければ決して出るはずのないパターン。普通の人間には出来ない、『頭のイカれた人間にしか解放できない戦闘フォーム』。


「く、くくく……」


 自分と同じ。いや、自分以上にイカれた男の配信が今日も始まる。男は膨大な魔法術式のパターンが記録されたノートパソコンをどかし、視聴用大型パソコンに配信画面を映す。


「くくく、なんだそのタイトル……下らない。実に下らないぞ、ごとうちゃん、あーっはっはっは」

「ロキ~、ごはんよ~」

「もおおお母さん、今日は配信見るからご飯はあとにするって言ったじゃん!」







『どうも~、が、ががが? ががががぎぎぎぎぐぐぐぐげげげげごきげんよう! ごとうちゃんだよう! はい、というわけでクレイジーモンスターズチャンネル。くれもんの配信を今日も見てくれている視聴者の皆さん、あざーっす! ごとうちゃんでっす!』


 鐵郎がふわりの持つカメラに向かっていつもの挨拶を行うとコメント欄が盛り上がる。


《待ってました!》

《ごとうちゃーん!》

《今日も笑わせてくれ!》


「えー前回は、ダンジョン配信を始めて記念すべき10回目の配信という事でね……とんでもないドタバタ回で終わってしまいましたが」

《伝説となったコラボ回w》

《というか伝説になってない回がない》

《前回はマジで恵さまが大暴れ》


「えー前回のお詫びという事で今回もゲストお越しいただいています。……【剣姫】福徳恵さんです」

「前回は失礼しました! 福徳恵です! 今回もコラボさせていただきます! 不束者ではありますが、末永くよろしくお願いいたします!」

「いや、それ配信挨拶ちゃう! 相手のご両親への挨拶ぅううう! 4回目ぇえええ!」


 恵が黒髪の艶やかなポニーテールを思い切り振り下ろしカメラに向かって生真面目に挨拶をすると、鐵郎がすかさずツッコみをいれる。そして、その言葉を聞いた恵が目を見開く。


「もしかして……この配信を義父様と義母様が見て……?」

「違う違う! 見てない見てない! ていうか、義父様と義母様って呼ばないで!」

《夫婦漫才が今日も始まる》

《これこれ~》

《前回、このやりとりで序盤20分使ったからなwww》


 視聴者も見慣れた定番やりとりと化した二人を温かい目で見守りながらコメントする。

 恵が鐵郎の配信に登場するのは4回目。コラボとしては異常な数。そもそも恵は別のチームに所属しており、それを踏まえると更におかしい話になるはずなのだが、チームメンバーも快諾している。


 始まりは、鬼面蠍を倒した第一回ダンジョン配信の次の回だった。


『福徳恵です! 失礼します! 本日はよろしくお願いいたします!』

『いや、企業面接じゃないんですから。えーと、いきなり第二回ダンジョン配信のゲストは【剣姫】福徳恵さんでーす』


 いきなり鬼面蠍をパンイチで倒した冒険者ということで注目度も高まっている鐵郎の第二回配信で、コラボ配信。しかも、【剣姫】であり伝説の第一回で共闘した恵とのコラボという事で視聴者は盛り上がった。


『前回ご迷惑を掛けたということで、お詫びの意味を込め今回はダンジョン配信コラボをさせていただこうと思います! チャンネル登録してくれもん!』

『いや、呼びかけもしてくれるんかーい! えー、というわけで、福徳恵さんが、お詫びをしたいということなんでー、いやー、俺は別にいいんですけどねー、折角なんでーお詫びダンジョンデートをさせてもらおうかなとー』

《ごとうちゃん、ゲス顔》

《所詮、お前もか》

《ごとうちゃんwww》


 期待半分不快感半分といったコメント欄。ゲス顔を浮かべる鐵郎の映る画面に何かが差し込まれ、鐵郎はそれに視線を向ける。


『え? カメラマン妹ちゃん、これはなんですか?』

『【剣姫】はダンジョン配信者業界のアイドル的存在なので、一応、セーフティーとしてごとうちゃんにはこれを付けてもらいます。気持ち悪い下心が見えたら電気が発生する【キモ発見器】です』

『ちょっと待ってくださいよー!!!!!』

《そういうことかwww》

《茶番乙www》

《キモ発見器》


 第二回の配信タイトルは『ごとうちゃんいきなりコラボダンジョンデート! だがしかし』……。恵がコラボを申し出たのは事実。注目度の高い配信者とのコラボは後藤兄妹としても願ってもないチャンスだった。そこで考え出されたのがこの『キモ禁止デート』。


 丁度、パンツと同じ錬金術師から遠隔リモコンで電気を発生させることのできるパンツ強化アイテムが贈られてきたので思いついたアイディア。

 【剣姫】とコラボも出来るし、バラエティ要素も十分あるということで始まった第二回。

 鐵郎の予想では、ダンジョンデートで死ぬほど電気を喰らい、恵から軽蔑されビンタ禊で終了だった。

 だが、


『あばばばば!』

『ご、ごとうちゃん……今、私のことをいやらしい目で見てくれたのか……?』

『なんで嬉しそうなのお!?』


 ふわりが判断したタイミングで流される電流で鐵郎が痛みに絶叫するたびに、頬を染める恵というカオスな状況。

 鐵郎はただただ予測と違い慌てるだけだが、コメント欄はその予測不能展開に大盛り上がり。


《ごとうちゃん電流喰らい慌てて、頬染められて慌てて》

《剣姫のデレ顔で不治の病が治りそうだ》

《頼む、ごとうちゃん。俺達の為に電流喰らってくれ!》


『なんでだよ、コメント欄! あばばばば!』

『ごとうちゃんはコメント欄を見ている時も私でいやらしいことを考えているのか!? ぽ』

『ぽ、じゃねーんよあばばばばば!』

『あ、あははは! て、照れてしまうなぁあああ!』

『あ、待って待って! 奥行かないでー!』


 照れに照れた恵が駆けだし、ダンジョンの奥にずんずん進んでしまう。そして、


『ボスか、おもしろい……私達二人の力をみせつけてやろうではないか、ごとうちゃん!』

『なあんでだよ!?』


 ダンジョンの奥、ダンジョン生成の源となっている魔核を守るダンジョンの主(ボス)と対峙し、電流流れるヒップアタックを使う鐵郎と普段よりテンションが数段高い好戦的な恵によってたった二人でダンジョン攻略を達成し大いに盛り上がる。


「ごとうちゃんすまん! 全然うまくいかなかったと妹さんから聞いた! 詫びにまたコラボを……」

「すげぇえ視聴者数……ごくり……え、えええ! やりましょう!」


 そして、視聴者数爆増の魔力に憑りつかれた鐵郎は、恵とのコラボを繰り返していくことになる。


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