魔獣の森

タヌキング

魔獣の森

ある村に住む少年と少女、歳にして17歳の二人は付き合っており、いつも二人で手を繋いで行動を共にしていた。その仲睦まじい様子に、村の者は彼らの交際を温かな目で見守っていた。

ある時、少女の母親が重い流行り病に倒れ、その病気を治すための特効薬を隣の村まで買いに行かないといけなくなった。少年と少女は二人で隣の村まで行くことにしたのだが、隣の村に行く一番の近道は【魔獣の森】という人食いの化け物が出る森を抜けて行くことだった。

普段なら遠回りして安全な道を選ぶところだが、今回は早くしないと母親の生死に関わる為、二人は案内人の男をを雇って魔獣の森を抜けて行くことにした。


「いいですかい?この森の中に入ったら決して話してはいけません。話したら魔獣は襲ってきますからね。分かりましたね?」


案内人のこの注意に、少年と少女はコクリと頷きました。二人共、心の中で自分達なら、そのことを守るのは容易いと思っていた。



案内人を先頭にして中に入ると、朝だというのに日の光のあまり届かない薄暗くて異様な雰囲気を醸し出す森に、少年少女の二人は緊張から声を出すことが出来なくなる。

鬱蒼とした森の中では、聞いたことの無い獣たちのキーーー‼という甲高い鳴き声や、ガサガサと揺れる草むらの音が聞こえてきて、そのどれもが少年と少女の恐怖心を煽る。だが二人は決して話すことは無かった。ゆえに魔獣も手を出すことは無かった。

そうして暫く歩くと、目の前に光が見えて来た。

魔獣の森をあと少しで抜けることが出来る、そのことで少年少女の恐怖心は薄らいだ。

だがそれがいけなかった。安心した少女が声を出してしまったのである。


「やったわ、もう外に出られ・・・。」


途中で彼女の声が聞こえなくなり、何が起こったか理解した案内人は、大急ぎで残った呆然としている少年の手を引っ張り魔獣の森を抜けた。

案内人には理解出来なかった。話してはいけないといったのに少女が突然喋り始めた意味が。

魔獣の森の外に出てしまえば、魔獣も襲ってはこない。これで一安心なのだが、少年は居ても少女の姿は何処にも無い。

あるのは少年の左手を決して離さなかった、血が滴る少女の手首から先の右手だけであった。


「ぎゃああああああああああああああああああ‼」


少年は訳も分からず発狂した。

そんな叫びを聞きながら、森の中で魔獣は久しぶりの獲物を貪り食っていた。

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