花さないで

玄栖佳純

第1話 年下の彼女

「話さないでね。ボクと付き合ってること」

 一人称がボクの、付き合い始めの彼女に言われた。

 意外だった。隠し事などしなさそうに見えるのに、そういうことは言わないんだ。それとも、しなさそうに見えて、実は隠し事ばかりだとか?

 よくわからない。


「わかった」

 よくはわかっていなかったけれど、物わかりのよい男だと思われたいこともあってそう答えた。別に大声で『彼女と付き合っている!』と叫びたいとか思わない。

 でも彼女は言いたくないのだ。恥ずかしいとか思っているのかもしれない。


 彼女は大学で同じ講義を取っている。歳は20も離れていた。資格を取るために夏期講習を受けに卒業した大学に行ったのだが、彼女とはそこで出会った。


 20も年上のオジサンと付き合っているなんて、恥ずかしいかもしれない。自分だってそんな年下と付き合うなんて思っていなかった。


 ジェネレーションギャップなんだろうか。

 内心では『ボク』も気になっていた。それは自分がオジサンだからか? 最近の子は女性でも『ボク』を使うと聞いているけれど、なんで女性がボクなのか。男女均等とかそういうのではなくて、ちょっとした違和感に困る。


『女性のボクはちょっと』と言おうものなら、これだからオジサンはとか男尊女卑とか責められるのはこっちだろう。長年染みついてしまった物はどうしようもない。

 それで若い人はどうだとか言うつもりもないのに。なぜか文句を言われる。言ってないから別に言われていないけれど。きっとそうだろうと想像しているだけだけど。


 そう思っているけれど、彼女は『ボク』が似合う。

 彼女の顔は整っている。だから何を言われても赦せる。


 舌足らずな話し方で彼女に『ボク』と言われたら、なんでもしようと思ってしまう。上目遣いに見つめられでもしようものなら付き合いだろうと歳の差だろうとどうでもよくなる。


 それくらい彼女に溺れている。

 あえて言おうと思わないけれど。


 大人の余裕を見せたいけれど。

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花さないで 玄栖佳純 @casumi_cross

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