🌴熱帯で第三種接近遭遇🐈‍⬛

土岐三郎頼芸(ときさぶろうよりのり)

出会い

 瀬田チカと山本カズマの二人がタイの古本屋で話している。


「チカ何見つけたん?」


「カズオ・イシグロの『Never Let Me Go』よ」


「カズオ・イシグロってノーベル賞作家やん! へえ。チカそんなん読むんや」


「あたしって父の影響でSF結構読んでたのよ。で、あたしにとってこの本はSFなのよね。まさかフラッと入ったタイの古本屋で原作英語版に出会えるとは思わなかったわ。買って帰ろうかな」


「なるほど。原作ってことは日本語訳は読んだことあるんや」


「そうよ。日本語版のタイトルは『わたしを』」


「あれ? 日本語版と原作英語版とでタイトルが違うやん」


「そうかしら? 同じじゃない?」


「違うって! 『Never Let Me Go』のGoは『行く』って意味やろ?」


「まぁそうだわね」


「タイトル通りに訳すんなら『わたしをイかせないで』とちゃうのん?」


「AVのタイトルみたいに改変するな!」


「日本のかたたちなのかな?」


 チカとカズマの二人がバカ話をしていると後ろから妙に間延びした声がした。


「え? そうですけど」

「うん? どなたさん?」


 後ろを振り向いても誰もいない。


「目線が高すぎなんだな。もっと下のほうなんだな」


「「ん〜?」」


 チカとカズマが言われるままに目線をおとすと、いた。


 背筋をしっかり伸ばして腕組みをした黒猫が二本足で立っていた。


「やあ、やっとこさ目を合わせてくれたんだな」


「「なんじゃそりゃあ~!」」


「そんな大声出さないでほしいんだな。ぼくは耳がいいからちゃんと聞こえるんだな」


「「ネコがしゃべった!」」


「うん? やっぱりこの星ではねこ型生命体はひと型生命体とはあまりでいるのかな。事前に集めた情報とはなんだかとっても違うんだな」


「あなた、宇宙人なの?」


「ひと型生命体のお嬢さん、目が悪いのかな。ちょっと違うんだな。ぼくはねこ型生命体だから宇宙ねこなんだな」


「それはそうなんだけど」


「で、その宇宙ネコさんがボクらに何の用ですねん?」


「いい質問なんだな。この星のひと型生命体はずいぶん危ないものをいっぱい作っているので心配で来たんだな」


「「ぎくっ!」」


「安全管理はだいじなんだな。なすべきことで宇宙に出てくるのは危ないんだな」


「「おっしゃる通りです!」」


「カズマ、これはあたし達じゃ手におえないわよ。この国のNASAに行ってもらいましょう!」


「チカ、まずは落ち着こうか。この国NASAで!」


「そんなぁ!」


「言葉が通じとるんやからまずは対話やろ? Youは何しに地球まで?」


「この星の責任者のねこ型生命体の長に、ひと型生命体を宇宙に勝手に欲しいと伝えに来たんだな」


「「ええっ! 地球の責任者がねこ型生命体!」」


「あれれ? しらなかったのかな? まったくこの星のねこ型生命体はみんなのんびりしすぎなんだな。困ったもんなんだな」


「マジですか!」


「まじなんだな」


「さっきから驚いてばかりやな。それで宇宙ネコさんは今なんでここにいるの?」


「そこなんだな。宇宙船のトラブルでタイに不時着してしまったんだな。ぼくはタイ語がわからないから困っていたんだな」


「宇宙ネコのくせに万能翻訳機とかないんかいな?」


「そんなの無理なんだな。この星の言語は多すぎるんだな」


「でも日本語はこんなに上手なのに」


「この星のねこ型生命体の長は日本にいるんだな。だからぼくの使ってる翻訳機は日本語変換にセットしてあるんだな」


「「なるほど」」


「そこへ日本語が聞こえてきたんだな。地獄に仏とはこのことなんだな」


「ずいぶん性能がよさそうな翻訳機やな」


「くりかえすけど日本語にしか使えないんだな。だから助けてほしいんだな」


「助けてって何をしてほしいの?」


 黒猫はチカの脚にすがりついた。


「きゃあっ!」


「なにすんねんこのエロネコ!」


 黒猫は目を潤ませて見上げて言った。


「ぼくを日本に連れて行ってほしいんだな」


「「ええええええ⁈」」


「お願いなんだな! ぼくを見欲しいんだなああああ!」


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