恋人たちは古代エルフの遺跡へお宝探しの旅に出る
綾森れん@精霊王の末裔👑第7章連載中
古代エルフが残した宝物庫
魔法学園研究室の大きな窓から、やわらかい午後の陽光が差し込んでいる。棚に並んだ魔法薬の瓶に反射してまぶしいくらいだ。
師匠は大きな机の上に魔導書を広げ、俺には読めない古代文字の一文を指さした。
「エルフの古代遺跡に残る宝物庫には、お宝が眠っているみたいなんです。でもここ、
「け、穢れ!?」
高い声を出して口元を覆ったのは、俺の隣に座っているピンクブロンドの美少女。名をレモネッラと言う。聖女の力を持つ彼女は、俺の恋人にして婚約者だ。
「ええ。レモさんとジュキエーレくんはまだ清い関係でしょうから二人にお願いしようかと」
師匠は涼しい顔で言ってのけ、レモと俺を交互に見比べた。
確かに俺はまだレモに手を出していない。でもそれを指摘されたら男がすたるじゃねえか!
「おい、師匠――」
抗議の声を上げかけた俺を遮って、
「だ、だめよ師匠! だって私、私――」
レモは顔を覆ってか細い声を漏らした。
「ジュキの唇、奪っちゃったもん」
そこは俺に唇を奪われたと言ってくれー!
「あ、あのな、師匠」
俺はなんとか言葉をつむごうとするも、首から上が熱くてうまくしゃべれない。
師匠は俺たち二人を眺めながら軽くため息をついた。
「安心してください。お二人の関係は充分、清らかですから。それでですね」
また反論しようと口をひらきかけた俺を無視して、師匠は机の下から魔道具を取り出した。
「古文書によると宝物庫の一番奥にある『鏡の間』に宝物があるはずなのですが、そこまでの行き方がちょっと複雑なのです。それで開発途中の魔道具を持って行って欲しい」
師匠が机の上に並べたのは魔石が嵌まった銀の腕輪と、淡い光を放つショートブーツだった。
「こちらの腕輪は風魔法を応用した通信用魔道具なんです。今はまだワンブロックくらいの距離しか離れられませんし、伝えられる言葉もせいぜい一、二単語ですが、私が宝物庫の外から指示を出します」
俺は腕輪を手に取り、しげしげと眺めた。
「どうやって使うんだ?」
「腕に嵌めるだけで、発信用魔道具を使う私の声が聞こえるはずです」
腕輪を装着する俺の隣で、レモはブーツを見つめながら、
「これを履いていくのかしら?」
「ええ。そちらは大地の精霊の力を借りることで、お二人の居場所が分かる魔道具です。この地図に二人の現在地が表示されます」
師匠が俺たちに見せたのは重そうな石盤で、よく見ると地図が彫ってあった。
俺とレモは翌日、魔法のブーツを履き、通信用魔道具を腕に嵌めて師匠と共にエルフの遺跡へ出かけた。
草木に浸食された石門を抜けると、天然の滝によってふさがれた宝物庫の入り口が見えてきた。
師匠がエルフの古代語で呪文を唱えると――
「滝が割れていく!?」
流れ続ける水が二股に割れ、籐で編まれた古い扉が姿を現した。
「レモさんとジュキエーレくん、二人で押せばひらくはずです」
師匠の指示に従って俺とレモは手を重ね、恐る恐る扉を押した。
「ひらいたわ!」
レモが声を上げ、俺は息を呑んだ。宝物庫の中は想像以上に広く、明るかった。天井からは木の枝が垂れ、柱にはつる草が巻きついているが、壁に取り付けられた燭台には魔法の明かりが灯っていた。
「古代の遺跡なのになんで明かりがついてるんだよ」
俺がつぶやくと、
「エルフの魔法が残っているんだわ」
レモが答えてくれた。
地面に敷かれた古い絨毯には落ち葉がたまっている。よく見ると床にも木の根っこが這っていて、美しさと不気味さが同居していた。
「まっすぐ行けばいいんだよな」
俺が隣のレモに話しかけたとき突然、腕に嵌めた魔道具の魔石が光を放った。
『手をつないで』
どこか遠くから師匠の声が聞こえる。これが通信用魔道具の力か!
「ジュキ、手をつないでだって」
レモが嬉しそうに俺の手を優しく握った途端、絨毯に刺繍された文様が俺たち二人を取り囲むように浮かび上がった。
「魔法陣!?」
レモが驚きの声を上げたのと、周囲に光の柱が立ち上がったのは同時だった。
「まぶしいな」
俺は目を細めながら、二人を取り囲む光の柱を見つめた。
「扉が浮き出てきた!?」
「本当だわ! 色とりどりの扉が並んでる!」
レモは俺とつないでいない方の手を額にかざしながら、周囲を見回した。
「ひとつ、ふたつ」
「全部で六つか」
赤、オレンジ、黄色、緑、青と並んだ扉を数えていると、
『青い扉』
と、また師匠の声が聞こえた。
「よし、こいつだな」
レモと手をつないだまま青い扉の取っ手に触れると、扉は音もなく開いた。
「ここが鏡の間ね!」
青い扉の先は壁も天井も床もすべてが鏡でできた小部屋だった。鏡の中には手をつないで不安そうに見回す俺とレモの姿が映っている。俺の方がわずかに背が高いものの残念ながら大した差はない。
普段の俺はこっそりシークレットブーツを履いているのだが、今日は師匠の魔道具を履かされたせいで、全く身長をごまかせない。
「ジュキったら鏡、気にしてる?」
「え、いや」
戸惑う俺にレモは笑い声を上げた。
「ジュキって綺麗な銀髪だし、エメラルド色の瞳で魅力的だし、やっぱり鏡を見たら『俺って美形だなぁ』って思うんでしょ」
「そんなわけねえじゃん! むしろもっと鍛えなきゃなと思ってたところだよ」
一番気にしている身長については話題にもしたくないが、肩幅も腰回りもレモよりちょっと太い程度というのも気に入らない。華奢な体型を改善するのは努力で可能なはずだ!
「えー、ジュキは鍛えなくていいのに。今のまま可憐な姿でいてほしいわ」
「ばっ、何言ってんだ! 俺はかっこいい男に――って今はそんなことより宝探しだろ?」
「そうね、師匠は鏡の間にあるって言ってたけれど」
レモがきょろきょろと視線を巡らせると、また腕輪が光った。
『はなさないで』
口を利くなってことか。俺はすぐに口をつぐんだが、レモは違った。
「ええ、離さないわ!」
レモはつないでいた手を引き寄せると、俺をぎゅっと抱きしめた。
「華奢で小柄でかわいいジュキは私が守る! 決して離さないから!」
いや、師匠の指示は「話さないで」だろ!?
「ジュキったら黙っちゃって。鏡に映った女の子みたいに愛らしい自分の姿を気にしているのね?」
確かに気にしてるけど、俺が黙っているのはそういう理由じゃなくて――
「うわっ」
だが突然周囲の鏡から様々な色の光線が放たれて、俺はレモに抱きしめられたまま声を上げた。
「キャー、まぶしい!」
レモも悲鳴を上げる。
金、銀、そして七色の光線が駆け巡り、俺とレモの体を包み込んだ。
やがて光が収まるにつれ、俺は嫌な予感に襲われた。足元がスースーするし、肩のあたりも先ほどまでより涼しいような気がする。
恐る恐る目を開けると――
「やっぱりぃ!」
俺は自分の姿を見て悲鳴を上げた。男物の服はどこかへ消え、薄いシルクのような布が体を覆っている。といっても一部だけなのが問題だ!
首元の装飾具から垂れた薄布が胸を隠しているものの背中側に布はないし、二の腕に嵌まった繊細な銀細工が薄布を押さえているものの肩は出ている。
さらに腰のあたりからは左右に大きく広がって、両足はほとんど素足。これ、どう考えても色っぽい女性の服装だよな!?
「ジュキったら素敵!」
甲高い声に隣を見れば、金糸の文様が刺繍された重厚な白い服に全身を包んで、レモが立っていた。手に持った錫杖から察するに、
「レモの服装は神官か何かか?」
「エルフの神官装備かもしれないわね。ジュキのは巫女さんかしら?」
「なんで男女逆転してるんだよ!?」
俺の絶叫に答えるように、また魔道具の腕輪から師匠の声が聞こえた。
『帰ってきて』
「お宝は!?」
俺の問いに答えたのは、またもや師匠の無慈悲な声だった。
『それ』
「は?」
「このエルフの装備ってことでしょ」
レモにまでたしなめられ、俺はスケスケ巫女さん衣装のまま帰路についたのだった。
今回もまた脱げない展開を恐れていた俺だったが、師匠の解呪の術により元の服に着替えられた!
なお師匠の鑑定魔法によると、エルフの巫女装備は癒しの光を扱えるようになる効果が、レモが授かった神官装備は防御力を高める効果があるらしい。
しかしレモが持つ聖女の力のほうが癒しの光より強いし、俺の水魔法による結界のほうがエルフの神官装備より有能なので、お宝は帝国騎士団に寄付することにした。
「それにしてもなんで男女間違えて着せられちまったんだろうな?」
ふと漏らした俺の問いに、師匠が苦笑しつつ答えた。
「レモさんが男らしい発言をしていたからでしょうねぇ。だから『話さないで』って送ったのですが」
「うそーっ、『離さないで』じゃなかったの!?」
レモの叫び声が研究室に響き渡ったのだった。
─ * ─
「はなさないで」ってまぎらわしいんじゃー! とレモに共感していただけたら、ページ下から★を押してくださいね!
レモとジュキが活躍するファンタジー長編『精霊王の末裔』本編もよろしくね!
恋人たちは古代エルフの遺跡へお宝探しの旅に出る 綾森れん@精霊王の末裔👑第7章連載中 @Velvettino
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