KAC20245 彼女は今……
久遠 れんり
人が消える会社。それは……
「誰にも、はなさないで」
それが、彼女の口癖だった。
彼女がいなくなったのは三年も前。
私が入社をした時、すでに彼女は会社にいた。
でも入ってすぐに、同僚の人たちに注意されるほど、有名人だった。
仕事をせずに、人のうわさ話に花を咲かせる。
そして仕入れた話を、別で広める。
どうして入社出来たのかわからないけれど、一説だと社長の愛人だとか、部長の妾だとか色々噂はあった。
「営業一課の庄司さんて、秘書課の町田さんと付き合っているのよ。ああ、誰にもはなさないで」
そう言って、日々職場内を巡る。
「営業二課の増田希さんて、成績が欲しくて、もも色精巧の課長さんと寝たのよ」
「それはないでしょ」
「バカねえ、事実がなければ、噂なんて広がらないわ」
そんな日々。
職員の元に、一通のメールがやって来る。
『流言は、守秘並びにコンプライアンス。ハラスメントその他の規定に抵触いたします。社会人としての規範の下、業務に努めてください』
「あー。これってあの人の事ね」
「名前なんか載ってなくてもわかるわね」
そんな会話をしたが、それからも彼女は、変わることなく彼女の業務を頑張っていた。
そんな折、どこからかクレームが入った様だ。
「悪質な噂が流れ、情報源を辿ると御社へたどり着いた。誠実な対応を御社に求めます」
どうもそんな感じだったと。話が流れてきた。
本人から。
「やあねえ。誰かしら?」
そう言って、彼女は全く覚えがないようだ。
そうして、月日が流れ、ある日。
朝から忙しそうに彼女は走り回っていたようだが、昼過ぎに一度どこかへ行った後、あわてて帰ってくる。
その時は、ひどくおびえ顔は真っ青。
「どうしたんですか?」
「ごめんなさい。ちょっと帰るわ」
珍しく、必要最小限の話だけで会話が終わってしまった。
有給休暇を流れるように取り、そそくさと帰ってしまった。
「どうしたのかしら?」
「さあ?」
皆が、彼女が取った行動が、普通のことだったので驚く。
何かを聞き、何かを恐れた? それが何かを知ることは話す人が居なくなって分からない。
だけど、会社の規定により、スムーズな退職手続きが行われたようだ。
「うちの会社って、年に数人はいなくなるよね」
「そう言えばそうね」
同僚と考える。
「もしかして、地下を覗いたんじゃない」
「でも、あれって別通路じゃない」
「だけど、他には思い当たらないわよ」
「そうかなあ」
うちの地下には、変わった施設がある。
会社の営業では使わないが、色々と使用頻度は高い。
「うす」
「ごくろう」
私は地下へ行き、すこし確認をする。
「これをどうぞ」
冷凍庫へ入るため、上着を借りる。
中にずらっと並ぶ箱を見ていく。
「あら本当だわ」
その箱は、出荷待ちの箱。
その一つに、彼女は寝ていた。
「こっち側を見たんだ。だめねえ」
どんな会社にも、覗いてはいけない何かがある。
「この箱、処分に回して」
「えっ、お嬢。こいつは販売用で」
「こいつの臓器など、移植されたら、体が食あたりをするわ」
「へい」
新型の技術により、生体でなくとも移植が可能になった。
無毒な置換剤が細胞内の氷晶成長をさせない。
そんな秘密が、この会社にはあった。
多くは語らないが、興味本位で覗いてはいけない物がある……
KAC20245 彼女は今…… 久遠 れんり @recmiya
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