[KAC20245]戦火にかける

めいき~

二人は争いたくなどなかったから

そっと、紫のスカートを押さえながら。

上目遣いで、葉月を見た。



餞(はなむけ)は、いらない。


「そう、貴方もいってしまうのね」



飛沫が舞い、気が落ちる様に沈んでいく。



「ボク達は、彷徨い続ける。そこに希望なんて無いんだ」



天を紅く焼く街並みで、紅い眼をした白い猟犬が歯ぎしりをした。


吹雪と、硝煙で世界は照らされ。


碇と葉月は、お互いのその場に似つかわしくない白い手を重ねながら。





「ボク達には、この道しか無かったというのか」

「私達には、この道しかなかったの」


二人が背中合わせにお互いの手を強く握りしめ、大きく息を吸い込こむ。



月夜に吹雪く、アネモネの花びらの様に。

飛沫と叫びが星空に響く。



葉月の手から、粘度の高い血が手首から大地に零れていく。

碇の額からも、ポタリポタリと。



「もしも、ボクが勝ったのなら君の墓には紫のスミレを置くよ」

「もしも、私が勝ったのなら君の為に一曲弾いて、終わりにしよう」



この手を、はなしたら。



それは、決別。



この手を、はなしたら。



それは、お互いの道がもう二度と交わらない。



「ボクは、この手を放したくない」

「私も、本当はずっとあなたと居たかった」



「「本当は、このまま手を繋いで何処かにいなくなりたい」」



二人の声が、そろって思わずお互いを見る。



「なんだ、碇もそうだったんだ」

「なんだ、葉月もそうだったんだ」



お互い、背中合わせのまま。

お互い、今できる最大の笑顔を向け。



葉月と碇は首だけ後ろを見て、お互い頷く。




この手をはなしても、この気持ちをはなさない。

否、この手をはなさず二人でここから逃げてしまおうと。




遠くで聞こえる、惨劇の音が二人を急かす。


背中合わせだった、二人。

互いの手を繋いで、並んで。


どちらがいいだす事も無く、ただ強く握りしめ。


空に流れる星たちの様に、景色がどんどんと流れていく。


どんなに眼を凝らしても、最善なんて判らなくて。


ただ、この手をはなしたくなくて。



二人で、ただ訳が分からない道を走り続ける。




お互いを信じて、強く強く。




もうすぐ夜が明ける、そう願わずにはいられない。


街は、夕暮れの空の様に真っ赤に燃えて。

大地も、返り血で真っ赤に染まって。



この無常、この旋律。



裸足で、二人が翔けていく。

靴はもう走る途中で、投げ捨てた。



狂気のレクイエムが、二人を追いかけて。


歪んだ世界で、囁く様に。



二人は、お互いの想いをその手を通じて重ね走る。



否、二人の夜は今から明けるのだと。

互いの気持ちを、一つに走り出す。




互いの気持ちは、もうここには無くて……。

お互いが、争わなくてもよい地を互いが互いに手を引きながら。



同じ願いを、口にする。



その手を、はなさないで……と。


<おしまい>

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