やぶ医者の娘

ハマハマ

はなさないで

 やぶ医者っておしごと、ご存知ですか?


 あたしのお父さまとお母さま、やぶ医者なんです。

 いえいえ違うんですよ。お医者の腕は確からしいんです。


 やぶはやぶでも「」に「かんなぎ」の野巫やぶ医者。

 

 まじないを籠めた呪符なんかで病気を癒そうっていう訳の分からぬ商売のことなんです。

 だからお薬も出しませんし、患者さまのお腹を開いて閉じたりなんぞも致しません。


 中でもお父さまよりお母さまの野巫の腕は相当――


「あら良庵せんせ、その呪符のここんとこ、ちょっと違ってますよぉ」

「どれどれ……あ、ほんとだ。助かったよお葉さん」


 とまぁ、こんな感じでお母さまの方が一枚も二枚も上手なんですって。


 けれどそれも当然なんですよ。

 お母さまはお父さまの野巫のお師匠――だってお母さまは元々、だったんですもの。


 人が扱うかんなぎの力に加え、妖魔が扱うげきの力も併せて使う――巫戟ふげきの使い手だったそう。


 ところが色々とありまして、今では戟の力を手放しとなり、お父さまと共に野巫医者してるってぇわけです。


 毎日毎日わりとたくさん訪れる患者さまを、二人仲良く並んで捌く、それはもう仲睦まじい自慢の両親。

 いちゃいちゃし過ぎてたまにこちらが赤面させられたりも致しますけれど。



 さて。

 先ほど、お母さまは戟の力を手放した、と申しましたけれど。


 一つ上の葉太兄さまはそんな事はない様なんですけれど、どうもわたしは少し異なる様なんです。


 ほら。

 お父さまとお母さまが患者さまへとお出しする呪符を書くあの筆、ほんのり白く淡く輝くのがお分かりですか?


 あの淡い白が巫です。

 対して戟とはほんのり赤み掛かっているものなのですが、どうにもわたし、戟の力を持っている様なんです。


 ほら、ご覧になってくださいな。

 巫と戟の力を籠めたわたしの指先、桃色の何かをぽっと纏っているでしょう?


 でもだからってわたし、妖魔だというわけではないんですよ。

 間違いなく人なんです。少し人より成長が早いだけの。

 不思議ですけど、先祖返りだとか、何かそんな感じなんでしょうね。



「あ、お父さま。その呪符の巫、少しがある様ですよ」


 熊五郎棟梁への呪符。それだと効果が少し薄れてしま――


「これ! 良子! 診察室ではって言っておいたでしょう!」


 あ、つい口にしてしまいました。


 お父さまの背に負ぶわれたわたし。

 産まれてもうすぐ一年。

 オムツだってまだ外れてません。


 気味悪がられるから人前で話してはならないんでした……


「ほへぇ……? 良子嬢はもう喋るんかよ? しかもあんな流暢に……。やっぱ良庵せんせとお葉ちゃんの子は違うねぇ」

「そうだろう? お葉さんに似て賢いなんだ」


 しかもがっつり棟梁に聞かれっちまいましたね。


 お父さまはぽんやりしてらっしゃいますけど、お母さまは怒ると怖いんですよねぇ。

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やぶ医者の娘 ハマハマ @hamahamanji

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