【KAC20244】小爪

星羽昴

「・・・は素直でかわいいなあ」


 名前を呼ばれて、寝ぼけていた意識が覚醒する。

 わたしはベッドの上に裸で横たわっていた。背中の視線に気付いて、恐る恐る背後に目をやると、窓から差し込む朝日を背にして、上半身を起こした彼女が、やはり裸でそこにいた。



 お互いワインが入って、気分が昂っていた。彼女を年下と思って油断した。完全に主導権を奪われた夜だった。

 彼女に顔を見られないようにしながら、ベッド周辺に散らばってた自分の下着を探した。何とか上下を見つけて、浴室へ飛び込む。

 浴槽にお湯を張るのは面倒だから、シャワーだけでいい。目覚ましのために水温と圧力は少し高めで浴びることにした。行為の後そのまま眠りについてしまったから、を洗い流しておかないといけないし。

 彼女の指に悪戯されたデリケートゾーンは、念入りに洗う。


「・・・!」


 身体の奥に小さくチクッとした感覚?があった。



 シャワーをすませ、上下の下着をつけて浴室を出た。彼女は上半身を起こした姿勢のまま、ベッドの上にいる。


「貴女もシャワー浴びたら?」


「うん、そうする」


 わたしと違って身体のどこも隠さない。どうどうと裸身のまま浴室へ向かう。


「あ、ちょっと待って」


 ベッドの側の床頭台を探したら小バサミがあった。彼女をベッドの側に呼び戻して右手を出して貰った。


「ほら、小爪」


「小爪?」


「乾燥して爪の端が分離してめくれちゃったのよ。爪にできただね。雑菌とか入って化膿すると面倒だから」


 右手の人差し指、その爪の右端がめくれて棘のように小さく突き出していた。

 小バサミで、その棘部分を根本に近いところから切り取る。人差し指の先には医療用テープを巻いてあげた。


「何で気付いたの?」


「粘膜の部分がチクッとしたからさ。しか入ってないじゃん」


「昨晩、言ってくれたら良かったのに」


 ちょっと返事に困る。

 気付いたのはシャワーの時。昨晩は、気持ちよくて気付かなかった・・・とは言いにくい。

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