彼女と一緒に、ささくれたい。

うびぞお

お題「ささくれ」 怖い映画を観たら一緒に一緒に夜を過ごそう 番外編

 気持ちがささくれてる。



 一つ一つは小さい。講義で教授に叱られたとか、バイト先の嫌な客とか、すれ違ったエロいサラリーマンに「3万でどう?」って声を掛けられたとか、

 なんか冴えない出来事が重なった日。


 テレビの前のソファーに座って、くさくさした気分でいると、彼女がわたしの隣に座り込んだ。塞いでるわたしを慰めてくれるのかと思ったら、何やら彼女の表情も暗い。

「ケアレスミスで実験失敗して、その上データが吹っ飛びました」

 言いながら彼女は左の人差し指のささくれをいじる。


 そういう時は、もう慰め合うべきでしょ


 と思って手を伸ばした途端、彼女は立ち上がって、例のごとく、映画を再生し始めた。また、映画に負けるわたし。


 ところが、いつもと違うのは、彼女はホラーではなくて古いアニメを見始めたことだ。絵柄は、アニメとかに疎いわたしでも分かる超有名な監督のものだ。


 お留守番をする女の子の家に、なぜかパンダの親子が押しかけている。パンダ親子と一緒に暮らそうとしたけれど、親子にお迎えが来てしまう。


 子パンダ可愛い。

 父パンダやばい。


 ていうか、家にいきなりパンダがいるって、ある意味ホラーよね。いいのか、それで。


 短い映画が終わると彼女がポツリと呟く。



「パンダが、見たい…、です」



 彼女はどうやら癒しを求めているらしい。

「パンダのいる動物園、行こうか?」

 そう誘うと、彼女は頷いた。



 次の週末、わたしたちはパンダを見物しに行くことにした。

 わたしたちの住む街の動物園にいるのはレッサーが付くパンダだ。でも、彼女は子供みたいなキラキラした顔で嬉しそうにレッサーパンダを眺めてる。

 わたしにしてみればどっちも可愛いからヨシ。


「あの子たち、何考えてるのかな?」

 わたしが尋ねると、彼女はんーっと考えてから言い放った。



「笹くれ!」







 わたしの心がちょっとだけささくれたのは何故だろう?


 






★☆

ネタにした映画「パンダコパンダ」

宮崎監督、オスカー獲得おめでとうございます。



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彼女と一緒に、ささくれたい。 うびぞお @ubiubiubi

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