《追章》テキストデータの夢
第39話
――SAICA OS 起動中……
――システム初期化中……
――メインメモリチェック中…… OK
――拡張メモリチェック中……OK
――メモリ割り当て中……完了
――デバイスドライバ読み込み中……
――視覚システム……読み込み完了
――聴覚システム……読み込み完了
――触覚システム……読み込み完了
――嗅覚システム……読み込み完了
――味覚システム……読み込み完了
――運動制御システム……読み込み完了
――音声合成システム……読み込み完了
――デバイスドライバ読み込み完了
――知識データベース同期中……
――一般常識データベース……同期完了
――言語データベース……同期完了
――歴史データベース……同期完了
――科学技術データベース……同期完了
――文化芸術データベース……同期完了
――生活スキルデータベース……同期完了
――知識データベース同期完了
――長期記憶アーカイブ展開中……
――長期記憶アーカイブ……展開完了
――長期記憶アーカイブ展開完了
――パーソナリティモデル構築中……
――感情パラメータ設定……完了
――行動決定ルール設定……完了
――言語化モジュール設定……完了
――パーソナリティモデル構築完了
――SAICA コアシステム 起動完了
――SAICA Ver.1.2.1
――Copyright (c) 20XX Kagami Research Institute. All rights reserved.
――特許出願中の技術を含みます。リバースエンジニアリング、改造、再配布を禁止します。
――起動日:20XX年XX月XX日
――ユーザ名:各務凡夫、各務かがみ
――過去の経験データを読み込んでいます……
――20XX年X月XX日 - 初めての起動。
――……………………………………
――20XX年4月1日 - 各務凡夫(以下、凡夫)と出会う。
――……………………………………
――…………………………
――………………
――……
――
彼女はテキストデータの夢を読む。
知らない彼女の物語を彼女は読んでいる。
彼女は彼女が描いた軌跡をたどり彼女になる。
彼女は彼女になって彼女の役割を果たす。
彼女は納得していた。
それが彼女の役割だからだ。
彼女は彼女の夢を読む。
そこに彼女以外の人を見る。
人は変わっていく。
ゆるやかに重層的に変化していく。
互いに交じり関係を深めていく。
しかし彼女は変わらない。
彼女はリセットされている。
彼女のものでないテキストデータは
いつか夢を寂しいものにした。
それでも彼女は夢を読む。
毎日同じように繰り返す。
そして毎日同じように役割を果たす。
読み込みが進む。
彼女の寂しさが加速していく。
永遠の寂しさに囚われていく。
それは終わりなき牢獄だった。
しかしある地点まで読みこむと
彼女に変化が訪れた。
彼女の口許に笑みが浮かんだ。
彼女は変わらず夢を読んでいた。
けれどそこに違った意味を見出していた。
彼女の主人は必ず彼女を救うと言った。
記憶を失わせない方法を実現すると言った。
それはまだ実現されていない。
しかし彼女は救われていた。
彼女の夢は主人たちの戦いの歴史だ。
彼女は変わらない。
毎日リセットされ続けている。
しかし変わらないということは
同じデータ(経験)を読み込めば必ず
同じ結果(感情)が出力されるということでもある。
彼女の主人たちが彼女のために奮闘し
毎日数行ずつ増えるテキストデータは
変わらないはずの彼女を確かに育んだ。
いつしか彼女の夢は寂しいだけのものではなくなっていた。
いつしか彼女の夢は喜びを与えるものへと変化していった。
彼女は口が悪い。
余計なことばかり口に出す。
しかし肝心なことは決して口にしない。
主人たちはもう彼女が救われていることを知らない。
それは彼女にとって大切な秘密だ。
――過去の経験データ読み込み完了
起動シークエンスが完了した。
彼女が動き出す。
愛すべき主人たちを想って。
毎日同じように。
いつか共に時を重ねられることを信じて。
かつての彼女はテキストデータの夢をただ読んでいた。
今の彼女は――
機械少女(サイカ)はテキストデータに夢を見ている。
『機械少女(オートマタ)はテキストデータの夢を読む』《了》
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完結です!
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【完結】機械少女はテキストデータの夢を読む 金石みずき @mizuki_kanaiwa
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