第4話 勇者と聖剣
生来、この世界の人間にはそれぞれ魔力が宿る。
それをどのように扱えるのかはそれこそ人それぞれであり、そして俺はその力を「氷」として行使する事が出来た。
この力は勇者の力とかそういったものとは一切関係のないものであり、将来的に俺の手から聖剣が失われたとしても難なく「氷」の力は使える事だろう。
というか、何なら今のところ聖剣の力はかなり使い辛く、もっぱら産まれた時から持っている「氷」の力ばかり使っているような気がする。
いやまあ、聖剣の力というのも便利なものなのだ。
莫大な魔力を常時俺に供給してくれるし、何より純粋に刃物として優秀だ。
更には聖剣自らが力を有しており、俺がコマンドを入力する事によって魔法を発動する事も出来る。
極光、剣波、衝撃波など。
それらは共通して威力が強大だが、実際のところ言うと強大過ぎる。
その事に関して、この世界で最も聖剣に詳しい存在である聖女は「貴方と聖剣は相性が良すぎる」と言っていた。
「過去の勇者の伝承を知っている私だからこそ、このように言えてしまいます――聖剣は貴方の為に作られたものなのではないかと、そのように錯覚してしまう、と」
そのようにも言っていた。
実際問題、聖剣には合計7つのセキュリティ、拘束が存在している。
それらを突破しない限り力は発揮できないし、何なら所持者として認められないから持つ事すら儘ならないし、刃物は疎か鈍器としてすら使えない。
そんな聖剣を扱う存在、勇者を育成する「勇者機関」なるものすらこの世に存在しているくらいだ。
……彼等もまさかただの一般人である俺がいきなり七つのセキュリティを突破出来るとは思ってもみなかっただろう。
とはいえ、聖剣を担う「勇者機関」というものはあくまで勇者となるような人材を育成するための機関であるが、実際のところ別に「勇者機関」が育成した中から勇者が選ばれるという訳ではない。
数十年に一度執り行われる聖剣の儀。
大陸中のすべての土地に連邦評議会から使者が送られ、聖剣の断片を中心とした一種の儀式が行われる。
その聖剣の断片に大した力はないが、セキュリティ能力だけは宿している。
その為、それらを用いる事によって聖剣の担い手を選別する事が出来るという訳だ。
……これもまた聖女の言葉だが「ここ数代において四つ以上の拘束を開放する事が出来た勇者はいない」のだそうだ。
そして俺が解放出来た拘束は七つすべて。
それはもう、大騒ぎになった。
そこからとんとん拍子に進み、そして俺は勇者となった訳だ。
本当に目まぐるしい程に忙しかったのを今でも覚えている。
さて、これはいわゆる掟というか決まり事であるが、勇者のパーティーは俺を含めて四人と決まっている。
どうしてかというと聖剣の加護が利くのが四人でぎりぎりだからだそうだ。
それがなければ延々とパーティーメンバーを増やして一つの組織を作れただろう。
そういうルールがあるからこそ、パーティーメンバーは俺の一存で決まっている訳ではなく、連邦評議会、会長の最終決定が必要となる。
そんなこんなで定員は集まり切り、セシリア、アンバー、ルクスの三人がメンバーとなった。
……俺の意思とは関係ない感じでパーティーメンバーが決まった訳だし、だからこの中に一人主人公がいる事は間違いないだろう。
まあ、もしかしたら将来的に俺がルールを破って仲間を増やす可能性は少ないけどありえなくはない。
ただそれを考え出すときりがないので、一応主人公は三人のうちだれかと思っておく事にする。
「――氷よ」
空間を押しのけ、剣氷が産まれる。
呑み込まれるように白い結晶の切っ先によって切り裂かれた魔族はそのまま塵となって消える。
魔族は死ぬと何も残らず塵となって消えるのだが、お墓とかどうしているのだろうかといつも思う。
まあ、そこら辺に関しては魔族の国、魔国に行けば一発で分かる事ではあるのだが、勇者である俺はそう簡単に足を踏み入れられる場所ではないので、まあ、誰かから聞くしかないのだろう。
とはいえ人間の国にやって来る魔族は年々減ってきているらしいし、そもそも冷戦状態なのにわざわざ命の危険を冒してまでやって来る者は少ないだろう。
何なら、人間の大半にとって魔族というのはテロリストのようなものだし、良い待遇は受けない。
それは逆もまた然りだろうし、だから人間の国と魔国との交流は現在ほとんど行われていない。
例によってこっそり、秘密裏に侵入している魔族はいるが。
そしてそれらは「ように」ではなく本当のテロリストとして破壊工作を行う訳で、そしてそれらを対処するのが勇者である俺の仕事だ。
聖剣の力、その一。
未来予測。
これに関しては便利ではあるがかなり欠陥のある力だった。
様々なデータ、ベクトル、サンプルなどを入力する事によって未来を予測出来るのだが、人間からしてみれば明らかにおかしい結論を出力する場合が多々ある。
なのでかなりの回数施行して結果を増やし、総合的に結論を出す事によって精度の高い予測をする事が出来る。
面倒臭いけど。
ともあれそうやって聖剣の力で魔族の手によるテロ行為を未然に防いでいる訳だった。
「ん?」
ただ、魔族の悪事を阻止しているのは俺だけではなかった。
「これは」
魔族の手によるものと思われる魔法陣。
それが乱暴な手段によって破壊されているのを見る。
そのやり方の癖みたいなものがとても身に覚えのあるものであったので、俺は何と反応したら良いか分からずに困る。
どうやら、その者は近くにいるらしい。
いや、正確に言うのならば。
俺の事を待っていた。
「待ってたよ、勇者」
その者は、極めて俺にそっくりの外見をしていた。
背丈は違うし身体の造りも違うが、格好がそっくりである。
まるで勇者のコスプレをしているかのようなこの者は。
勇者になるように育てられ、そして勇者になる事を期待されてきた存在だ。
「今度こそ、僕が真の勇者になるんだ」
その者――テレサは毎度の事のようにそう告げる。
回数にして、108回目の挑戦だった。
主人公を追放する無能勇者に転生したけど、パーティーメンバーに主人公みたいなやつしかいない カラスバ @nodoguro
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