ささくれが出来た

蔵樹紗和

第1話

 ささくれ。それは人生で一度はなった経験のあるもの。時には一本の指にいくつもできることもあり、非常に痛い。


それが今日、この私にもできた。


今まで丁寧に丁寧に手入れをしてきて、ささくれが出来ないようにしてきたのに。


この人生20年、一度もできたことがなかったのに。


それなのにささくれが出来てしまった。それが非常に悔しい。


だから早く治そうと思った。友達に聞いてみてささくれの治し方を教えてもらおうと考えついたのだ。


しかし……。


「ささくれの治し方? ごめんなさい、私はわからないわ。何もしなくてもすぐに治るわよ」


と、一人目の友達に言われた。それでは困るのだ。私は一刻も早くささくれを治したい。一刻も早く綺麗な指先にしたいのだ。


そこでもう一人の友達に聞いた。


「ささくれの治し方かぁ……。あんまり気にしたことないや。皮膚科の先生に相談してみたら?」


と、言われた。


やはり治し方は知らなかった。


そして三人目の友達。


「ささくれ? そんな気にしなくても、ほっといたら治るよ」


やはり知らない。私からしたら相当適当な答えだ。


そうして人に聞いてまわった私は、やがてある一つの考えに行き着く。


(もしかして、ささくれはいつも出来ているのが当たり前で、あまり手入れをしていないのでは……)


それでは知らないのも当たり前だ。


私は無意識のうちに手入れをしていることを前提として考えていたのかもしれない。自分は毎日しっかり手入れをしていたから。


試しに自分の指先を見つめてみる。


綺麗でツヤツヤした指先に一点の汚点のように存在する、小さなささくれ。


見ているだけで不愉快だ。今までの私の努力はなんだったのだ。この汚点が出来ないように努力してきたのでは無かったのか。


不愉快すぎて気分が悪くなった私はいても立ってもいられなくなり、カバンを手にすると、すぐに皮膚科へ向かって家を飛び出したのであった。





〈豆知識〉

「ささくれ」は関西では「さかむけ」というそうです。

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ささくれが出来た 蔵樹紗和 @kuraki_sawa

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