KAC20244 ささくれるとき、それは目を間違えている
久遠 れんり
先人の言葉
「馬鹿野郎。カンナは木の目に沿って掛けるんだ。逆にするからささくれる」
「目ってどっちからどっちだよ」
「自分で覚えろ」
木の板には、木表と木裏がある。
表は樹皮側。裏は木の心の方。
そして反る方向は表に向かって反る。
だから床を張るときには、裏が表面にくるように貼ると良い。
何でこんな事をしているのか?
一度床を剥いだから。
様々な物には流れがある、だけど僕は逆らった。
「おいお前、首だ」
上司の言葉に驚く。
「どうしてですか?」
「これだよこれ」
ぴらぴらと、契約書が目の前で振られる。
「ああ。それ先日の取引。冷間圧延高張力鋼板でしたよね」
「おっ知っていたのか、それなら都合が良い。これお前がとりまとめたことにしろ。印鑑削って押し直せ」
「いやそんなことを言っても、向こうさんにも控えが有るでしょう」
「ごちゃごちゃなる前に、お前を首にすれば済むんだよ」
「何があったんですか?」
「種類が違う。尻にYが付くんだよ」
「ああ」
「ああ、じゃねえよ印鑑を出せ」
「いやです」
言い合っていると、部長がやって来た。
「どうしたんだね?」
「いえなにも」
課長は、そう答えると、すぐに自分の席へ戻っていった。
だけど帰りにも、しつこく言ってくる。
「いい加減にしてください」
つい突き飛ばしてしまった。
丁度後頭部を、転がっていたブロックの角でぶつけたようで、意識が無くなったようだ。
そこで放っておけば良かったのに、何か痙攣を始めた課長をブルーシートに包み、 おれは知っている山へと向かった。
確認をすると、呼吸は止まっていた。
「やっぱり。あの痙攣やばそうだったもんな」
そうぼやくと、小屋へ入り床を剥がす。
そうしてその下を、おおよそ二メートルくらい。一晩掛けて掘っていく。
その中に、課長だった物を投げ込み。埋めていく。
ざっと床を張り直す。
だが割れはあるし、何かした痕跡が残っている。
「上からフローリング材でも貼るか」
そうして上に箱を置いて誤魔化し、週末に作業することに決めた。
ああ。埋めた翌日。課長が来ないなと言って、大騒ぎになったが、向こうの会社から、問い合わせが来て、それどころではなくなった。
「彼はミスって逃げたな」
そうして、まあ、なんかごまかせた?
そうして、失踪したが、警察に失踪届を出して終わったようだ。
課長はあの日、帰宅になっていなかった。
丁度机の上に契約書も出ていたし、ミスに気が付いたのではないかと。
たまたま、俺が帰宅のタイムカードを押した後、課長が走り出てきたが、会社の外へ出たことはわかっている。
監視カメラに写っていたからね。
うちの社員駐車場は少し離れた所に有り、一度外へ出なければいけない。
駐車場には、カメラがなかったようだ。
「流れに逆らったのか、それとも流れに乗ったのか? その判断は未だに難しいなぁ」
うちの親父が残した資材小屋を、この週末も修理する。
KAC20244 ささくれるとき、それは目を間違えている 久遠 れんり @recmiya
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
同じコレクションの次の小説
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます