KAC20244 ささやかな仕返し

久遠 れんり

ささやかな仕返し

 最近は情報を曝すと捕まってしまう。

 だから無い知恵を絞って考えた。


 まるで時限爆弾のような仕掛け。

 彼女が、僕の名前を消せばそれは花開く。




 昨日までは。いや今朝までは、普通の何も知らないカップルだった。


 夕方に、今日ちょっと用事があるから遅くなる。

 同棲をしている彼女からの通知。


 仕事が終わり、家へ先に帰る。

 彼女が遅いのは大抵週末。木曜とか金曜日。

 週の締めがいるように、決まりが変わったらしい。

「そうなんだ、大変だね」


 そう言ったのが、たしか、ゴールデンウィーク明けくらいだったろうか?

 ゴールデンウィークの後半、彼女は大学時代の友人から連絡が入って旅行へ行った。

 そこから、妙に優しくなったり、機嫌が悪くなったり少しおかしくなった。

 ずっとスマホをみているのは前からだけど、その頻度は増えた。



 だけど、仕事のことだったり、体調だったり色々あるのだろうと気にしていなかった。いや彼女のことをみていなかった。


 夜半に帰ってきた彼女はご機嫌で、酒の匂いをさせながら甘えてくる。

 お土産にドーナッツを買ってきていた。


 だけど、珍しく彼女からエッチの誘い。


 軽くキス。

 その時に酒と違和感。

 この匂いは男の。

 僕は気が付いた。


 僕の服を脱がし、自分も脱ぎ掛かったところで、彼女は寝てしまった。

 気になるので脱がす。

 到る所にある赤くなった後。


 あー。キスマーク。最近するときも、暗くしてと頑なに言っていたのは、こういう訳か。

「まさかとは思うが」

 急にしたがるのが気になった。

 そう思ったら、そうか、故意か失敗か、彼女からしみ出してくる、他の男の印。


「なるほどね」

 そしてこの意識の飛び方と、甘い吐息。なんか薬かな?


 彼女の心配よりも、出来た場合。托卵しようという見え見えの行動。

 危なくこのグチャグチャの、気持ち悪いものと、するところだった。


 急激に気持ちが冷めていく。


 彼女のスマホをみる。

 パスワードはいくつかの候補を入れる。


 三つめの候補。彼女の実家で使われている電話番号。

 写真のライブラリや、ダウンロードフォルダ。

 一応全部コピーする。


 ゴールデンウィークは、友人と一緒に旅行とは言ったが男か。

 一応別カップルも一緒のようだが、乱交なんだね。


 通信アプリをみてみると、こいつか。

 ピン留めをしてある。

 大学のサークル。

 ふーん、テニスとは聞いたが、やり系だったのか。

 彼女のことを、本当に知らなかったことを実感する、心はささくれ、胃は痛く吐き気までしてきた。

 そう言えば、さっきのキス。


 匂いの原因は、男の物を飲んだのだろう。

 トイレに走る。


 長くトイレに籠もっていたが、彼女はまだ泥のように眠っている。


 少し調べながら、実行アプリを作り、住所録を検索する。そして僕の名前が消えたらあるファイルを起動させる。仕事が終われば、スクリプトファイルは削除。起動時自動実行バッチも停止する。


 写真も何もかも、つぶやいて曝して貰おう。


 そして手紙を書く。

『梨香へ。君の話は理解した。君が言うとおり別れよう。その優とかいう奴と幸せになるが良い』


 きっと彼女は、朝手紙を見て、帰ってきて何を言ったのか、パニックを起こすだろう。


 僕に連絡を取るか切り捨てるか。

 まあ、どっちでも良いか。


 小物を集め、朝までに荷物をまとめる。

 大中スーツケース二つ。


 ベッドはもう使う気は無いし、あれ? 荷物もほとんど無いや。


 ノーパソは、僕のだから持っていく。


 手紙に『残っている荷物は捨ててくれ』と追記をする。


 そして、以外と遅く、三週間後。

 サークルでやっていたパーティの内容を彼女は暴露した。

「意外と遅かったな」

 薬が絡んでいるからな。どうなるか。


 僕は、連絡先から彼女の名前を削除した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

KAC20244 ささやかな仕返し 久遠 れんり @recmiya

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ