君たちは「ささくれ」を知っているか

たてごと♪

君たちは「ささくれ」を知っているか

 こんにちは、たてごと♪ です。

 小説書くのに何から手を付けたらいいかわからない人は、とりあえず敵のやられ役に名前を付けるところから始めればいい、それにはムカツク知り合いの名前とかどうだい。


 ……はい(

 さて、〝KAC20244〟こと『カクヨム・アニバーサリー・チャンピオンシップ2024』の第4回では、お題に「ささくれ」というものが出されました。

 ところがこの「ささくれ」、一般的に遣われてるにもかかわらず、どういうものなのかが意外ときちんと認識されてないことばの代表でもあるんじゃないかな、と。

 そこらへん、ちょっと見ていこうかと思います。



     †



 まずこの「ささくれ」で『Googleグークルけんさく』しますと、真っ先にこの説明が出てくると思うんですが。


  ◦ 〝ささくれとは、指やつめの周辺の皮膚が乾燥して、皮膚がめくれ上がってしまう状態を指します〟


 これが行きなりで。

 いや一応、〈指のつめもとの皮が細かくめくれ上がるしょうじょう〉も「ささくれ」のうちに含みはするんですが、このしょうじょうは厳密には「さかけ」ってうものでして。

 じゃあ「ささくれ」はそもそもどういう意味なのかって言うと、


  ◦ 〈面が細かく裂けてけばっている状態〉


を指すことばなんですね。

 たとえば木材には、木目というものがあって。

 それをさかかんなけしてしまうと、木目が細かくめくれ上がって、ザラザラなひどい仕上がりになってしまう。

 そういうけばちが、「ささくれ」って呼ばれたのか本来なんですね。

 「さかけ」はつまり〈何らかの理由により指のつめ周辺の皮膚がささくれになった状態〉だから、まあ状態だけを指すなら確かに「ささくれ」とえもするだろう、ってだけの話だったわけです。


 いやあれ、ぼくってどういうわけか、家屋建築のお手伝いもやってた時期があるんですが(

 その現場でガッツリと、意思つうが発生していた事例を見てしまいまして。

 〝ささくれ(のトゲ)に気をつけろ〟って言われたのを「さかけ」と勘違いした新人が、何のことかわからないまま不用意に木材にわって指にトゲが刺さった、なんて間抜けな事故が本当にあったんですよ。

 そんなわけで、そういうことばの混同は少しずつでも、減らしていったほうがよろしいかとおもいます、


 あ、一応。

 ほかの〝KAC20244〟の作品では、「ささくれ」を〈心情的なすさみやつかえ〉と解釈して物語が展開されているものが、多くみられますけれども。

 これは表現としては至極真っ当ですから、まったく問題ないと思いますよ。

 むしろ「さかけ」だったほうが意味不明……いやそんなお題は出たりしないか(



     †



 そして「ささくれ」と、通常ひらがなで表記される、このことば

 質問サイトとか見て回っても、〝漢字表記はありますか〟という質問に対して〝漢字表記はありません、ひらがなで書くべきです〟と回答されるのが通例ですが。

 これもまた、「詰まんないこと言うなあ」と。


 そもそも、「日本語における漢字表記」とはどういうものかと考えると、


  ◦ もともと文字の存在しなかった「やまとことば」に対して、意味の相当する漢字を()当てめたもの


であるはずで。

 かつ、「訓読みの生成作業について、終了宣言はまだ出されていない」わけですから、つまり日本語はまだまだ発展途上なのであって、完成したものではないんですよ。

 だから、たとえ従来できまった漢字表記が無かったとしても、それはわけです。

 それが受け入れられるかどうか、という別の話がまた有るにしても、新たな表記の提案なんて、いくらでもしていいはず。

 少なくとも、、違いましたでしょうかね。


 じゃあこの「ささくれ」、漢字を当てるとしたなら、どういう表記が適切か。

 ぼくが思うに、これは


  ◦ 「さくれ」


でいいんじゃないすかね。

 まず「」については説明不要かもしれませんが、これは〈規模や程度が小さいこと〉を示す接頭辞で、たとえば「」「なみ」のように、すでに一般に通用しているもの。

 そして「さくれ」ですが、これは〈なかくぼみで先が突き出ているさま〉という意味のことば「しゃくれ」の、音便変化前の原型ととらえることができます。

 その漢字表記としては「しゃくれ」がすでに有りますが、〔決〕は〈水によって崩されること〉を意味する漢字。

 単に〈物質的に削ぎ取られること〉を指す場合には、〔抉〕がいちばん適切だという事になります。

 で、しめて〈小規模にしゃくれているさま〉を「さくれ」とう、これで意味的に相当すると考えていいんじゃないでしょうか。


 そんな感じに考えて、漢字表記を選んでみたわけですが、ではさてどうでしょう。


  ◦ 「ささくれ」

  ◦ 「さくれ」


 どちらの表記が「理解しやすい」ですか。

 ぼくは断然、後者だと思います。

 だって、前者の場合だとことば自体に、意味を解釈する手掛かりが全然無いじゃないですか。

 「さかけ」限定のことばだって誤解されるのだって、ズバリそのせいでしょう。

 〝ひらがなで書くべきです〟みたいな、従来のり方にこだわりすぎるとやっぱり、そういう「詰まんない」結果になっちゃうんじゃないですかね。

 だから「詰まんないこと言うなあ」になるんですね、ぼくからしてみたら。



     †



 ところで語学者をはじめ、多くの専門家たちは物事を、あまり断定的に言いません。

 何らかの可能性をつぶすことを、とことんきらうからです。


 しかしやっかいな事に、人ってあまり断定的でない物言いをされると、しんぴょう性の薄い、取るに足らない事のように感じてしまうもので。

 だから、あえて強い口調で断定的にものを言う、という手法がしばしば取られますし、ぼくにもそうする場合が多々あって、聞くぶんにもその方がラクだったりします。

 とはいえ、得てして断定とは、思考を放棄させてしまうものでもありまして。

 だれかが言ったことを頭から信じ込んでしまうと、あとになって問題が起きてから、だれのせいだっていう責任のなすりつけ合いにもなったりするでしょうし。

 それは本当に「詰まんない」ことでしょう。


 自分の考えはちゃんと持っていたい。

 少なくともぼくは、そう思います。



゠了゠

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