第3話 始動

「じゃあ早速、聞きたいことがあるんだけど、クラスの中心人物とか教えてくれないかな?」


 カイトと共に行動することが決まった直後、僕はカイトにこう頼んだ。

 

「別に構わないが、どうしてだ?」


 不思議そうに問いかけてくるカイトに、僕はこう返した。


「にゃはは。だってこう言うのって、クラスで強い影響力を持つ人が活躍するってのが定番じゃん。」

 

「そう言うものなのか?

 …よくわからんが、とりあえず話していくぞ。

 まず、クラスの中心人物と言って一番に挙げられるのは夏樹 翼(ナツキ・ツバサ)だな。文武両道で人当たりもよく、男女問わずかなりの人気と信頼を得ている。

 …ほら、あの灰色の髪で優しげな顔つきをした男だ。」


 僕が「誰のことだろう」といった顔つきをしていると、カイトはざっくりとした特徴を教えてくれた。


「なるほど。確かにちょって目立ってたね〜。」


「ついでに言うと、夏樹のそばにいた二人は剛田 哲(ゴウダ・テツ)と、清瀬 陽永(キヨセ・ハルナ)だ。どっちも夏樹の幼なじみならしい。」


 そして、カイトはそばにあったベットに腰掛けると、続けて他の人物達について話し始めた。


「次点で挙げるとすれば、柳瀬(ヤナセ)姉妹だろうな。クラスの一部の女子達は彼女達がまとめている。姉の名前は柳瀬 蒼唯(ヤナセ・アオイ)で、あの金髪に長髪の目立った奴だ。そんで妹は柳瀬 智准(ヤナセ・チカ)だな。こっちは姉とは対照的に地味な姿をしている。」


「あ〜、なんかそんな人達いたな〜。他にはいる?」


 「あとはまあ、宮下 龍太(ミヤシタ・リョウタ)くらいだな。こっちは一部の荒っぽい男子達をまとめている。」


「あ!あの黒髪で目つきの鋭い人ね。あの人はそれなりに目立ってたから覚えてるよ。

 …ええと、ちなみにだけど、他に誰か気になる人とかはいない?」


 カイトのおかげである程度クラスの内訳はつかめた。でも、なんとなくカイトの言う人物だけでは物足りなく感じて、おもわずそう聞き返してしまった。


「気になる人?そうだな...。強いて言うなら、月波 朔夜(ツキナミ・サクヤ)と戯道 柚花(ギドウ・ユカ)の二人は、個人的に少し気になっている。」


 すると、そんな答えが返ってきた。


「月波(ツキナミ)は俺と似たような一匹狼タイプだ、そんで戯道(ギドウ)は、、、なんというか、レイと少し似たような雰囲気を持つやつだ。」


「ふえ?僕と似たような?」


 なんとここで、予想外な答えが返ってきた。


「そうだ。と言っても、性格や見てくれが似ているわけではない。ただなんとなく、考え方なんかがお前と似たように感じただけだ。」


「へ〜。僕と似た、かあ。」


 僕はおもわず、そう呟いてしまった。

 すると、カイトは少し間を置いてから、


「聞きたいことは終わっただろうし、そろそろ部屋を出てくれないか?

 こっちで昼夜逆転の生活をしないためにも、俺はそろそろ寝たいんだが…。」


 と、制服のブレザーを脱ぎながら言ってきた。


「確かにそうだね。僕もそろそろ寝ないと。でも、なんで僕が出て行く必要があるの?」


「…まさか、この部屋で寝るつもりか?」


 カイトは額を手で抑えながら当たり前のことを聞いてきた。


「そうだけど?」


 僕が間髪入れず答えると、カイトは「マジか。」と呟いた後、


「見てわかるが、この部屋にはベットが一つしかない。

 つまり、お前は床で寝ることになるわけだが、それでもいいのか?」


 と言ってきた。流石にその提案を受けるわけにはいかないので、僕は言い返した。


「え〜。一緒に寝ればいいじゃん。男同士なんだし、そんな気にする必要なくない?」


「却下だ。このベットは、一人用の中でもかなり小さい方だ。二人並んで寝れば、全くリラックスできないだろう。」


「…なら仕方ない。わかったよ。」


      ※


 数分後、僕は彼の部屋に戻ってきていた。


「空いてる部屋がなかった…。」


 そう、みんな自分だけの部屋が欲しくなったのか、既にこの廊下の部屋は埋まってしまっていた。

 ここから離れた所にも部屋はあるだろうが、当然そんなところに行くわけには行かない。


「…なら、レイは床で寝てくれ。」


「え~、そっちだけベットで寝れるのずるくない?」


「何を言ってる?だいたい―」


 …いろいろあった結果、僕らは二人並んで床で寝ることになった。


      ※


「みんな、おはよう。調子はどうかな?」


 ジオは明るい声で、僕達に話しかけた。


 僕達は椅子が沢山ならんだ大きな机に座っている。

 ドアも厳重に閉められていることから、ここは恐らく会議室なのだろう。


 さかのぼること20分前、僕らは城にいる世話係のような人達にドア越しに起こされた。そして10分ほどで身支度を済ますよう言われた後、この部屋まで案内されることとなった。(身支度の過程で服もこちらの世界のものになった)

 

 そして現在、長い机の前に立ったジオが様々なことについて話そうとしているわけだ。


「いきなりで申し訳ないんだけど、俺にみんなの名前を教えてくれないかな?

 もちろん、名のりたくない人は無理に答える必要ないよ。」


「わかりました。俺の名前は、夏樹 翼(ナツキ・ツバサ)です。」


 夏樹のその言葉を皮切りに、何人かの人物が名前だけの簡単な自己紹介を行なった。


「みんな、ありがとう。じゃあ早速だけど、僕からこの世界について詳しく説明させてくれないかな?」


「お願いします。」


 皆を代表するように、夏樹が答えた。そして当然、僕を含め誰も反対する者はいない。


「じゃあまず、この国の現状を説明させてくれ。」


 ジオの言ったことを要約すると、こんなところだ。


 曰く、このカベア王国は魔王軍と対立し、ことあるごとに争っているらしい。


 そしてその他にも、王国の失脚を狙う南の連合国や、実力至上主義で粗暴な西の帝国など、様々な国際問題も抱えているとのことだ。


 「そうした問題を解決するために必要なのが、高い実力を持った戦士たちだ。」


 ジオはそう言った。


 なんでも、こちらの世界ではたった1人の戦士によって戦況が左右されることもあるらしい。

 

 そのため、100の雑兵よりも1の強者を重視するそうだ。


「そして、戦闘で最も用いられている手段は、『魔法』なんだ。

 魔法は、2種類に分けられる。常人でも扱える『属性魔法』と、限られた者だけが扱える『固有魔法』だ。


 そして、君たち異世界の住人は『固有魔法』を扱えるようになるんだ。」


 ジオのその言葉に、クラスメイト達は動揺し、ザワザワと話しだした。


「ジオさん?俺達はま―」


「あのー、そう言われても、ウチらは魔法なんて全く使えそうにないんですけど…。」


 夏樹の言葉を遮るように、その言葉は放たれた。 


「誤解をまねく言い回しをしてすまない。君たち魔法を使えるようになるのは魔晶石を取り込んでからだ。ええと、君の名前は…?」


「柳瀬 蒼唯(ヤナセ・アオイ)です。それで、魔晶石ってなんなんですか?」


 彼女は短く答え、ジオに続きを促した。


「あああ、魔晶石とは、魔力を持たない者に魔力を与える物質だ。そして、それにより魔力を得たものは、その者独自の固有魔法を扱えるようになる。」


「なるほどー。それでいつその魔晶石(?)ってやつをくれるんです?」


「…俺の話を最後まで聞いてもらってからにするつもりだったけど、今すぐ渡したほうが良さそうだね。」


 ジオは苦笑いしながらそう答えると、ジオの後ろの机に置かれていた透明な1㎤程の石を、俺達に一つずつ手渡した。


「みんなに今渡したのが魔晶石だ。それを取り込む、いや、飲み込めば魔力を得ることができる。もちろん、体に害はないから安心して。」


 最初はみんな固まっていたが、ある人物がそれを躊躇なく飲み込んだことで、みんなも飲み込み始めた。


 しかし、クラスの半数ほどがそれを飲み込んだところで、こんな声が響いた。


「やっぱり、無理です!

 私は戦争なんかに巻き込まれたくありません!」


 そして、何人もの生徒がそれに同調し始めた。

 そして抗議の声がどんどんと大きくなり、次第に「元の世界に返せ」や「そもそも未成年を巻き込むなんてどうかしてる」といった声まで上がってきた。


「うるせーな。さっさと飲み込めよ。話が進まねーだろ。」

 熱くなった鉄に冷水をかけるかのように、そんな声が響いた。


「…おい、宮下。そんな言い方はないだろ。彼女達の言い分も最もだ。」


 夏樹は立ち上がると、宮下を非難した。


「だからって、喚いてりゃどうにかなんのか?ここで魔晶石を飲み込んで、そっから詳しい話を聞いたうえで帰る道を模索するのが最善手だろ。

 それとも、喚いてりゃてめえが元の世界に帰してくれんのか、夏樹ぃ。」

 

「俺は、そういう話をしているんじゃない。もっと、彼女達の意見も尊重した―」


「じゃあ今はどうゆう話をするべきなんだ?それから、俺は喚いてる奴だけに言ってるわけじゃねーぞ。そこで自分は関係ありませんって顔してる坂崎、お前もだ。」


 そう、どうゆうわけか僕の隣に座っているカイトも魔晶石を飲み込んでいないのだ。


「俺はあいつらとは少し違う。この石が本当に体に害がないのかわからないため、飲み込むことに抵抗があっただけだ。小さいとはいえ、見た目も少しあれだしな…。」


「だから、魔晶石に害なんて―」


 ジオが反論するよりも早く、ため息とともに椅子から立ち上がる音がした。


 だが、それはカイトのものではなかった。


「この城から出ていってもいいか?不毛な争いに付き合わされるのがバカらしくなってきた。…他の国で静かに暮らすのも悪くなさそうだしな。」


 そう言って部屋から出ようとしたのは、真っ先に魔晶石を飲み込んだ虎月 朔夜(イタツキ・サクヤ)だった。


「は?あんた、マジで言ってんの?バカなの?」


 比較的近くに座っていた柳瀬(ヤナセ)の言葉に「本気に決まっているだろ。」とだけ返すと、そのままドアの方に向かっていった。


「みんな、ごめん!俺達の認識が間違っていた!

 戦闘に関わりたくない人は、魔晶石を飲み込まないでいいから、ひとまず僕の提案を聞いてくれないか?」


 ジオの提案は、とても簡単なものだ。


 魔晶石を飲んで、なおかつジオ達に協力する気があるものは、毎日城の中庭で訓練を受けてもらうとともの、最高級のもてなしを保証する。


 協力する気のないものは、城内で生活してもらう。

 そして、僕達、あるいは全く関係ない誰かが魔王を倒したら、その時点で僕達を元の世界に戻す。


 また、国王に聞いたところ、魔王の心臓さえあればいつでも僕達を元の世界に帰せるそうだ。


 その提案を聞いたクラスメイト達から、強い批判の声は挙がらなかった。


「じゃあ、国王様達に相談してくるから、少しその部屋で話し合ってて。」


 そう言うと、ジオは部屋を出ていった。


 そして30分後、ジオが国王達から了承を得て戻ってきたことで、僕達はジオの提案通りに暮らすこととなった。


 余談だが、その頃にはカイト含めクラスの3分の2ほどの生徒が魔晶石を飲み込んでいた。

(カイトはここで飲み込まないことのデメリットの方が大きいと判断したらしい)


「じゃあ、俺達に協力してくれる人は俺に着いてきて。そうでない人は、俺の後に来る人に着いていって。」


 僕とカイト、そしてその他の大勢の人は、ジオに着いていった。

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