第2話 最初の嘘

 突然、世界が眩い光に包まれたかのように感じた。


 それは、俺−坂崎 快音(ソノザキ・カイト)がいつものように高校の教室で授業を受けていた時のことだった。


 そして、次に視界が開けた時には、俺たちの目の前にはみたこともないような光景が広がっていた。


 俺たちは縦100メートル、横50メートルほどの、広い空間にいた。


 そして、俺たちの前方約20メートルには赤を基調とした、豪華な模様のカーペットが敷かれており、その先には高い玉座と、そこに座る厳かな雰囲気の人物(とその付き人)がいた。


 また、俺たちの上の階はサッカーなどのスポーツの観戦席のような場所になっており、大勢の人物が俺たちのことを見下ろしていた。


 その他にも、10メートルほど頭上に巨大なシャンデリラがいくつもあったり、壁に高級そうな絵が飾ってあったりと、まるで西洋の世界の城の中にいるかのような気分だった。


 俺たちが事態を飲み込めないまま固まっていると、王(?)の隣に立っていた目つきの鋭い、まさに老執事という言葉の似合う男が口を開いてこう言った。


「貴殿たちは、かつての勇者達にかわり我らカベア王国を救うためにわれらによって召喚されたのだ。一刻も早く、その手腕を振るって欲しい。」


 当然そんなことを言われても、状況を飲み込むどころか、声を発することすらできずにいた。


 しかし、すぐさま俺達の後ろから、慌てたような声が聞こえてきた。


「セルブス殿、どう考えても先ほどの発言は失礼にあたります。

 私達はことを頼む立場なのですから、丁寧かつわかりやすく説明すべきです。」


 その言葉が発せられた方を振り返ってみると、少し怒気を孕んだ顔をした茶髪の青年が立っていた。


 しかし驚いたことに、その青年は鎧を纏い、右腰に剣を、左手に盾をつけている。


 俺達はそのことに驚き、何人かはここで初めて声を発した。といっても、未だまともな会話はできそうにもないが。


 そんな俺達のことを慮ってか、その青年は続けてこう発した。


「みんな、驚かせてしまって本当にすまない。混乱しているだろうから、今から俺達と君達の状況だけ説明させてくれないか?」


 そして、俺達の奥の玉座に座る人物を見て、

「国王、私に説明させてもらってもよろしいでしょうか。」


「ええ、構いません。本来あなたは護衛役でしたが、このままセルブスに任せることには不安が残りますので。」


 と、俺達に話す許可を得た。


 そして、俺達の方に向き直ると、説明を始めた。


「ええと、ではまず、自己紹介からさせてもらおう。俺の名前はジオ・べレイド。王国特別騎士隊の2番隊隊長をやっているものだ。まあ、今は俺の肩書きを覚える必要なんて全くない。


 それで、俺達の国の状況、いや歴史から説明させてもらうが、『我らが国は災厄に包まれていた。しかし約1000年前、5人の異界の英雄によって災厄は滅ぼされ、ここ現在は闇無き世界が広がっている』という言い伝えが古くから存在する。


 だが、ここ数年に魔物と呼ばれる今まで確認されていなかった生物や、魔族という人間と似た姿を持つ悪意の塊のような種族、そしてそれらを束ねる魔王が現れてしまった。


 だから、その異形の化け物達を伝説の英雄のように退治してもらうため、君達を

召喚したんだ。どのようにして戦えばいいのかや、普段はどう行動して欲しいのかは後ほど説明させてもらえると助かる。


 もちろん、タダでやって貰おうなんて思っちゃいない。それ相応のもてなしをさせてもらうつもりだし、魔王を倒した後は自由にしてもらっていい。」


 茶髪の青年ーもといジオは、そう説明した。

 すると、

「あの、一番大事なことを聞いてないんですが、俺達は元の世界に戻れるんですか。というか、どうやって俺たちは連れてこられたんですか。」


 とクラスの中心人物の夏樹 翼(ナツキ・ツバサ)が、皆を代表するようにジオに問いかけた。


 だが、その返事は良いものではなかった。

「…すまない。それは俺にも知らされてないんだ。そのことに関しては国王様達以外わからない。だが、国王様は魔王を討伐さえすれば元の世界に戻れるとはおっしゃっていた。詳しい原理は定かではないが…。」


 俺はその返答に少なくない不信感を持った。恐らく、皆もそうだろう。


 「ひとまず、今日はもう夜遅いから、こちらで用意した城の部屋で休んでくれ。

難しい話は明日にしよう。」


 空気が悪くなることを察してか、ジオはそう言い、俺達を城の部屋へ案内しようとしてきた。


 というか、こっちの世界ではもう夜だったのか。


「では国王、私は彼らを案内してきます。」

 そうして、ジオは俺達は先導した。

  

 ジオは俺達を先導する際いに、城の様々な場所を案内してくれた。


 ようやく事態を飲み込めたのか、ジオが先導している間、驚いたことに俺の周りからはいくつもの楽しそうな話し声が聞こえた。


 恐らく、この異常事態に対して、恐怖心や警戒心よりも好奇心の方が上回ったのだろう。


 その声の数は、そうでない真剣な話し声よりも多く聞こえた。


 「部屋はたくさんの種類のものがいくつもあるから、自由に選んでくれ。もちろん複数人で一つの部屋を使っても構わない。」


 数分ほど歩いた後、ジオはたくさんのドアが付いた長い廊下(もちろんドアは全て開いている)で、俺達の方を振り返ってそう言った。

 

 そうして、俺のクラスメイト達はいくつかのグループに分かれ、様々なことを話しながら部屋に入って行った。


 そして、俺もそこまで大きくない一つの部屋に入った。

 …当然ながら、俺と同じ部屋に入ろうとするものはいない。


 俺は、比較的質素な、置かれているものの少ない部屋を選んだ。


「やはり、これくらいの部屋が一番落ち着くな。それで―」


 俺は振り返って、こう言った。


「お前は勝手に部屋に入ってきて、何をしている?」


「ねえ、こんな状況だし、手を組まない?」


 水色の髪をしたそいつは、笑いかけながらいきなりそんなことを言ってきた。


「ほら、僕は数日前に転向してきたばかりだったから、友達が全然いなんだよ。


なのに、周りは既にグループで固まってるじゃん?だから、僕と同じボッチの君に話しかけにきたんだよ。」


 正直に言って、この状況は全くもって予想しておらず、困惑してしまった。


 だが、少しだけ面白いとも思ってしまった。


      ※


「なるほど。状況は理解したが、お前と協力する必要性を感じないな。俺は一人でも充分やっていける。」


 彼―零司は、そう言って僕の誘いを断ってきた。


 でも、そんな簡単に諦める訳にはいかない。


「知ってる。噂で聞いたんだけど、君すごいんでしょ?剣術の名家の生まれな上、その中でも天才って言われてるんだってねー。

 まあ、それが災いして周りから避けられてるみたいだけど…。」


「まあそうだな。それに俺も自己を高めるため、積極的に友人と関わろうとはしなかった。だが、俺は誰とも組む気はない。わかったら出てってくれ。」


 当然僕は、「はいそうですか」と部屋を出るわけにはいかない。


「そこをなんとか!それに、僕と組んだら少なからずメリットがあるよ!」


 僕は少し早口で、彼を説得した。


「自分で言うのもなんだけど、僕はかなり頭が良いからね。頭脳担当と荒事担当って感じで、上手くやっていけると思うな〜。

 

 それに君だって、ずっと一人でやっていくのは難しいだろうし、何より結構寂しいんじゃない?」


「確かに言ってることには一理あるが、お前の言うこと全てを鵜呑みにするわけにはいかないな。」


 やっぱりそう簡単にはいかないか〜。なんて思っていると、驚いたことに彼はこう続けて言ってきた。


「だが、俺が友人を欲しいと思っていたのもまた事実だ。なので今、お前の提案には前向きに考えている。」


「えっ。それはつまり、僕の提案を受け入れてくれるの?」

 と僕が聞き返すと、


「そうは言ってない。前向きに考えているだけだ。だから、一つだけ聞かせてくれ。 


 お前はなぜ俺と組みたいと思った?いくら俺個人の能力が優れていたとしても、もっと良い候補は他にも大勢いたはずだ。

 

 その答えが良いものだったら、お前と組んでやる。」


 ここで「一番信頼に足ると思った」とか、「一番広い視野を持っているように感じた」とか言って、信用を得るのは簡単だ。


 でも、きっとここでは正直に答えなければならないのだろう。

 だから、僕は着飾らずに答えることにした。


「勘かな。」


「…は?」


 すると、彼の困惑した声が返ってきた。


「にゃはは。だから、ただの勘だよ。それ以上でも以下でもない。だって、僕はクラスメイトの性格や能力値なんて全然知らないんだもん。

 …こんな理由じゃやっぱだめ?」


「…ふふっ。確かにお前の言う通りだな。」


 彼は笑いながらそう呟いた。


「あ!初めて笑ってくれたね〜。」


 そして、彼からこんな返事が返ってきた。


「一緒に行動したいなら好きにしろ。正直に答えてくれたのは確かだろうしな。」


「それって、手を組んでもいいってこと⁉︎」


 僕はおもわず、そう聞き返してしまった。


「どう受け取るかはお前に任せる。なにせ、俺は今回の状況をよく理解できていないから、何を目的として行動するか決めあぐねているからな。

 だから、しばらくの間は一緒に行動してもいい。それだけだ。」


 彼はわりとあっさりと手を組むことを受け入れてくれた。

 僕はそのことが嬉しくて、少し舞い上がってしまった。


「じゃあ、よろしくね!

 えっと、カイトって呼んでもいい?」


「ああ。確かお前は−」


「夜咲麗(ヨザキ・レイ)だよ!レイって呼んで〜。」


 彼−カイトは僕の言葉に「わかった。」と答え、続けて僕にこう言ってきた。


「これからよろしくな、レイ。」


      ※


 その数時間後、王城のとある一室にある少女の言葉が響いた。


「おっ。こんなところにいたんだぁ。隠し部屋を見つけちゃうなんて、やっぱあたしって勘いいなぁ。」


 すると、殺気だった声が返ってきた。


「貴様、なぜここにいる?」


 しかし、彼女はあっけらかんとした様子で話した。


「いやぁ、あたしって常に勝ち馬に乗りたいんですよぅ。だから、国王様たちに取り入って、あたしだけでも助かりたいなぁーって思ってぇ。

 あっ、申し遅れました!あたしの名前は戯道柚花(ギドウ・ユカ)っていいまぁす。それで、どうですか?スパイでもなんでもやりますよ?」

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