第18話 ~お邪魔物スライムの壁~

 引き戻しの転移罠の効果で、ローグさんの仲間たちがいるであろうダンジョンに引き戻された僕たちは、罠部屋から出たところの通路を塞ぐ、巨大なスライムに苦戦していた。


「スライムって単体でいると弱いけど、合体されるとめんどうだね」


 スライムには独自の生態があり、それは仲間と合体をすることでその身を大きく見せ、他生物を威嚇するというものである。

 この状態になったスライムはめんどうで、ただでさえ半透明な核は見つけにくいというのに、その核が合体した仲間の分だけ増えるので非常に倒しにくい。

 そして合体したスライムの核を一部破壊しても、他のスライムの自己修復能力で容易に復活するので、この状態になったスライムの対処が分からない冒険者たちは、かなり苦戦する魔物である。


「どうしましょうか……」


「ん~ローグは魔法とか使えるのかい?」


「火の系統なら中級までなら大抵使えます」


「火かぁ……つまり打つ手なしだ」


「中級でもかなり火力ありますよ?」


「通常魔物を燃やすと、高濃度の魔力を含んだ煙が発生するのは知っていますよね?」


「えぇ知っています。でもそれ……あ~」


「屋外でやるとその煙が風などで飛ばされて霧散するので特に害はないですけど、屋内でやってしまうと空気の通りが悪く風が起こりづらいので、煙がその場で停滞してしまうんです」


「確かにそうなったらその煙を吸い込んだりして魔力中毒になるから、アルテンさんは打つ手なしと言ったのですね。屋内で火魔法を使うことがあまりなかったので、すっかり頭から抜け落ちてました」


「今回の魔王大戦が始まるまでは、ほとんど全てのダンジョンが制覇されてたからね」


「魔王大戦時に初めて挑んだって人も、少なくはなかったでしょうね」


 と言うのも、最初にダンジョンを作ったのは魔王軍側で、人間の街に攻撃を仕掛ける前作ったりする仮拠点であった。

 そして仮拠点の侵入を防ぐのに長けている構造で最初の魔王大戦では人間側がかなり追い詰められた。

 その点を評価されて、人間側があとから模倣するようになったものである。

 基本的に魔王大戦などの戦時中でしか作成されないので、それらがない間ほとんど新しいダンジョンが作られることはない、なので100年ほど魔王大戦の期間が開いてしまうと、ローグさんが言ったように、大戦時に初めてダンジョンに挑むという人は少なくない。


「しかし既に魔王は死んでるんですよね?」


「多分死んでるよ」


「それなのにダンジョンに魔物たちが蠢いてるっておかしくないですか?」


「えーと……まずダンジョンには魔物たちが快適に過ごせるように、外から魔力を吸い込んで、ダンジョンに魔力を供給する装置があって、その装置を止めない限りは、たとえ魔王軍が滅びようと外から魔力を吸い込み続けてしまうんだ。」


「あれって説明だけ聞いたら、単調で作るのは簡単な装置に思えるんですけど、実際作ろうとすると、魔力を吸い取るという機構を作るのがとても難しいんですよ!」


「そうして地上は魔力が薄くなり、地上に住んでた魔物は魔力を求めてダンジョンへ入る。魔物は豊富な魔力があればなにかを食べる必要はないからそこに定住するから、別におかしな話じゃない」


「あの装置が発明されたことによって、魔物の魔力を吸い取って弱らせたあとに、捕獲するという魔道具が生まれたんですよ!」


「なるほど、しかし私の火魔法が使えないなら、どうやってこのスライムを倒すのですか?」


「幸い通路を塞いでいて、特段攻撃してくる様子はないけど、このままスライムが動かなかったら最終手段を使うしかないね」


「最終手段?アルテンさんなにか案があるんですか?」


「それは、もう一度転移罠に掛かってみるという案さ」


「なるほど、危険な賭けですがそれのランダム性を当てにして、スライムがいない通路を引き当てるということですか」


「そういうことさ」


「アルテンさん、スライムを動かせればいいんですよね?それならそんな危険な賭けをしなくても良い方法がありますよ」


「それはなんだい?」


「先程の話で、アルテンさんはダンジョンに魔物が棲みつく過程を説明してくれましたよね?」


「あぁ……つまりこの通路の魔力を無くすということかい?」


「その通り、この通路の魔力を枯渇させれば、きっと転移罠の部屋に入るはずです、あそこはこの通路よりは断然広いので、あのスライムが入って来たとしても横を通って通路に出られるはずということです」


「なるほど、確かにその方法は凄く良いですけど、どうやって魔力を枯渇させるんですか?」


「実は僕の馬車に積んである魔道具の中に、ダンジョンの魔力供給装置に影響を受けて作った、周囲の魔力を取り込んで、魔力回復の効果を持つポーションを作れるものがあって、それを使えば空気中の魔力を減らせると思うんですよ」


「そんなものがあるのですか」


「僕自身生まれつきほとんど魔力を持っていないのですが、周囲の魔力を取り込めれば、身体に魔力を蓄えれるのでは?と思い作ってみた物です。結局意味はなかったので売りに出す魔道具として馬車に積んでたんですよ」


「あぁそういえばエヴィーは魔力がないんだったよね」


「失礼ですがそんな人間いるんですか?」


「はい……全くないってことはないんですが、生活魔法が使えない程度に魔力がないです」


「すいません、そんな人間聞いたことなかったので」


「いいですよ、そういう質問をされるのは慣れているので」


「確かに生まれつき魔力が少ない人は結構いるけど、生活魔法が使えないほどってよっぽどだよね」


 生活魔法とは、その名の通り生活をする上で便利になる魔法で、例えばジェンブロン ドなどが挙げられる。

 実はジェンブロンドは省略詠唱の時の合体文字であり、省略せずに詠唱すると言葉が変わり、意味は優しく吹き荒れる風だそうだ。

 この魔法は髪の毛や身体、洗濯物を乾かす時や、掃除をする時に便利な生活魔法と言える。


 !


「では始めましょうか」


 僕たちは早速魔道具を通路に持って来て、策を実行する準備を進めていた。


「この魔道具を動かすためには水が必要で、この通路分のポーションを作るには大量の水が欲しいです。なのでこれから手分けして馬車から水を運び出しましょう」


 今回の旅は1カ月と聞いていたので、少し余裕を持って1カ月半を持って来ていたので、きっと通路の魔力を枯渇させるには十分すぎる量だと思う。

 使った水は魔力回復のポーションになってしまうが、水としては少し苦くなるだけで普通のとなんら変わりはないので、この策で水を全て変換しても大丈夫だろう。


「ふ~結構疲れますねこれ」


 やっと半分程度の水を通路に運び出したが、まだまだ半分は残っているという事実に絶望していると、アルテンさんは全く平気な顔をして、両手に水を抱えながら走って往復していた。


「アルテンさんは疲れないんですか?」


 アルテンさんだけで4分の2程度運び出していたので、流石に心配になってきてそう声を掛けた。


「そうかい?君たち二人が異様に疲れているだけじゃないのかな?」


 そう返されたので、もはや呆れてローグさんと運んだ水を飲んで休憩していた。


「ただ休憩しているのもなんですから、今の内に少しでも通路の魔力を減らしておきましょう」


 ローグさんの提案によって、僕たちはアルテンさんが水を運んでいるのを横目に見ながら、魔水変換器(仮称)に水をセットしては変換してを繰り返して魔力を減らし始めた。

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