第13話 「トイレの花子さん」④
急に駆け出して行ってしまった川崎さんの背中を見送って、面倒だという顔をしていた高崎さんは、やれやれというように大きな息を吐き出す。そして、
「思う所があるんでしょうよ。とりあえずは、健太くん? が言ってた、その――何だっけ?」
と、健太を見下ろして訊いてきた。「何だっけか?」
「あっ、はい」
『窓の外を見上げる少女』――? と健太が言うのを見て、高崎さんは小さく考える。僕やゆうりちゃん、それに健太を見て、
「それが気になったとは思えないんだよねぇ……?」
と、何となく困ったように笑う。「正確には何ていうの? その『空を見上げる少女』でいいの? ゆうりちゃんが言ってたけど」
「っは、はい、多分」
健太が頷く。あんまり自信なさそうな顔をして。
そうか――。
そう呟いた後、高崎さんはしばらく黙って、そのまま考え込んでいた。
僕らがどうしようかと、顔を見合わせていると、
「とりあえず、その場所に行ってみようか」
と、何とも言えない顔をしてそう言って、ヘラッと笑ったんだ。
「行ってみる? どこに?」
僕らが首を傾げると、高崎さんは道の向こう側を示した。そして、
「その、女の子がいたっていう家に」
と、アッサリと言ったんだ。どうしようと渋る僕らに「行かないと、さきちゃんの行方は分からないままだよ?」と屈み込みながら言う。
それは――、その通りだ。僕はさきちゃんが無事なのかどうなのか、それを知りたくて、これまで『学校の怪談』の話を聞いてきたんだ。
「――うん」
グッと手を握って頷く。
「――よし」
ホッとしたように高崎さんが頷いて「健太くん」と健太を呼ぶ。
「っはい!」
緊張した面持ちで返事をする健太に、高崎さんは小さく笑うと、
「――その、君が見たという少女の家に連れて行ってもらえないかな?」
と、軽く肩を竦めて言う。「あいつには分かってても、俺には分からないからね?」
「――っ、はい。分かりました」
健太は素直に頷いて「こっちです、確か」と先に立って歩き始める。
僕らは――、顔を見合わせ、こくりと小さく頷いてから、健太と高崎さんの後について歩き始めたのだった――。
そこに、何が待ち受けているかも知らないまま――。
学校の怪談~トイレの花子さんについての考察~ 黒河 かな @riguka_na
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