第12話 「トイレの花子さん」③


 その話に飲み込まれた僕らが、戸惑いながら高崎さんを見上げると、

 「その――、取り残された1人は、最初にドアをノックした女性教師――と言われている。彼女はその手に捉えられ、壁に吸い込まれるようにして消えてしまって、今も行方が分かっていないのだそうだよ」

と、肩を軽く竦める。


 結局――、トイレで死んでいた女の子の死因は分からず、原因不明ということになってしまったらしい。そしてそのトイレには『花子さん』が出るということと、入ると殺されるという噂が入り混じり、その学校はやがて生徒が減ってしまったこともあって閉校となり、校舎も――もちろんトイレも――取り壊されてしまったらしい。


 「その話を、誰かが広めたんじゃないかと、そういうことになっているようだよ」

 高崎さんは笑って言う。「都市伝説といえばそうなのかもしれないが、広域で言うと『学校の怪談』や『学園七不思議』にも分類されるんでしょうね」と、わずかに眉を顰める。


 「その――、出所がハッキリとしていなくてもか」

 川崎さんが、形のいい眉を顰めて訊く。「実際にあった話だと、そうお前は言っていたが、その出所は分かっていないんだろう?」と、高崎さんを見る。

 「まぁ、確かにそれはそうだが」

 高崎さんが、小さく首を傾げる。「――戦中戦後の話だ、今とは格段に発達度が違う。それを真に受けて、出所がどうのと言われても」と、川崎さんを見上げる。


 「まぁ、そうなんだろうが」

 川崎さんが、小さな溜息をついて言う。「しかし――」と言いかけて、ふと気付いたように健太を見た。

 「っな、何か?」

 その切れ長の――深い蒼色の瞳に見据えられたのか、健太が焦る。

 「君は、確か制服を着た少女を見た、と言っていたね?」

 川崎さんが、思い出したように訊く。「確か――、何だっけか」と、僕とゆうりちゃんを見る。


 「――そらを、みる、おんなのこ?」

 ゆうりちゃんが、一言ずつ区切りながら言う。「でも、お父さん」

 「――あれが、もしあれだとしたら」

 そう言うと、そのまま走り出してしまった。「和彦、子供達を頼む」と、高崎さんとすれ違いざまにそう言い残して。


 高崎さんは――、やれやれというように肩を竦め、それから、

 「後で、その家に行ってみよう」

と、僕らに目を向けて、柔らかく告げたのだった――。












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