製氷機のかき氷はささくれだっているのか?
アオヤ
第1話
私の家は天然氷を造る仕事をしている。
でも私が小さい頃、天然氷と普通の氷の味の違いが食べても分からなかった。
どちらもシロップをかけちゃえばシロップの味しかしない。
『氷なんて味がある訳じゃ無いから、かき氷はシロップの良し悪しで決まるものだ』
なんて子供の私は父や母のやっている仕事を理解しようともしなかった。
私が中学になってクラスメイトの沙也加に「ねぇ彩の家って天然氷造ってるの? 天然氷って美味しいよね〜、いいなぁ~」なんて言われた。
でも私は沙也加に「氷なんて天然だろうが製氷機で造ったモノだろうが一緒でしょ? 手間かけて造っても氷は氷だよね? 氷なんて脇役だよ」なんてささくれだった事を言ってしまった。
そんな私の言葉に沙也加は私の事を少し憐れむ様な表情で見た。
「彩は天然氷のかき氷食べた事がないの? 天然氷のかき氷は食べた時、キーンってならないの。口溶けだって滑らかだよね。そしてシロップと馴染み易すいから、美味しいシロップだとその美味しさが倍増されるのよ」
沙也加はたかが天然かき氷の事を想像してうっとりしている様だ。
そんな沙也加を見てると『違いが分からない私って実はおこちゃまなのか?』なんて思ってしまった。
「そんなに天然氷のかき氷が食べたければ今度家に来なよ。少しならあるからさ。でも三月の今よりは真夏の方が良くない?」
私は沙也加になぜ今かき氷なのか不思議に思って聞いてみた。
「この間、テレビで天然氷づくりを特集していたんだ。最近は暖冬の影響でとれる氷も減っているって…… それ見てたら急に食べて見たくなっちゃったんだ。」
沙也加の単純さは見ていて面白い。
……単純?
それって本当は純粋なんじゃないの?
その日私は沙也加を家に連れて帰ってかき氷を造ってあげた。
シャッシャッシャッって聞き慣れた軽快な音で氷は削られ皿にはかき氷の山が出来上がった。
シロップはイチゴのジャムにチョットだけ蜂蜜を加えてある我が家特製のシロップだ。
母はなぜか私の分も一緒につくってくれた。
……どうせ私なんか、かき氷の味なんか分からないのに。
そんな私の事なんか見ないふりしてるのか、沙也加は嬉しそうにかき氷を食べ始める。
「いただきます。う〜ん幸せ。やっぱり天然氷のかき氷は違うね」
どう違うんだよ?
私はそんな疑問を持ちながらかき氷を一口食べた。
私の口の中で氷がホロリと溶ける。
氷なんて何も味なんかしないはずなのに沙也加が言う様にシロップの味がユックリ口の中に拡がって美味しい。
イチゴの味の後に蜂蜜の香りがほんのり鼻に抜けて心地よかった。
なんで『かき氷は皆同じ』なんて思っていたんだろう?
訳わからずに涙がひと粒こぼれてきた。
「沙也加ありがとう。天然氷のかき氷、やっぱり美味しいね」
そんな事言う私を沙也加は不思議そうに見つめていた。
「当たり前じゃない。天然氷のかき氷は純粋な氷なの。まるで私みたいでしょ?」
急に意表を突く様な事言われて私はぷぅとふいてしまった。
でも、その言葉に小さく頷く。
「そうだね。沙也加も天然氷も純粋なんだね」
私達は一緒に笑った。
沙也加が帰った後に私はお母さんに話しかけてた。
「お母さん、『かき氷なんかどれも同じだ』なんて言ってゴメンね」
そう言う私に母は笑いながら「やっと天然氷の味が分かったんだね。沙也加ちゃんにはお礼を言わなくちゃね」なんて私の頭にポンポンと手を当てた。
子供っぽい事されてムッとした私は母のその手を掴んだらザラザラしていてササクレだらけだった。
「なんでこんな手に成ってるのに頑張れるの?」
そんな事を聞いてくる私に母は「みんなが美味しいって、笑顔になる姿を見たいからだよ」なんて事を当たり前の様に言う。
私は母のササクレだらけの手を誇りに思えた。
製氷機のかき氷はささくれだっているのか? アオヤ @aoyashou
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