祈り

明日乃たまご

神の託宣を!

「身体が乾燥してきた。ヒリヒリするよ」

 Bが全身をムズムズさせた。


「空は暗く大地も乾燥している。神の言葉を賜る季節だな」

 Aが立ち上がる。


「ヨッシ、五山で祈ろう。豊穣の泉を見られるかもしれない」

 Bが続いた。


 五山は大地の端、そこで大地が五つに別れていて、その突端で道が途切れている。誰もその先に行くことはできない。その突端で祈りを捧げると、時に大地が割れ、神の声を聞くことができるのだ。その時、赤い豊穣の泉を見たものは幸福になれるという。そんな伝説があった。


 Aは、数万にのぼる多くの仲間とともに、暗いトンネルの中を、ぞろぞろと五山を目指した。


 ほどなくトンネルを出た。ヒヤッとした空気に皆、背中を丸めた。そこから先、道は五つに別れている。


「ヨシ、では、ここで別れよう」


 Aは、B、C、D、Eをリーダーに指名した。


「他の者は誰でも良い。自分がついて行きたい者を選んでその後に続け!」


「オー!」

 仲間が五つに分かれていく。その様子は波打つように壮観だ。


 Aは中央の道を進んだ。その後に、やはり数万の仲間が付き従っている。皆、大地が裂けるさまを見、貴重な神の託宣を聞きたいのだ。それを見聞きすれば幸せになれるに違いない。


 道は平坦ではなかった。所々にうねるような隆起がある。それを上れば、次は降りなければならない。そんな隆起が気の遠くなるほど続いている。


 ひとつの隆起の上でAは足を止めて仲間に言った。


「あそこが突端だ」


 Aが差したところに巨大な硬質の岩があった。岩の先は断崖で、落ちたら生きては戻れないだろう。


 Aたちは岩の手前で足を止めると大地にひれ伏した。


 ――オー……――


 Aは祈った。一族の繁栄と幸福、そして、大地が裂けて豊穣の泉を拝めますようにと。きっと今頃は、別の四か所に向かった仲間も祈っているに違いない。


 どこか一カ所でも大地が割れてくれたなら、今年も良い年になるに違いない。加えて、赤い豊穣の泉が湧いたなら、きっと天にも上る気持ちになれるだろう。


 ――オー……――


 その時だ。大地が蠢いた。


 祈りが通じた!……Aたちは歓喜した。


 頭を上げると岩の右端の大地が割れていた。それが大きく隆起して天を突いている。


『クソッ!』


 頭の上から降り注いだのは神の声だった。


 神が隆起した大地を引きちぎるとそこに赤い泉が現れた。


「行くぞ! 豊穣の泉へ!」


 Aは立ち上がり赤い泉めがけて駆けた。


『どうかしたの?』


 女神の声がした。


だよ。消毒をくれ』


『ちぎらなきゃいいのに』


『引っかかると痛いだろう』


 Aが赤い泉に飛び込もうとした寸前、天から雨が降った。白くて冷たい、ヒリヒリする雨だった。


 Aとその仲間たちは天に召された。

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祈り 明日乃たまご @tamago-asuno

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