贈ります。

西奈 りゆ

「箱」

チャイムが鳴ったのと、紅茶の袋をカップから取り上げたのは、同時だった。

よく晴れた日曜日。紅茶を飲んで、散歩にでもいこうかと思っていた。


「はい」


「宅急便ですー」


モニターには、よく見かける宅急便のお兄さんが映っている。

帽子をいつも目深にかぶっているから、初めてドアを開けたときは、不審者かと思った。今では気が小さいんだろうなって、わかっているけど。


いつものように扉を開けると、「××様ですか。お届け物です」と、小さな声でうつむいて言う。私はもう慣れているけれど、他のところで大丈夫なのかな。


ハンコを押す。「お疲れ様です」と声をかけると、「っす」と、小さくお辞儀して戻っていった。けっこういかついのに、人は見かけによらないものだ。


届いたのは、中央がこんもり膨れた、レターパックだった。

差出人の欄には、出張中の夫の名前が書かれていた。

けれど送り先の住所は、他県の聞いたことがない場所だった。

なんだろう。お土産? 

たかが5日で帰るのに、わざわざ送らなくたって。

何が入ってるのか知らないけど、これじゃあ送料のほうが高いんじゃないかな。

ま。開けてみないと、何も分からないけどね。


ペーパーナイフで切り開くと、中身は小箱だった。

アンティーク?といえば聞こえはいいのだけれど、木製ということを除けば、

何の変哲もないただの箱。飾りのひとつもない。


いったい、何がしたいのかわからない。

とりあえず、開けてみる。箱の中身は、みっしりと詰まった綿わたと、指輪。

なのだけど。


(でもなあ・・・・・・)


「これは、余計だよねー」


鉄分不足なのか、いつもどこかの爪が割れている。

これは右側の爪が少し欠けた、薬指。ああ、あの人のだ。


破いたレターボックスの箱を捨てようとしたら、今度はひらりと紙が落ちた。


「お話したいことがあります。」


ボールペンの端正な筆致で、それだけ書いてあった。

連絡先なんて、もちろん書いていない。

ちょっと、マナーがなってないんじゃないかしら。


レターパックを持って、二階に上がる。

寝室。ベッド横の棚。上から、二段目の引き出し。

メモ、クリップ、ペン、去年のスケジュール帳、修正ペン、蛍光ペン・・・・・・。

夫の引き出し。色とりどりのペンに混じって、黒いペンが4本ある。

4本とも、黒いペン。けれど同じメーカーは、そのうちの3本。


私は1本のペンを手に取り、口づけるようにして話しかける。


「そこにいるんでしょう?」


最近の盗聴器は、巧妙化していて、発見するのは簡単じゃない。

有名なコンセント型、火災探知機型、USB型・・・・・・そして、ペン型。

私がこれに気づいたのだって、偶然に偶然が重なった結果だ。

SNSにはいろんな話題が、訊いてもいないのに流れてくる。

あとはちょっとだけ深掘りすれば、無限の闇が広がっている。


スマホでレターパックに書かれた住所を探すと、他県のホテルのサイトが映し出された。天然の温泉と、海鮮料理が自慢らしい。


(有給、使っちゃおうかな)


私は引き出しから赤ペンを取り出して、カレンダーに大きく丸を書いた。


※指の名前を、中指→ 薬指に訂正しました。

すみません、間違えました💦




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

贈ります。 西奈 りゆ @mizukase_riyu

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

同じコレクションの次の小説