自傷ヒーロー!ササクレンジャー【KAC20244】
長多 良
自傷ヒーロー!ササクレンジャー
彼の名は、自傷ヒーロー!ササクレンジャー。
自称ヒーローである。
ヒーロー制度やライセンスが有るわけではない。
だが、彼がヒーローであることを街の誰もが認めている。
彼の愛と自己犠牲はヒーローそのものだった。
「キャー!!!」
街に悲鳴が響き渡る。
悪の怪人、サメハダンディが現金輸送車を襲っている!
「待てぃ!!」
だがそこに、力強い声が響き渡る。
声の方向を見ると、一人の青年が立っていた。
ササクレンジャー・・・いや、今はまだ変身前のただの人間、
「悪は許さん!行くぞ!変・・・身・・・!」
「や、やめろ、やめるんだ!」
サメハダンディは変身する前から狼狽えている。
いや、サメハダンディだけではなく、街の人々も
「やめて!」「そんな事しなくていい!」「自分を大切にして!」
口々に
だが彼は変身を止めようとしない。
ビシッと左手を伸ばし、その指先に右手をゆっくりと近づける。
そして、左手の人差し指にあるささくれを、右手でつまむ!
彼は、ささくれを綺麗に剥ききった時に、無敵のヒーローに変身するのだ!
剥いてる途中で血が出たりしたら変身失敗だ!
爪切りで切るのもNG。あくまで自分の手で剝かないといけない!
彼は慎重にささくれを引っ張っていく・・・。
力の入れ具合、そして力の方向を少しでも間違えれば、
ささくれは肉を裂き、血が溢れてしまう。
正しく見極め、表皮だけをスルッと剥きぬくのだ・・・!
サメハダンディや街の人たちは、
自分がささくれを迂闊に引っ張って痛い目を見た時の事を思い出して、
見ているだけでゾワゾワとした気分になってしまっている。
止めたくても止められない。固唾をのんで見守るしかない・・・。
ささくれ剥きは佳境に入った。
あと少しで綺麗に剥ける・・・!
「!ぐあぁ!」
だがそこで一瞬の油断!
引っ張る力が強すぎて、剥けることなく、ささくれは彼の指を大きく引き裂いた!
観衆は大きなため息とともに身震いした。
サメハダンディも精神的ダメージを受けていたが、
悪の怪人として何とか立ち直った。
「残念だったな、変身失敗だ!」
だがヒーローは諦めない。
「まだだ!俺にはまだ、中指のささくれがある!」
彼の中指にはまた別のささくれがあった!
「な、なにぃ!」
サメハダンディが狼狽えている間に、
中指のささくれを剥き始めた。
そして・・・今度は綺麗に剥き切った!
「うおお!自傷ヒーロー!ササクレンジャー登場!」
変身・・・と言うか実は光っているだけだが、
彼は眩しいほどに光り輝いて、ポーズを決めている。
そしてグッと力を溜め・・・
「くらえ!必殺!ササクレインボーフラッシュ!!!」
「ぐわぁぁぁあああ!」
彼の体から発せられる光線でサメハダンディは消滅した。
そして力尽き光を失ったササクレンジャー・・・
「サメハダンディ・・・恐ろしい強敵だった・・・!」
「
そこに一人の美女が駆け寄る。
「キミは・・・
「もうやめて!こんな事を続けていたら、あなたの体は・・・
あなたの指先はボロボロになってしまう!」
「分かってくれ、潤。誰かが街の平和を守らないといけないんだ」
「でもあなた!いつでも変身できるようにって、
こんなにささくれを両手の指に貯めこむこと無いじゃない!」
「毎日率先して食器洗いや洗濯をして!
しかもお湯を使わず冷たい水で!
肌に合わない洗剤を素手で使って!
そんな事はもうやめて!」
「心配かけてすまない・・・だが・・・」
「あと手を洗った後にハンカチで拭かずに、手をパタパタ振って乾かすのは
手が荒れるだけじゃなくてマナー違反だからもうやめて!」
「すまない、だが・・・ささくれを作るために必要な事なんだ!
むっ!?」
そう言うと
「また助けを呼ぶ声が聞こえる!行ってくる!!」
彼は走り去っていく。
「待って!せめてこの、うるおいハンドクリームを寝る前に手に塗ってーー!」
彼女は叫ぶ。
だが、ヒーローは止まらない。
彼は自傷ヒーロー!ササクレンジャー。
今日も愛と平和を守るため、
ささくれを剥く!
了
自傷ヒーロー!ササクレンジャー【KAC20244】 長多 良 @nishimiyano
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