ささくれの罪、親不孝の罰
雨蕗空何(あまぶき・くうか)
ささくれの罪、親不孝の罰
指先のささくれは、親不孝の証なのだという。
私は親不孝なのだろうか。このささくれやすい両手の指は、親不孝に対する罰なのだろうか。
親の顔すら知らないのに。
それともそれこそが、罪なのだろうか。
「その指、痛そうだから。水仕事は、僕がやるよ」
美しい指ではなかった。
むしろ恥ずべきものだと思っていた。
ささくれだらけの荒れた指なんて。
「きれいだと……思うよ。きみの頑張りの証だと思う」
私の指に、彼の指が触れる。ためらいがちに。
彼の指は、けがれのない美しい指をしていた。
「最初に目を引いたのは、いい意味じゃなかったと思う。
すごいささくれだって思って。ひどく荒れてると思った。
それで、どうしてそんなに手が荒れてるんだろうと思って……きっとそれで、きみのことが気になって、ずっと見てたんだと思う」
彼の指が、冷たい水と泡にまみれる。私の指の身代わりに。
きれいな指が、皮脂を失って乾いていく。
そんなにしてもらったって、私の指は、ずっとささくれたまま。
「ずっと見ていた。きみは頑張っていて、こうしてずっと生きていて、僕と出会ってくれた。
きみは魅力的だ。僕が、そう思う」
指が、絡む。
私のささくれだらけの指に、彼の指が絡む。
美しかった彼の指には、ささくれができていた。
ささくれができた彼の指は、私の指と、よく似ていた。
「このささくれが治ろうと治るまいと、僕の気持ちは変わらないよ。
僕は……きみのことが、好きです」
私たちの人生が、存在が、絡む。
私は彼の指を見て、彼の顔を見て、彼の瞳を見た。
好きではなかった。こんな指。ささくれだらけの指。
けれどこのささくれだらけの指だったから、彼は私を目に留めて、こうして絡み合うようになった。
私たちは、よく似ていた。
つまりそれはやっぱり、罪の証。
ささくれの指は親不孝。
彼にとって私は、私にとって彼は、唯一無二の存在で、共犯者だった。
二人が血のつながった実のきょうだいだと知るのは、もう少し先の話。
ささくれの罪、親不孝の罰 雨蕗空何(あまぶき・くうか) @k_icker
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