あなたにとってこれは呪い

尾八原ジュージ

しょっぱいけどこれは呪い

 右手の小指に普段できないささくれができて、ああまたミコに呪われてるなとすぐに見当がつく。あたしは嬉々として呪い返しの儀式を始める。

 案の定次に会ったとき、ミコは顔中ニキビだらけになっている。

「ちょっと肌の調子悪くってさぁ」

 だって。あたしに呪いを返されたって、気づいているのかいないのか。

 大変だね〜とか言いながら、あたしは彼女に皮膚科を紹介してあげる。バンドエイドに隠したささくれのことで、いちいち文句を言ったりもしない。

 ミコは幼馴染で、昔からいやなことがあると、すぐあたしを呪って憂さ晴らしをしようとする。たぶんあたしのことが嫌いなんだろうけど、ほかに友だちがいないのでお茶に誘うとホイホイやってくるし、会ってる間だけは「あたしたち友だちだよね」みたいな顔をしている。

 可愛い。

「就活どう?」

 ミコがあたしに尋ねる。

「××社の二次通って、今度最終面接なんだ」

「へぇー! すごぉい」

 ミコのわかりやすいことったらない。グラスを持った手が震えているのが全然隠せていない。わかるよミコ、悔しいでしょ。××社、あんたが一次で落ちたとこだもんね。知ってて受けてるんだよ。もし最終受かったら一番に教えるね。

 たぶんミコは今日家に帰ってから、ささくれレベルの呪いをあたしにかける。あたしはそれを彼女に返して、ミコはちょっと重い怪我をする。こないだの突き指はまだテーピング巻いてるね。一番重かったのは首元の火傷かな? それたぶん手術とかしないと消えないよね。顔のニキビも痕が残りそう。

 あたしはミコに執着してる。同じ大学受けて同じゼミに入ってミコよりいい成績をとり、同じ会社受けてミコの好きな男に近づき、仲良くなれそうな子は遠ざけ、ミコがあたしにちょっとした呪いをかけるのを楽しみにしてる。

 いつか返せないくらいすごい呪いが飛んできたらどうしようって、時々考えるけどどうしてもやめられない。

 だからミコ、好きなだけあたしを呪うといいよ。

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