蛙の子は

葎屋敷

 あたしのゆびには、たくさんのささくれがある。

 なんこあるかなっておもうけど、きゅうよりおっきーかずはしらないの。


「あんた、そんなもん引っ張っちゃいなさい」


 って、おかーさんはいうよ。

 だから、ぴってするの。そうするとね、おもったより、かわがめくれるの。

 おかーさん、やっぱり、いたいいたい。


「そんなもの気にしなきゃいいのよ」


 って、あかーさんはいうよ。

 だから、いたくないっておもうの。でも、やっぱりいたいなぁ。




 おかーさんのてはきれい。

 おかあさんには、ささくれがない。おかーさんは、たくさんきれい。ゆびも、かおも、ふくもきれい。


「私なんて、ささくれだらけだよ」


 っておかーさんはいうけど、やっぱりおかーさんはきれいだよ。

 おかーさん、すぐうそいうの。



 きょうはおかーさんがいないひ。

 おかーさんがいないひは、いつくるかわからないの。でもたぶん、かえってこないから、きょうはそうなんだ。

 おかーさんがくれたごはん、おさらにのせてたべるよ。おにぎりおいしいね。

 おさらは、ちゃんとあらいます。あたし、いーこだからね。



 きょうもおかーさん、いないひだ。

 さいごのおかーさんへんだった。おこってて、かなしそうで、うれしそうだった。

 おかーさん、おなかすいたよ。おかーさん。


 ささくれ、ぴっとしてたべた。でもおいしくないね、おかーさん。






 大人になったら、こうしようと決めていた。

 昨日、母の居場所がわかった。私と違っておいしいものを食べていた母。家事をしてくれない母。私を置いてった母。

 あの母にささくれを作って、子どもの頃の私とおそろいにしてあげたいと、ずっと思ってた。


「おかーさん、はさみかして。ごはんのふくろきるよ」

「嫌よ、これから使うもの。あんた、しばらく冷蔵庫のおにぎり食べてなさい」

「……わかった」


 子どもにしつけをして、物がごちゃ混ぜになったままの家を出る。

 ああ、気持ちがスッキリしてる。まるで心のささくれが取れたみたいに、スッキリと。

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蛙の子は 葎屋敷 @Muguraya

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