君のささくれ、そして手のぬくもり。
立坂 雪花
***
「痛っ!」
「どうしたの?」
「ささくれが……」
眠る準備をしていた私はそれを止め、玲奈ちゃんの左手を見る。玲奈ちゃんが痛がっている小指には、痛そうなささくれが――。
高一の私は今、女子寮で生活している。ここで過ごして半年が経つ。私は同じ部屋で過ごしている玲奈ちゃんのことが好きになった。華奢で小さくて、優しい。仕草もゆるりとしていて、全てが可愛いお姫様みたいな玲奈ちゃん。私とは真逆の女の子。今着ているピンクのフリル付きパジャマもとても似合っている。
「切ったんだけどまた同じ場所のささくれが痛くなって……」
中途半端に切って、引っ張られたりしたから更にささくれが深くなっちゃった感じとかかな?
「どれ、私が切ってあげる」
自分のメイクポーチの中から爪切りを出し、そっと玲奈ちゃんの左手に触れた。好きな玲奈ちゃんに触れられる機会がないから貴重。触れた部分が熱くなって、そこに心臓があるようにドクンドクンと強く脈打つ。これ以上緊張しないように、玲奈ちゃんの視線を遮断しながら、また悪化しないように丁寧にささくれを取り除く。
「出来た!」
「ありがとう」
玲奈ちゃんはささくれ部分を確認して微笑んだ。
「ちょっと待ってて?」
いつもつけている桜の香りがするハンドクリームもメイクポーチから出して、香りを嗅いでもらう。
「いい匂いだね」
「もし良かったら、爪周りに使って?」
「いいの? ありがとう。ハンドクリームつけたの何年ぶりだろう」
「普段つけないの? ささくれってほとんど乾燥が原因だから……手も少し乾燥ぎみだったし、もしよかったら一緒に使おう?」
「いいの?」
「うん、いいよ」
玲奈ちゃんの手が私の手と同じ香りに――。
「玲奈ちゃん、手貸して? 私ね、ハンドクリーム塗るの上手いんだよ」
「そうなの? じゃあ、お願いしようかな?」
「詩葉ちゃんの手、暖かくて気持ちいね」
「あ、ありがとう……」
毎日塗りたい。だって玲奈ちゃんの手に触れていたいから。
君のささくれ、そして手のぬくもり。 立坂 雪花 @tachisakayukika
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