十九色目 瑪瑙色(マーナオスー)

烏劣があっさり赦してくれるとは思っていなかった。赦すどころか、裏切った自分を拷問ごうもんすると思っていたから、とても驚いている。

(でも、これはこれで…)

赦してもらえたので、よしとすることにした。

(これでやっと、丹碧さまにお仕えできる)

だが、安心できない。いつ自分を襲ってくるかわからないから。

(私の手で、あの者を排除してみせます。丹碧さま…)

こんなことはするのではなかった、と後悔することになるのは、もう少し先の話しである。




秋霖が帰らないまま、夜伽よとぎが始まってしまった。

(秋霖…。大丈夫かしら…)

どこに行ったかもわからないので不安だ。

この不安が光耀に伝わってしまったらしく、光耀に心配された。

「どうした?丹碧。今日は元気がないな」

「…すみません!私…」

「余に話したら、少しすっきりするかもしれない。気が向けば、話してごらん?」

光耀の優しさに甘え、正直に話す。

「侍女の、秋霖という者が帰っていないのです。何かあったのではないかと不安で…。夜伽に関係のないことを考えてしまい、大変申し訳ございません」

丹碧は深く頭を下げた。

「大丈夫だ。余はそんなことでは怒らない。…それは心配だな。探しに行くか?」

そう言うと、光耀はにやりと笑う。何かいやか予感がした。

(まさか…)



そのいやな予感は当たった。

(本当に…こうなってしまうなんて…)

これは自分のせいだ、と反省た。なぜなら、丹碧が光耀と出逢う前、丹碧は瓦に登っていた。そのことが、光耀に影響されてしまったのだ。

「陛下…。危ないです…。早く戻りましょう…。見つかったら、私の首が…」

そう言うが、光耀はまったく聞いてくれない。

「陛下…」

疲れた顔でもう一度言うと、今度は振り向いてくれた。

「なんだ?」

やはり、聞いてくれていなかった。

「危ないです。早く降りましょう」

「何を言う。こうやって見つけた方が手っ取り早い。余が一番好きなやり方だ。…どうしてだと思う?」

光耀は満点の笑顔を浮かべる。

「…そなたと最初に話したのが、このことについてだからだ」

その顔はこの国の皇帝の顔ではなく、幼い少年のように見えた。

「嬉しいです…が、早く秋霖を見つけましょう。そして、私の首が飛ぶ前に、早く降りましょう…」

戻ってきた秋霖が、ふたりを見てとても驚いている。

「何をしていらっしゃるんですか?!危ないですよ?!」

「すぐ降りる!!」

下にいる秋霖に向かって叫んだ。




瓦から降り、夜伽の続きが行われた。

(もう少し…あのままでいたかった…)

あの者が来てしまったので仕方ないが、本当はもう少しだけあのままでいたかった。丹碧とふたりきりでいれたから。

(余の皇后こうごうになれ…)

「丹碧。余の皇后になる気はないか?」

我慢できず、ついに聞いてしまった。

「ありがとうございます。ですが、私ではあなたさまには到底…」

光耀は丹碧を抱きしめる。

「よい…。そんなこと…。だから、余の皇后になれ…!」

あのときから好きだった、なんてことは言えない。言えば、何かが壊れてしまいそうな気がしたから。

「申し訳ございません…!まだ、覚悟が…」

丹碧を離し、寝台へ向かった。

(まずい。張り切りすぎた…)


次の日、丹碧と話しにくくなってしまった光耀であった。


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色好き妃、皇帝の寵妃となる りな @sunire

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